痙縮は「悪者」なのか?

リハビリ

脳卒中(脳梗塞、脳出血)後の痙縮は、現場ではしばしば
「取るべきもの」「減らすべきもの」「邪魔なもの」
として扱われがちです。

でも、はっきり言います。
痙縮=一律に悪ではない。
むしろ「脳が必死に作り出した代償戦略」の側面すらあります。

この視点を持てるかどうかで、リハビリの質は大きく変わります。

痙縮とは何か?

痙縮(spasticity)は、単なる硬さ・こわばりではありません。
「速度依存性に増強する伸張反射亢進」 という定義が臨床的に重要です。
これはつまり:

  • 動かす速度が早いほど抵抗が強くなる
  • ゆっくり伸ばすと比較的柔らかいのに、早く伸ばすと急に固まる

この“速さ”との関係こそが、痙縮=反射性亢進の核心です。
この定義は Lance(1980)による古典的定義に基づきます。

痙縮 = 神経学的反射亢進 + 速度依存性の抵抗増大

これはリハ現場で毎日見ている現象と一致します。


痙縮は“壊れた結果”ではなく“適応の結果”でもある

脳卒中後、上位中枢からの運動指令と抑制は大きく低下します。

その結果起こるのは:

  • 随意収縮ができない
  • 抗重力活動が維持できない
  • 関節が不安定になる

ここで身体はどうするか?

👉 脊髄レベルの反射を使って、最低限の張力を確保する

これが痙縮の一側面です。

Lance(1980)の定義は「速度依存性伸張反射亢進」ですが、
臨床的には“使える張力を何とか作ろうとした結果” とも言えます。


痙縮が「役に立つ」場面もある

これはきれいごとではありません。

実際に起こること

  • 立位で下肢が全く抜けてしまう患者
  • 体幹支持が弱く、姿勢保持ができない患者

こうしたケースでは、

  • 軽度の下肢痙縮
  • 伸筋群の張力

立位・移乗を助けている ことが珍しくありません。

📌 つまり
痙縮をゼロにすると、逆に動けなくなる患者もいる

これはボツリヌス療法後に「立てなくなった」と訴える例があることからも明らかです。

痙縮を構成する3つのレベル

痙縮は 単一要素の問題 ではありません。3つのレベルが絡み合います:


① 上位中枢レベル(脳・皮質の損傷)

脳卒中による損傷で以下が起こる:

  • 下行性抑制系(皮質脊髄路・網様体脊髄路)の損失
  • γ運動ニューロンの過興奮傾向
  • 運動麻痺・感覚障害

結果として、脊髄や筋への抑制が外れ、反射回路が暴れ出す。


② 脊髄レベル(反射回路の変調)

ここが痙縮病態の本丸です。

反射性要素が亢進し、具体的には:

  • γ運動ニューロンの活動亢進 → 筋の感受性が上がる
  • Iaシナプス前抑制の低下 → 伸張反射が強くなる
  • Reciprocal inhibition(拮抗筋抑制)の低下 → 共収縮増

要するに、脳からの“ブレーキ”が効かず、脊髄レベルで反射が暴走する。


③ 筋・軟部組織レベル(非反射性要素)

長期の不活動は筋そのものを変質させます:

  • 筋線維が短縮する
  • コラーゲンが蓄積し、組織の剛性が増す
  • サルコメア数の減少 → 伸張時の弾性低下

これが 非反射性の抵抗増大 です。

臨床的にこれが強いと、動かしても反射でなく 構造的硬さ が主因になります。


反射性 vs 非反射性:見極めが全て

「硬い=痙縮」と安易に判断するのは致命的ミス。

反射性が主:

  • 速度依存性あり
  • 姿勢や情動で変動
  • 速い動作で抵抗が急増

非反射性が主:

  • 速度依存性が弱い
  • 常に硬い
  • 関節可動域そのものが減少している

評価を誤ると、ストレッチだけで時間を無駄にする。


どう影響するか:歩行を例にすると

痙縮は歩行の“タイミング”を乱します。

正常なら:

  • 伸張反射は必要な時だけ働く
  • 拮抗筋は適切に抑制される

痙縮患者では:

  • 不適切なタイミングで伸張反射が出現
  • 拮抗筋が収縮すべきでない局面で収縮する(共収縮)
  • 足が振り出せない、ひっかかる、転倒リスク増

これが 歩行のぎこちなさ・非効率性 につながります。
単なる“硬さ”では説明できない運動支配の乱れです。


介入戦略:原因に合わせて使い分け

単純な“硬さストレッチ”だけでは限界です。


反射性優位の場合

神経制御を落ち着かせる戦略:

✔ 遅い動きでのリハビリ
✔ 体幹・全体の安定性を高めて不要刺激を減らす
✔ 医学的介入(状況により)
 - ボツリヌス毒素
 - 末梢神経ブロック
 - 薬物療法

速いストレッチだけでは逆に反射を刺激して悪化させかねない。


非反射性(構造変化)優位の場合

筋・組織そのものへの介入:

✔ 長時間保持ストレッチ
✔ 関節可動域練習
✔ 筋膜・軟部組織アプローチ
✔ 体重支持練習で筋張力を適切に使わせる


まとめ:評価 → 分類 → 介入

痙縮は 反射性と非反射性の合算 です。
だからこそ、

評価して分けて、原因に合った介入を組み合わせること が勝負です。

単にストレッチだけ、ボトックスだけ、練習だけではダメ。
それぞれの“何が硬さを生んでいるのか”を見極める目が最も大事です。

リハビリは “硬さをなくす戦い” ではなく、
適切なタイミングで筋を働かせ、動作へつなぐ最適化 です。


学術的な出典

  • Lance JW. Spasticity: disordered motor control. 1980
  • 反射性・非反射性要素に関する臨床神経科学のレビュー
  • 歩行時の伸張反射と共収縮行動に関する動作分析研究

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