執筆:理学療法士・鍼灸師 リハりん代表
「退院してから、なんとなく回復が止まった気がする」
「病院にいるときより歩けなくなってきた」
「家族はよかれと思ってお世話しているのに、なぜか本人の調子が悪い」
こういった変化には、原因があります。
脳卒中で退院した後には、知っておかないと陥りやすい「落とし穴」があります。この記事では5つのパターンを具体的に解説し、それぞれの対処法をお伝えします。
これらのほとんどは、知っていれば防げることです。
落とし穴① リハビリの量が激減する
よくある状況
入院中は毎日リハビリがありました。しかし退院後は週1〜2回、場合によってはゼロになってしまった。
放置するとどうなるか
脳の回復には「反復と量」が必要です。量が減ると回復が止まるだけでなく、せっかく取り戻した機能が少しずつ落ちていくことがあります。
「退院後は自然に回復する」という思い込みが、この落とし穴を深くします。
対処法
退院後すぐにリハビリの継続先を確保することが大切です。自費リハビリ・介護保険の訪問リハビリ・自主練習を組み合わせて、入院中に近い量を維持しましょう。
落とし穴② 麻痺側を使わない習慣がつく(学習性不使用)
よくある状況
麻痺側の手足が動かしにくいので、自然と非麻痺側だけで生活するようになった。
放置するとどうなるか
「学習性不使用(Learned Non-Use)」といって、使わない期間が続くほど脳が「この手足は使わなくていい」と学習してしまいます。
麻痺が軽くても重くても起きる現象で、放置すると回復できる機能を失っていきます。
対処法
麻痺側を意識的に使う場面を日常生活の中に作りましょう。「食事のときに麻痺側の手を添える」「立ち上がりのときに麻痺側に荷重する」など、小さなことから始めるのが有効です。
リハビリで専門家に具体的な方法を教えてもらうのが一番確実です。
落とし穴③ 家族が「やってあげすぎ」になる(過介助)
よくある状況
家族が心配するあまり、本人がやれることまで手伝ってしまっている。
放置するとどうなるか
介助する側は善意ですが、過介助は本人の「自分でやる機会」を奪います。脳の回復には「自分で動こうとする」という能動的な努力が欠かせません。
「やってもらえる」状況が続くと、本人の意欲まで落ちることがあります。
対処法
「できること」と「介助が必要なこと」を専門家と一緒に整理しましょう。訪問リハビリでは、ご家族への介助量の調整指導も行っています。
「見守る勇気」を持つことが、本人の回復を支えます。
落とし穴④ 外との接点が切れて意欲が落ちる(社会的孤立)
よくある状況
退院後に外出が減り、家の中だけで過ごす日々が続いている。
放置するとどうなるか
社会的なつながりが減ると、精神的な意欲が低下しやすくなります。意欲の低下はリハビリの質・量を直接下げます。
「別に外に出なくてもいい」と本人が言い始めたら、注意が必要なサインです。
対処法
定期的に「外部との接点」を意識的に作りましょう。訪問リハビリはセラピストが自宅を訪れるため、外出しなくても外との接点になります。
目標を「外出して〇〇したい」という形にすることで、意欲のエンジンにもなります。
落とし穴⑤ 「もう回復しない」と諦める(思い込みによる停止)
よくある状況
病院で「これ以上は難しい」と言われた。本人や家族が改善を諦めてしまった。
放置するとどうなるか
「プラトー」という言葉を医療者から聞いて、リハビリをやめてしまうケースは多くあります。しかし実際には「病院の保険リハビリの範囲ではこれ以上難しい」という意味であることがほとんどです。
脳の可塑性は何年後でも残っており、適切な量と方法があれば改善は起きます。
対処法
「諦めない」は精神論ではありません。「正しい情報を持つ」ことが出発点です。
発症から1年・2年後でも改善した方はたくさんいます。まず専門家に現状を評価してもらうことから始めてみてください。
退院後セルフチェックリスト
今の状況を確認してみましょう。
□ 退院後もリハビリの量を確保できているか?
□ 麻痺側の手足を意識的に使う習慣があるか?
□ 家族が「やってあげすぎ」になっていないか?
□ 週に1回以上、外との接点(訪問・外出)があるか?
□ 「もう改善しない」と本人・家族が思い込んでいないか?
1つでも「いいえ」があれば、専門家への相談をおすすめします。
まとめ
脳卒中退院後の5つの落とし穴を整理します。
● 落とし穴① リハビリ量の激減 → 退院直後から継続先を確保する
● 落とし穴② 学習性不使用 → 麻痺側を意識的に使う場面を作る
● 落とし穴③ 過介助 → 「できること」は本人にやってもらう
● 落とし穴④ 社会的孤立・意欲低下 → 外部との接点を維持する
● 落とし穴⑤ 諦めによる停止 → まず専門家に評価してもらう
これらのほとんどは、知っていれば防げることです。
退院後すぐに専門家と一緒に確認しておくことをおすすめします。


コメント