はじめに
「鍼灸って本当に脳に効くの?」
そんな疑問を持たれる方も多いと思います。
近年、医学の世界では「鍼をすると脳のどの部分が反応するのか」を**脳画像(fMRI)**を使って調べる研究が盛んに行われています。つい最近、世界的に権威のある医学誌に、**太衝(たいしょう/LR3)**という足のツボに鍼をしたとき、脳がどう反応するかをまとめた研究が発表されました。
太衝は足の親指と人差し指の骨の間にある「肝経(かんけい)」という経絡の代表的なツボです。古くから 自律神経を整える、痛みを和らげる、気分を改善する などの作用があるとされ、幅広い症状に用いられてきました。
最新研究でわかったこと
研究チームはこれまでに行われた10本の脳画像研究をまとめて解析しました。その結果、太衝に鍼をすると脳の以下の部分が反応することが分かりました。
- 体性感覚野(S1):体の感覚を感じ取る場所
- 視床:痛みや感覚を中継する「ハブ」
- 前頭葉(中前頭回・上前頭回):考える力や感情をコントロールする場所
さらに、「鍼を長く置いておくほど、前頭葉の働きがより強まる」という結果も出ています。つまり、ただ鍼を刺すだけでなく、刺激の時間が脳の働きに影響するということです。
これは「鍼灸が脳に作用する」ということを科学的に裏づける、とても大きな発見です。
鍼で反応した脳ネットワーク(6つ)
- 基底核ネットワーク
→ 動きのスムーズさや習慣的な動作に関係。
→ リハビリで「歩く」「立つ」など繰り返しの動作を練習するときに重要。 - 聴覚ネットワーク
→ 音を聞くだけでなく、注意や感情の処理にも関わる。
→ 鍼で落ち着いた気分になれる背景かも。 - 左の実行制御ネットワーク(LECN)
→ 計画を立てたり、考えながら動いたりする力。 - 右の実行制御ネットワーク(RECN)
→ 注意を切り替えたり、集中する力。 - 後部サリエンスネットワーク
→ 「大事な刺激」に注意を向けるシステム。痛みや体の違和感にも敏感に反応する。鍼でここが調整されると、痛みに振り回されにくくなる。 - 感覚運動ネットワーク
→ 感覚と運動をつなぐ基本回路。リハビリの効果が出やすくなる土台。
脳のネットワークはどうやって調べたの?
「鍼をすると脳のネットワークが反応する」って言われても、ちょっと難しいですよね。
研究ではこんな方法で調べていました。
- 脳の地図を集める
まず世界中で行われた10本の研究から、太衝(LR3)に鍼をしたときに「どの場所の脳が光ったか」という情報を集めます。
(これはfMRIという脳の写真を使った研究でわかるものです) - みんなに共通する場所を探す
集めたデータを重ね合わせて、「多くの人で共通して反応していた脳の場所」を絞り込みます。 - 脳の“つながりマップ”に重ねる
脳は「一人で働く場所」ではなく「チームで動くネットワーク」があります。
研究チームは、あらかじめ決められた14種類の「脳のネットワーク地図」と照らし合わせて、反応した場所がどのネットワークに入るかを調べました。 - 大きく反応していたネットワークを“有効”と判断
その結果、6つのネットワークでハッキリと反応が出ていたことがわかったのです。
たとえるなら、
- 「鍼をしたら脳のいろんな場所にランプがついた」
- 「そのランプを線で結んでいくと、6つの“電気回路(ネットワーク)”が特に強く光っていた」
というイメージです。
つまり鍼は、脳の中で「痛み」「気分」「体の動き」に関係するチームをまとめて活性化していることがわかったのです。
理学療法とのつながり
興味深いのは、この研究で反応が見られた脳の場所が、理学療法でもとても重要な役割を持つ領域だということです。
- 痛みを和らげる回路
→ 理学療法のストレッチや運動も、同じように痛みを感じにくくする神経回路に働きかけます。 - 感情ややる気をコントロールする前頭葉
→ リハビリを続けるうえで「やる気」や「集中力」はとても大切。鍼で前頭葉が整うことで、リハビリに前向きに取り組める可能性があります。 - 体の感覚と運動をつなぐネットワーク
→ 理学療法では「正しい感覚を得ながら動きを学習する」ことがポイント。鍼で感覚がクリアになると、その後の運動学習がスムーズになると考えられます。
つまり、**鍼で「脳を整える」 → リハで「動きを作る」**という流れができるわけです。
患者さんにとってのメリット
鍼とリハビリを組み合わせることで、次のようなメリットが期待できます。
- 痛みが軽減してリハビリが行いやすくなる
→ 痛みのせいで動かせなかった関節や筋肉も、スムーズに使えるようになるかもしれません。 - 気分が落ち着き、リハへの意欲が高まる
→ 「今日はやりたくない…」が減り、「もう少し頑張ってみよう」という気持ちに変わりやすくなります。 - 脳の回路が活性化し、運動や学習の効果が高まりやすい
→ 脳卒中のリハビリや新しい動作を覚える場面で、効果が上がりやすい可能性があります。
特に脳卒中後の患者さんや、慢性的な腰痛・神経痛を抱えて「リハビリをやりたいけど痛くてつらい」という方にとって、鍼とリハビリの組み合わせは大きな助けになるかもしれません。
まとめ
今回紹介した研究は、太衝(LR3)に鍼をすると、脳の「痛み・感情・学習」に関わる場所が活性化することを示しました。
これは「鍼灸と理学療法を組み合わせる意味」を科学的に裏づける、とても大切な成果です。
「鍼で整えて、リハで動く」
この2つの力を組み合わせることで、患者さんの回復をもっと前に進められると、私たちは考えています。


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