東洋医学で紐解く「便秘と下痢」のメカニズムと鍼灸治療

手技

日々の臨床で遭遇することの多い便秘や下痢。これらは単なる排泄のトラブルではなく、体内の「熱」「気」「血」の乱れ、そして五臓六腑の連携不足のサインです。今回は、ソースに基づき、それらの病態把握と、臨床で即戦力となる仙骨部への刺鍼技術について詳しく解説します。

1.便秘(便閉)の病態を分類する

便秘は大きく分けて「実証」と「虚証」に分類されます。

実証の便秘:熱秘と気秘

熱秘(実熱証):

辛いものや熱いものの食べ過ぎにより体内に「実熱」が溜まった状態です。症状としては、便が硬く乾燥し、口の渇き(高渇)や顔面紅潮が見られます。

治療: 清熱(熱を去る)が主眼となります。合谷や曲池は、大腸経のツボであると同時に清熱効果が高いため、よく用いられます。

気秘(期待証):

主にストレスやイライラなどの「肝期待」によって起こります。便意はあるもののすっきり出ないのが特徴で、ゲップ(愛気)などの気滞症状を伴います。

虚証の便秘:脾虚と血虚

脾虚(気虚):

消化吸収を司る「脾」が弱まり、「後天の精(エネルギー)」が作れなくなることで起こります。その結果、呼吸に関わる「肺気」も弱まり(気海証)、排便する力が不足します。「出し始めは硬いが、後は軟らかい」「力んでもなかなか出ない」といった特徴があります。

血虚:

特に「肝血」が不足し、大腸を潤すことができなくなる(需要できない)状態で起こります。

2.下痢(泄瀉)の病態と特徴

下痢もまた、外からの邪気(外感性)や内臓の不調によって引き起こされます。

寒湿性(患者によるもの):

冬場などに多く見られ、冷えによって「容器」が損なわれることで起こります。特徴的な症状は「水様便」で、水のような形のない便が勢いよく出ます。

肝脾不和(かんぴふわ):

感情の変化や緊張によって「肝」が「脾」を攻撃することで起こります。お腹の張り(腹脹)やガス、ゲップ、酸が上がってくるような感覚を伴うのが特徴です。

腎陽虚(じんようきょ):

慢性病や加齢により、生命のエネルギー源である「腎陽」が衰えることで起こります。明け方に下痢をする「五更瀉(ごこうしゃ)」が見られることもあります。

3.臨床の極意:仙骨部へのアプローチ

臨床において、便秘や下痢の特効的なアプローチとして注目すべきは仙骨部(S2〜S4)排便反射の中枢として非常に重要です。

仙骨刺鍼のテクニック

部位と方向:

上後腸骨棘の間にある「次髎(じりょう)」や「中髎(ちゅうりょう)」を狙います。骨の傾斜に合わせて針を寝かせ、水平に近い角度で刺入するのがコツです。

吸い込まれる感覚:

正しい位置に入ると、針が「勝手に吸い込まれるように」スッと入っていき、深部で骨膜に触れるような独特の抵抗感(キュッキュという感覚)があります。

パルス(電気刺激)の設定:

50Hz程度の周波数でパルスをかけると、筋肉が収縮し、神経刺激として最も効果的であるとされています。これは筋パルス(筋肉への刺激)ではなく、神経パルス(仙骨神経叢への刺激)を狙うためです。

消化器以外への応用

この仙骨部への刺激は、消化器症状だけでなく、以下のような幅広い疾患に応用が可能です。

不妊治療:血流改善や神経調整を目的とします。

泌尿器系:過活動膀胱や前立腺肥大など。

精神面: 安眠作用や精神を落ち着かせる効果があり、特に女性の患者さんに好評なケースが多いです。

まとめ

便秘や下痢の治療は、単にツボを刺激するだけでなく、それが「熱」によるものか「冷え」によるものか、あるいは「エネルギー不足(虚)」によるものかを見極めることが不可欠です。そして、仙骨部への的確な技術を組み合わせることで、臨床の幅は大きく広がります。

体の不調を整えることは、「流れの滞った川の泥をさらい、水量を調節して、再び清らかな流れを取り戻す作業」に似ています。東洋医学の知恵を借りて、患者さんの心身の「流れ」をスムーズに整えていきましょう。

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