まず、何が問題なのかをおさらい
脳卒中の後遺症として起きる「共同収縮(きょうどうしゅうしゅく)」とは、曲げ筋と伸ばし筋が同時に力を入れてしまう状態のことです。
本来なら「腕を伸ばすとき、曲げ筋は緩む」はずなのに、それができなくなっています。綱引きで両チームが同時に引っ張り合っているようなもので、どれだけ頑張っても体がスムーズに動きません。
このページでは、この「引っ張り合い」を減らすために実際に行われているリハビリの方法を、わかりやすくご紹介します。
方法① 電気刺激療法(NMES・TENS)
電気の力で「緩むべき筋肉」を助ける
硬くなっている筋肉に電気を当てるのではなく、その反対側の筋肉(拮抗筋)に電気刺激を与えるのがポイントです。
たとえば足首が内側に引っ張られてしまう場合、引っ張っている筋肉ではなく、すねの前側の筋肉(前脛骨筋)に電極を貼ります。この刺激が脊髄に伝わり、「反対側を緩めなさい」という信号を引き出す仕組みです。
治療は1回20〜60分程度。さらにストレッチと組み合わせると、電気刺激だけよりも効果が高まることが分かっています。
方法② ボツリヌス注射+運動療法のセット
注射で「邪魔」を取り除き、そのすきに練習する
ボツリヌス注射(ボトックス)は、過剰に収縮している筋肉の神経信号を一時的にブロックする治療です。
ただし、注射だけでは限界があります。注射は「神経からの過剰な命令」を抑えることはできますが、筋肉自体が硬くなっている部分には効きません。
だからこそ、注射後の「筋肉が少し楽になった時期」に、運動療法や装具療法を集中的に行うことが重要です。神経の邪魔が減った状態で正しい動きを繰り返し練習することで、脳が「新しい動き方」を学習していきます。注射と練習は、セットで考えるものなのです。
方法③ 装具療法
体を外側からサポートして、正しい動きを覚えさせる
装具は「動けない部分を補う道具」というイメージが強いかもしれませんが、もう一つ大切な役割があります。それは、共同収縮による誤った動きを防ぎながら、正しい動きのパターンを繰り返し経験させることです。
たとえば足首の動きを細かく調節できる装具(ゲイトソリューションなど)を使うと、歩くときに足首がスムーズに動くようになり、膝の曲がりや歩き方のバランスが改善することがあります。
また、共同収縮が続くと関節がだんだん変形してしまうことがありますが、装具はその予防にも役立ちます。
方法④ 体外衝撃波療法(ESWT)
音の波で、筋肉の過剰な緊張をほぐす
「衝撃波」と聞くと怖そうに聞こえますが、皮膚を切ることはありません。体の外から音の波(圧力波)を当てる、メスを使わない治療法です。
脊髄レベルの過剰な興奮を落ち着かせる効果や、組織レベルでの血流改善・炎症抑制作用が報告されており、痙縮や共同収縮を和らげる可能性が示されています。
注射が苦手な方や、電気刺激では効果が限られた方に対して、選択肢の一つとして活用されています。
方法⑤ tDCS(経頭蓋直流電気刺激)
脳に直接はたらきかけて、信号のバランスを整える
tDCS(ティーディーシーエス)は、頭皮の上に電極を貼り、ごく微弱な電流を流すことで脳の活動を調整する治療法です。痛みはほとんどなく、リハビリと組み合わせやすいのが特徴です。
脳卒中では「アクセルとブレーキのバランスが崩れた状態」が続いていますが、tDCSはこのバランスを脳のレベルから整えようとするアプローチです。具体的には、損傷を受けた側の脳(患側)の運動野を活性化させたり、過剰に働きすぎている反対側の脳(健側)を少し抑えたりする使い方が研究されています。
リハビリの直前や最中に行うことで、「脳が学習しやすい状態」を作り出す効果が期待されており、運動療法との組み合わせ研究が世界中で進んでいます。
方法⑥ TMS(経頭蓋磁気刺激)
磁気の力で、脳の「過剰な興奮」を鎮める
TMS(ティーエムエス)は、頭の外から磁気パルスを当てて脳の神経細胞を刺激する方法です。特に「反復TMS(rTMS)」は、繰り返し刺激を与えることで脳の興奮性を持続的に変化させることができます。
脳卒中後の共同収縮や痙縮に対しては、主に2つの使い方があります。一つは低頻度のパルスで健側の脳を少し抑制する方法、もう一つは高頻度のパルスで患側の脳を活性化させる方法です。どちらも「アクセルとブレーキのバランスを取り戻す」ことを目指しています。
ボツリヌス注射との併用や、リハビリと組み合わせた研究も行われており、神経系に直接はたらきかけられる点でとくに注目されている手法です。
方法⑦ 目標を決めて、「生活の中の動き」で練習する
「何のために動けるようになりたいか」から逆算する
共同収縮は、単に筋肉を測定するだけでは十分に評価できません。実際の生活の中で「どの動作のときに、どの筋肉が邪魔をしているか」を見ていく必要があります。
そこで活用されるのがGAS(目標達成スケーリング)という方法です。「一人でスプーンを使って食事したい」「杖なしで10メートル歩きたい」といった具体的な生活目標を立て、それを妨げている共同収縮のパターンを分析しながら、段階的にトレーニングを積み上げます。
目標がはっきりすると、練習の意味も実感しやすくなり、モチベーションの維持にもつながります。
まとめ
共同収縮の改善に「これ一つで完璧」という方法はありません。電気刺激・注射・装具・衝撃波・脳への刺激・運動学習——これらを組み合わせて、その人の状態や目標に合わせて組み立てていくことが大切です。
担当の理学療法士・作業療法士と相談しながら、「どの動きを取り戻したいか」を一緒に考えてみてください。体の変化は時間がかかることも多いですが、アプローチを続けることに意味があります。

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