脳卒中後の肩の痛み(片麻痺肩痛)は「肩だけの問題」じゃない

リハビリ

――運動・組織・神経をまとめて攻略する、最新リハの考え方

脳卒中のあと、「麻痺側の肩が痛い」は本当に多いです。ここで大事なのは、肩の痛み=肩関節のトラブルと決めつけないこと。

片麻痺肩痛はだいたい、次の3つが同時進行で絡みます。

  • 運動制御の障害(麻痺、痙縮、肩甲骨と上腕骨の協調不全など)
  • 軟部組織の問題(腱板・腱鞘炎・インピンジメント・二頭筋長頭腱など)
  • 神経系の変調(中枢性疼痛、肩手症候群、痛みの“学習”)

つまり、肩痛は「三つ巴」。肩だけ揉んで終わるほど甘くない。逆に言うと、当てるべきポイントを押さえれば改善余地は普通にあるってことです。

1) 痛みの定義が変わった: “損傷がないのに痛い” は普通に起こる

最近の痛みの考え方は、ざっくり言うとこうです。

  • 組織損傷がなくても痛いことはある
  • 痛みは「症状」じゃなくて、長引くと疾患として扱うべき
  • 心理社会的要因(不安、恐怖、生活環境、睡眠など)も含めて多面的に評価する

これ、患者さんに言うときは一言でOKです。

「痛みは“壊れてるサイン”だけじゃなくて、“神経が過敏になってるサイン”のこともある」

変にスピらず、現実的に。

2) 片麻痺肩痛の正体:3要素を分解すると見える

A. 運動制御の障害:肩が守れない・整えられない

脳卒中後は、肩を安定させる筋が働きにくい。さらに肩甲骨と腕の協調(肩甲上腕リズム)が崩れる。

結果、“いい位置に置いておく”ができない → 肩が引っ張られ続ける → 痛みが育つ。

B. 軟部組織の病変:引っ張られて傷む、挟まって傷む

麻痺で腕がぶら下がる、介助で肩を引く、座位で落ち続ける。

こういう“日常の牽引ストレス”が蓄積すると、腱板や周辺組織に負荷がかかって炎症が起きやすい。

痛みは「ある日突然」じゃなくて、だいたい生活の中で育ちます。

C. 神経系の変調:肩が治っても痛いことがある

中枢性疼痛っぽい要素が混ざると、痛みは「入力」より「処理」の問題になってきます。

さらに、痛みが長引くと脳は痛み回避の動きを学習して、動きが悪くなって、余計に痛む。悪循環。

3) 亜脱臼は“犯人”か? 結論:単独犯ではない。でも放置はアウト

正直、亜脱臼と痛みの関係は 「関連あり」「関連なし」両方の報告があるタイプの話です。

なので雑に言うと、

  • 亜脱臼=痛み、とは断定できない
  • でも、腕が落ち続ける状態を放置すると組織ストレスが増えて痛みの土台になる

だから臨床はこうなります。

「亜脱臼が痛いかどうかは置いといて、落ちっぱなしはやめよう」

当たり前だけど、これが一番効く。

4) 実践編:肩痛を潰す“優先順位”はこれ

ここからが本題。やることはシンプルです。24時間の肩の扱いを変えます。

① まず「保護」:肩を“引っ張られない構造”にする

ポイントは一つ。麻痺腕をぶら下げない。

  • 車椅子:アームサポート(手置き台)を使う
    → 座ってる時間が長い人ほど効果が出やすい
  • ベッド上:クッション・タオルで肩が後方に引かれない位置に
  • テーピング/サポーター:24時間守れるものを優先(介助者が扱えることが重要)
  • スリング(上肢懸垂装具):亜脱臼の整復保持が目的。合うやつをちゃんと選ぶ

ぶっちゃけ、ここで勝負の半分は決まります。

リハ室の40分より、生活の23時間20分が強い。残酷だけど真実。

② 次に「整える」:動かし方を作り直す(肩甲骨を無視しない)

肩だけを動かすと、だいたい詰まります。

肩は肩甲骨が動いて初めて安全に動くので、

  • 肩甲骨の前後傾・内外転の誘導
  • 体幹〜肩甲帯の協調
  • いきなり挙上で攻めない(痛みがあるほど逆効果)

ここは理学療法・作業療法の腕の見せ所。

③ それでも残る痛みには「神経に効かせる」:ミラーセラピー

“締め付けられる”“引きつる”みたいな痛み、CRPSっぽい要素がある痛み。

こういうのは入力(組織)より処理(脳)の比率が上がってることが多い。

ミラーセラピーの基本はこれだけ:

  • 鏡で非麻痺側の手を見せる(麻痺側が動いてる錯覚を作る)
  • 10分程度、指・手・肘の簡単な動きを反復
  • 「麻痺側を動かしてるイメージ」を乗せる

理屈は難しく見えるけど、やってることは脳の誤作動を上書きする作業です。

④ “動くこと”そのものが鎮痛になる:EIH(運動誘発性鎮痛)

運動すると、脳内で痛みを抑える方向の化学物質が出ます。

セロトニン/ノルアドレナリン、内因性オピオイド、エンドカンナビノイド、そして報酬系のドパミン。

さらにBDNFみたいな“神経の栄養”側も動く。

要は、運動は天然の鎮痛剤+神経のメンテ。

ただし注意点も一つ。

痛みでフォームが崩れた運動を反復すると、痛み回避パターンを強化することがある。

だから「量」より「質」。雑な根性論は肩痛に嫌われます。

5) 現場で使えるチェックリスト(超実用)

肩痛がある人に、最低これを確認してください。

  • 腕が座位で落ちてない?(落ちてたらまず環境調整)
  • 移乗や更衣で肩を引っ張ってない?(介助者の動作指導)
  • 夜間のポジショニングが崩れてない?(ここが盲点)
  • 痛みのタイプは?
    • ズキズキ・動かすと増える → 組織要素が濃い
    • 締め付け・焼ける・触れるだけで痛い → 神経要素が濃い
  • 恐怖・不安・睡眠は荒れてない?(ここを無視すると慢性化しやすい)

まとめ:肩痛は「肩の治療」では勝てない。“生活+神経+運動”で勝つ

片麻痺肩痛は、

運動制御 × 組織ストレス × 神経変調 のミックスです。

だから戦略はこう。

  1. 24時間の保護(引っ張らせない)
  2. 肩甲帯を含めた運動の再学習
  3. 中枢に効かせる(ミラーセラピー等)
  4. 運動で鎮痛を引き出す(質重視)

「麻痺だから肩が痛いのは仕方ない」は、ただの思考停止です。

仕方ないのは“放置”したとき。やることやれば、ちゃんと変わります。

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