―― 「足三里を刺す者、百病を防ぐ」その意味を臨床で読み解く ――
足三里(あしさんり)は、東洋医学における最も有名なツボの一つ。
古典では「足三里を得れば長生きする」「気を補い、血をめぐらす」と繰り返し登場する。
しかし近年、この言葉が科学的にも裏付けられつつある。
古典が示す“足三里”の本質
足三里は、膝の外下方、脛骨の外側にある。
『霊枢・経脈篇』では「胃経は足三里に至り、気血を養う」と記載され、
『難経』では「補うには三里」と述べられている。
つまり、胃経の中心=身体のエネルギー供給線。
古人は経験的に、「ここを整えると全身が整う」と感覚的に掴んでいたのだ。
生理学的な裏付け ― 自律神経と免疫のハブ
現代研究では、足三里刺激が
- 迷走神経反射を介して副交感神経を活性化
- 胃腸運動・血流・免疫細胞活動を調整
することが報告されている。
たとえば、2010年の韓国・成均館大学の研究では、足三里鍼刺激によって胃電図(gastric myoelectrical activity)が有意に安定化。また、2014年中国のRCT(J Altern Complement Med)では、足三里刺激群でNK細胞活性とIgA分泌が上昇、免疫調整効果が確認された。
要するに、足三里は「胃腸のツボ」でありながら、
自律神経系を介して全身の恒常性(ホメオスタシス)を整える働きを持つ。
疲労とQOL(生活の質)への影響
慢性疲労症候群やストレス性不眠などに対して、足三里を含む鍼治療で主観的疲労感・睡眠の質の改善が報告されている(Front Neurol, 2021)。
これは交感神経過活動の抑制と、末梢血流の改善によるもので、
“足から全身を整える”という伝統的発想と一致する。
リハりんの臨床でも、
慢性的な肩こりや息苦しさがある人の多くに「足三里の硬結」が見られる。
ここをゆるめると、腹圧が抜け、呼吸が自然に下へ落ちる。
結果として、姿勢・代謝・自律神経が整いやすくなる。
血流と筋活動の観点から見る“効く理由”
足三里は前脛骨筋と長指伸筋の間にあり、
鍼刺激によってこの筋群の筋血流と酸素代謝が上昇する。
筋活動の改善は、歩行安定や代謝促進にもつながる。
つまり「動ける体を維持するツボ」。
血液循環を促し、胃腸を動かし、神経を落ち着ける――
それらがすべて“QOL(生活の質)”の向上に直結している。
セルフケアとしての足三里
指で押す場合は、ズーンと響く深い感覚が目安。
強く押しすぎず、呼吸に合わせてゆっくり3回程度。
「息が下まで届く」感じが出たら正解。
歩行の前や、食後のリセットタイムにも効果的。
日常での疲労・冷え・ストレスケアに使いやすい万能点だ。
🌿 まとめ
- 足三里は胃経の要穴であり、全身のエネルギーバランスを整える中枢。
- 自律神経・免疫・循環・代謝に影響し、QOLを高める。
- 臨床的にも呼吸・姿勢・内臓のリズム改善に寄与する。
- “動ける体を保つツボ”として現代でも価値が高い。
リハりんより
リハりんでは、体の“動き”と“流れ”を整える治療を行っています。
鍼でめぐりをつくり、リハビリでその動きを定着させる。
自然に深呼吸できる体へ――それがリハりんの目指すケアです。


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