首の痛みは「体のふらつき」の原因に?実験で明らかになった意外な関係

疼痛

日常生活で首の痛みを感じることはありませんか?実は、その痛みがあなたの「立ち姿勢の安定性」を損なっているかもしれません。

今回は、ニコラ・ヴュイエルム(Nicolas Vuillerme)氏らによる研究資料をもとに、首の筋肉の痛みとバランス能力の意外な関係について解説します。

1. なぜ「首」の痛みがバランスに関係するのか?

直立姿勢を保つという行為は、視覚、前庭感覚(耳の平衡感覚)、そして体中の体性感覚からの情報を脳が統合することで成り立つ複雑なタスクです。

特に首の筋肉は、頭の位置や動きを察知するための固有受容感覚(自分の体がどこにあるかを感じる感覚)において重要な役割を果たしています。研究によると、慢性的な首の痛みを持つ患者は、健康な人に比べて姿勢の制御が不安定になることが報告されてきました。

2. 実験:首の「痛み」そのものがバランスを崩すのか?

これまでの研究では、痛みの「原因(怪我など)」によるものか、それとも「痛みそのもの」が影響しているのかが不明確でした。そこで研究チームは、健康な若者16名を対象に、電気刺激によって人工的に首の筋肉(僧帽筋)へ痛みを引き起こす実験を行いました。

【実験の条件】

  • 視覚を遮断: 視覚による補正を防ぐため、目をつぶった状態で計測。
  • 痛みの誘発: 僧帽筋に電気刺激を与え、「強い痛み」を感じる状態を作る。
  • 計測内容: 足圧中心(CoP)と重心(CoM)の揺れを精密に測定。

3. 驚きの結果:痛みがあるだけで「揺れ」が増大

実験の結果、首に痛みを感じている間は、痛みがない時に比べて体の揺れ(CoPおよびCoMの分散、範囲、平均速度など)が明らかに増加することが分かりました。

具体的には、以下のことが確認されています:

  • 姿勢が不安定になる: 揺れの幅が広がり、より不安定な状態になった。
  • 修正の頻度が増える: 姿勢を戻そうとする動きの速度や周波数が高くなった。

この不安定さは、実験の最初から最後まで一貫して見られました。

4. なぜ痛みでふらつくのか?(3つの仮説)

研究では、なぜ痛みがバランスを阻害するのかについて、いくつかの仮説を検討しています。

  1. 注意力の散漫: 「痛みに気を取られてバランスがおろそかになった」という説ですが、他の研究では計算などの課題を与えても揺れが減る(逆に安定する)ケースもあり、この説は否定的です。
  2. 不安や緊張: 「痛みによる不安で体が硬くなった」という説ですが、実験データは体が硬くなる(ステフニング戦略)パターンとは異なっていました。
  3. センサーの乱れ(有力): 最も有力なのは、痛みによって首の筋肉からの位置情報のフィードバックが乱れたという説です。首の筋肉にある感覚受容器の感度が低下したり、脳が信号を正しく解釈できなくなったりした可能性があります。

まとめ

この研究は、「首の筋肉の痛みそのもの」が、私たちの直立バランスを損なう直接的な原因になることを強調しています。

「最近、なんだかふらつく気がする……」と感じている方、もしかしたらその原因は首の凝りや痛みにあるかもしれません。健康な姿勢を保つためには、首の機能を健全に保つことが非常に重要です。


※本記事は Vuillerme, N., & Pinsault, N. (2009) の研究論文に基づき作成されました。

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