― スクリーニングではなく「介入設計のための情報」として ―
パーキンソン病(PD)のリハビリテーションにおいて、MMSEやMoCA-Jといった認知機能検査は広く用いられている。しかし臨床現場では、
「点数は取れているのに生活で崩れる」
「点数が低い割に、運動課題はこなせる」
といった乖離を経験することが少なくない。
結論から言えば、PDにおける認知機能評価は“可否判定”ではなく、運動療法の設計情報として再定義すべきである。
1. PDにおける認知障害の本質:問題は「知能」ではない
PDの認知機能障害は、記憶や言語よりも
- 注意配分
- 実行機能
- セットシフティング
に表れやすい。
そのため、MMSEやMoCA-Jの総合点のみでは、日常生活における転倒・姿勢崩れ・すくみ足のリスクを十分に説明できないケースが多い。
特に重要なのは、
「単一課題では成立するが、二重課題で破綻する」
という特徴であり、これは運動機能そのものよりも、注意資源の配分戦略の問題として捉える必要がある。
2. 認知評価の臨床的役割①:デュアルタスク耐性の推定
認知機能評価は、直接的に歩行や立位を測るものではないが、
- MoCA低下例でデュアルタスク歩行コストが増大
- 実行機能低下と転倒リスクの関連
といった報告が示す通り、動作中の注意分配能力を推定する材料にはなり得る。
臨床では以下をセットで捉えることが有効である。
- MoCA / FAB
- TUG(通常)
- TUG-cognitive / 歩行+会話
ここで重要なのは点数そのものではなく、
「課題を優先すると姿勢制御が犠牲になるか(postural second)」
という戦略の見極めである。
3. 認知評価の臨床的役割②:キューイング戦略の選択
PDでは外部キュー(視覚・聴覚)が運動を促通する一方、
認知負荷が高い症例ではキュー過多が逆効果になる場合がある。
認知評価を基に、
- 外部キュー依存型(環境設定重視)
- 内的感覚誘導型(後方歩行、視覚遮断課題など)
のどちらが適切かを判断することが、介入効率の差を生む。
4. 認知評価の臨床的役割③:「準備期」をデザインする
PD患者では、動作開始前の準備(姿勢・注意・意図)が不十分なまま運動が始まり、結果として破綻するケースが多い。
認知機能評価の結果を踏まえ、
- 動作前に何を優先させるか
- 注意をどこに向けさせるか
- 言語指示をどこまで簡略化するか
を明確化することで、Postural First Strategyを実装しやすくなる。
5. 数値の限界と、定期評価の意味
MMSEやMoCA-Jは、
- 覚醒度
- 服薬状態(オン・オフ)
- 疲労
の影響を強く受ける。
したがって、単発の数値で判断するのではなく、
年1回程度の定期評価を「経時的変化」として扱うことに意味がある。
特に、
- 非運動症状(睡眠・便秘・抑うつ)の改善
- 運動耐性の向上
とともに認知スコアが改善する症例では、多職種介入の効果を裏付ける指標としても機能する。
6. まとめ(臨床への落とし込み)
PDリハにおける認知機能評価は、
- 可否判定のための検査ではない
- 転倒リスク評価の代替でもない
「この患者に、どういう条件なら動作が成立するか」
を見抜くための、設計情報である。
点数を見るよりも、
- どこで注意が抜けるか
- 何を優先すると崩れるか
そこを言語化できた時点で、
その認知評価は“臨床で使えた”と言っていい。


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