脳卒中(脳梗塞、脳出血)後、なぜ上肢は「屈曲共同運動」になるのか

リハビリ

― C5–6が支配する“まとめ発火”という正体 ―

脳卒中後の上肢リハビリで、誰もが一度はぶつかる壁がある。
「肘を曲げようとすると、肩もすくみ、前腕は勝手に回内し、手は握り込む」
いわゆる上肢屈曲共同運動(屈曲シナジー)だ。

ストレッチしても
筋を緩めても
「一瞬良くなって、すぐ戻る」

それもそのはずで、この現象の正体は“筋”ではない


結論から言う

屈曲共同運動は
C5–6支配筋が脊髄レベルで“まとめて興奮する”現象である

これは印象論ではない。
2021年に Frontiers in Neurology に掲載された研究が、
この現象を筋電図×脊髄セグメントという切り口で明確に示しているpdf。


この研究、何がすごいのか

この論文のキモは「筋の選び方」にある。

① 同じ動きをするが、神経支配が違う筋を比較

  • 大胸筋 鎖骨部(PC):C5–6
  • 大胸筋 胸肋部(PS):C7–T1

どちらも肩の動きに関与するが、脊髄レベルが違う

② 前腕でも同じ比較

  • 橈側手根屈筋(FCR):C5–6
  • 尺側手根屈筋(FCU):C8–T1

結果はかなり残酷だ

近位筋(大胸筋)

  • 健常者:PCとPSに差なし
  • 脳卒中:PC(C5–6)が有意に高活動

👉 C5–6支配筋が“勝手に巻き込まれる”

遠位筋(前腕)

  • FCRもFCUも
    そもそも活動量が著しく低下
  • 神経支配の違いは関係なし

👉 遠位筋は「使えない」以前に「神経入力が届かない」


なぜC5–6だけが暴走するのか?

答えは下行路の変化にある。

本来

  • 皮質脊髄路(CST)
     → 遠位筋を精密に制御

脳卒中後

  • CSTは損傷
  • 代わりに使われるのが
    網様体脊髄路(Reticulospinal tract)

この経路の特徴はシンプル。

  • 近位筋・姿勢筋に強い
  • 同一脊髄セグメントの運動ニューロンをまとめて興奮させる

つまり、

「肘を曲げろ」という曖昧な指令
→ C5–6の運動ニューロンが一斉点火
→ 肩・肘・前腕が一塊で動く

これが屈曲シナジーの正体だpdf。


「前腕が回内する理由」もここで説明がつく

よくある誤解がこれ。

回内筋が強いから回内する

違う。

正確には
近位のC5–6シナジー出力に、
遠位で抗えない結果、回内位に“落ち着いている”だけ

回内筋をいくら緩めても、
上流(脊髄レベル)が変わらなければ、また同じことが起きる。


じゃあ、臨床で何を変えるべきか

❌ ありがちなアプローチ

  • 回内筋の抑制
  • 手関節・指のストレッチ
  • 痙縮だけを見る

👉 本丸を外している

⭕ この論文が示唆する視点

  • 狙うべきは
    C5–6主導の近位シナジー
  • 遠位は
    • 低負荷
    • 単関節
    • 皮質主導
      別ルート再学習

まとめ

この研究が突きつけている事実は一つ。

上肢屈曲シナジーは
筋の問題ではない
脊髄セグメントの問題だ

ここを理解すると、

  • なぜストレッチが効かないのか
  • なぜすぐ戻るのか
  • なぜ「動かそうとすると固まる」のか

全部、説明がつく。

リハビリも鍼灸も、
狙う階層を間違えないこと
それが、遠回りしない唯一の方法だ。

この論文は一説だ。
だが、“雑に切り捨てていい一説”ではない。

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