── 歩行バイメカニクス研究が示した意外な真実
「右腰が痛い=右に体重をかけすぎている」
「左右のバランスが崩れているから腰痛になる」
臨床でも、SNSでも、よく聞く説明だ。
だが結論から言う。これは“気持ちいい説明”であって、事実とは限らない。
今回は
慢性非特異的腰痛(NCLBP)と歩行中の左右差を真正面から検証した論文をもとに、
「腰痛=左右差」という思い込みを一度、壊す。
研究の概要(シンプルに)
- 対象
- 慢性非特異的腰痛(NCLBP)20名
- 健常者20名
- 年齢・身長をマッチ
- 課題
- 普通に歩くだけ
- 評価
- 床反力(Ground Reaction Force)
- 左右差を Asymmetry Index(ASI) で定量評価
要するに、
「歩いているとき、左右の脚にどれくらい差があるのか?」
を数字で見た研究だ。
結果①:歩き方そのものは変わらない
まず意外な事実。
- 歩行速度
- ケイデンス
- ストライド長
👉 腰痛があっても、健常者とほぼ同じ
つまり
「腰が痛いから歩き方が明らかにおかしい」わけではない。
結果②:左右差は“ほぼ存在しない”
ここがこの論文の核心。
- 垂直方向の床反力
- 前後方向
- 内外側方向
すべてにおいて、左右差(ASI)に有意差なし
右が痛くても、左が痛くても、
片側だけに荷重を逃がしている証拠は出なかった。
じゃあ、何が違ったのか?
唯一、有意差が出たのはこれ。
👉 蹴り出し期(push-off)の床反力が低い
しかも重要なのはここ。
- 低下していたのは
「痛い側だけ」ではない - 両脚とも、同時に出力が落ちている
これは左右差の問題ではない。
著者の結論:腰痛者は「逃げていない」が「抑えている」
この研究では、慢性腰痛者の行動様式を
Avoidance–Endurance Model と解釈している。
簡単に言うと:
- 動かないわけではない
- でも
無意識に“全体の出力”を落としている
つまり
左右どちらかをかばうのではなく、両方とも本気を出していない。
臨床でよくある誤解
❌「右腰が痛い → 右に問題がある」
❌「左右差を整えれば腰痛は良くなる」
⬇︎
この論文が示す現実は、もっと厄介だ。
腰痛の本質は「左右差」ではない
慢性腰痛で本当に起きているのは:
- 中枢神経レベルでの
運動出力のセーフティ設定 - 体幹と下肢の協調低下
- 「痛みが出ない範囲」で動こうとする
無意識のブレーキ
だから
左右を揃えても、
フォームを整えても、
出力が戻らなければ腰は変わらない。
じゃあ、リハビリで何をすべきか?
答えは明確。
- 左右調整より
👉 出力再教育 - 可動域より
👉 蹴り出し・推進力 - 姿勢修正より
👉 「安心して力を出せる身体」作り
運動療法も、鍼灸も、徒手も、
最終目的は一つ。
「この動き、もう全力出しても大丈夫だよ」
と脳に再学習させること。
まとめ
慢性腰痛は、
- 左右差の問題ではない
- フォームの問題だけでもない
“力を出さない戦略”が固定化した結果だ。
もし
「左右のバランスを整えましょう」
だけで説明されてきたなら、
それは半分しか真実じゃない。


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