数字で見る「鍼灸で歩行は変わるか」

リハビリ

21件の研究・1,463名のデータが示すこと

「鍼灸で本当に歩けるようになるの?」。脳卒中のリハビリに取り組む方から、よくいただく質問です。この疑問に、これまでとは違うアプローチで答えた研究が2025年に発表されました。歩幅・歩行速度・歩調など、機械で計測した「歩行の数値」を使って、鍼灸の効果を検証した初めての大規模メタアナリシスです。

この研究について

Sun Z et al.(南京中医薬大学附属病院)が、2025年4月に学術誌 Complementary Therapies in Medicine に発表したシステマティックレビュー&メタアナリシスです。

  • 対象:亜急性期〜慢性期の脳卒中片麻痺患者
  • 研究数:21件のRCT(ランダム化比較試験)
  • 参加者数:計1,463名
  • 特徴:歩行分析システム(機器)で計測した客観的な歩行データのみを採用

 ※ 従来の研究はFMAやBBSなどの「評価スケール」に頼っていましたが、この研究は動作解析システムで直接計測した数値を使っているため、より客観的な根拠として位置づけられます。

研究が示した結果:歩行の何がどれだけ変わったか

鍼灸+リハビリを受けたグループは、リハビリだけのグループと比べて、以下のすべての項目で統計的に有意な改善を示しました。

歩行パラメータ改善の大きさわかりやすく言うと
歩幅・一歩の長さ+7.8 cm一歩一歩が約8cm長くなった
歩調(1分あたりの歩数)+10.4歩/分1分間に10歩以上多く歩けるように
歩行速度+12.3 cm/秒1秒あたり約12cm速くなった
股関節の曲がり角度+2.7度脚が前に出やすくなった
足首の蹴り出し角度+2.1度地面を蹴る力が改善
両足が同時に地面につく時間−7.2%不安定な「両足支持期」が短縮
1歩行周期にかかる時間−0.61秒歩くリズムが速くなった

 (Sun Z et al., Complement Ther Med, 2025)

特に注目したいのは、「歩行速度+12.3 cm/秒」という数字です。脳卒中後の片麻痺では歩行速度が0.2〜0.7 m/秒程度に低下することが知られていますが、約12 cm/秒の改善は日常生活の場面(横断歩道を渡るなど)で実感できる変化といえます。

改善しなかった項目

エビデンスを正確にお伝えするために、改善が確認されなかった項目も記します。

  • 歩幅の左右差(歩行の非対称性)
  • 麻痺側の立脚期・遊脚期の割合
  • 股関節の伸展角度
  • 膝の曲げ・伸ばしの最大角度

これらは、脳卒中の重症度や発症からの経過期間など、個人差が大きく影響する項目です。鍼灸が「すべての歩行問題を解決する」わけではなく、特定の側面を改善する可能性があるという理解が正確です。

なぜ鍼灸で歩行が改善するの?

この研究では、以下の3つのメカニズムが考えられると述べています。

① 脳と脊髄をつなぐ神経回路の修復を助ける

脳卒中後の「ぶん回し歩行」や「引きずり歩き」の主な原因は、脳から脊髄・筋肉への命令ルート(錐体路)の損傷です。鍼灸刺激はこのルートの修復・再配線を助けるタンパク質の産生を促すことが動物実験・基礎研究で示されています。

② 脳への血流を増やす

脳卒中後は脳への血流が不十分になりがちです。プラセボ対照のRCTでは、鍼灸が亜急性期の脳卒中患者の脳血流を両側の半球で有意に増加させることが確認されています。血流の改善は神経の回復を支える基盤になります。

③ 筋肉の突っ張り(痙縮)をほぐし、力を引き出す

脳卒中後の片麻痺では、足首や膝の筋肉が無意識に固まった状態(痙縮)になりやすく、それが「引きずり歩き」や「ぶん回し歩行」の直接原因になります。鍼灸の刺激は足首の筋肉の痙縮を和らげ、逆に弱くなった「つま先を持ち上げる筋肉」の力を引き出す効果が確認されています。

リハりんでの取り組み:鍼灸×歩行訓練の同時進行

リハりんでは、理学療法士・鍼灸師のダブルライセンスを活かし、頭皮鍼を含む鍼灸治療と歩行訓練・バランス訓練を一体的に提供しています。

今回の研究が示すとおり、組み合わせが、単独治療よりも大きな効果をもたらすと考えています。脳が変わりやすい状態を逃さず、リハビリにつなげることがポイントです。

▶ 対応エリア:北区・板橋区

▶ ご相談・お問い合わせ:riharin.kk@gmail.com

▶ Web:pacupuntura.com

まとめ

  • 21件のRCT・1,463名を対象にした大規模解析で、鍼灸+リハビリ群はリハビリ単独群より歩幅・歩行速度・歩調など主要な歩行パラメータが有意に改善した。
  • 特に歩行速度は約12 cm/秒向上し、日常生活レベルで実感できる変化が示された。
  • 機器による客観的計測を使った初めてのメタアナリシスであり、従来のスケール評価に比べてより直接的なエビデンス。
  • すべての問題が解決するわけではなく、特に歩行の左右非対称性などは改善が限定的。
  • リハりんでは「鍼灸→すぐ歩行訓練」の流れで、この効果を最大限に活かしたリハビリを提供しています。

【参考文献】

Sun Z, Sun H, Yu K, et al. A systematic review and meta-analysis of acupuncture’s impact on hemiplegic gait recovery after stroke. Complement Ther Med. 2025;91:103181. https://doi.org/10.1016/j.ctim.2025.103181

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