― 結合組織の「巻き付き現象」から考える ―
はじめに|
「効いた感じ」と「起きている現象」は別
鍼治療の現場では
「ズーンと響いた」
「しっかり得気が出た」
といった感覚が効果の指標として語られがちだ。
しかし、それは本当に
組織が変わった証拠なのだろうか?
この問いに、非常にロジカルな仮説を提示したのが
Langevinらの研究である。
結合組織の“巻き付き現象”とは何か
2001年、Langevin HMらは
鍼刺激の作用を神経反射だけで説明しない新しい視点を提示した。
彼らの研究で示されたのは、以下の現象である。
鍼を皮下まで刺入し 回旋操作を加えると 周囲の皮下結合組織が鍼に巻き付く (connective tissue winding)
このとき、施術者が感じる
「鍼が吸い付くような感覚」
いわゆる needle grasp が生じる。
📄 Langevin HM et al.
Mechanical signaling through connective tissue:
A mechanism for the therapeutic effect of acupuncture
FASEB Journal, 2001
何がすごいのか:ポイントは「細胞」
重要なのは、巻き付くこと自体ではない。
この巻き付きによって、
結合組織に張力が生じ その張力が線維芽細胞(fibroblast)に伝わり 細胞の形態・配列・張力環境が変化する
という機械的シグナル伝達(mechanotransduction)が起こる
可能性が示された点だ。
つまり鍼は、
神経を刺激する前に
組織の力学環境を書き換えている
という考え方である。
重要な誤解|これは「強刺激」でなくても起きる
ここで多くの施術者が勘違いする。
❌ 強く回せば巻き付く
❌ 痛いほど効く
❌ 深く刺した方が効果的
全部違う。
Langevinらの実験では、
回旋角度は小さくても ゆっくりでも 強い痛み刺激がなくても
結合組織の巻き付きは発生している。
つまりこれは
「強さの問題」ではなく
“構造に沿った操作”の問題。
なぜ筋膜治療と相性がいいのか
筋膜(fascia)は
コラーゲン線維 水分 線維芽細胞 からなる力学的ネットワーク組織。
Langevinのモデルは、
筋膜が単なる被膜ではなく 力を感じ、反応する 能動的な組織である
ことを裏づける。
だからこそ、
強圧 侵害刺激 炎症を起こす介入
は、筋膜にとって
「危険信号」=硬化方向の反応になりやすい。
筋膜は
ねじ伏せると固まり、
納得すると動く。
まとめ
Langevinらの研究が示したのは、これだ。
鍼は「刺激」ではなく 結合組織との対話である その対話は、強さではなく 構造と時間で成立する
筋膜に効かせたいなら、
まず術者側が
力を抜く必要がある。

