1.リンパ浮腫リハの基本は「CDT+運動」
リンパ浮腫は、いったん起こると「完全に元通りに治す」のは難しく、
“うまく付き合いながらコントロールする”ことが重要な病気です。
国際リンパ学会(ISL)のコンセンサスでは、
標準治療は CDT(複合的理学療法:Complex Decongestive Therapy) とされています。
CDTは大きく4つの柱で構成されます。
- スキンケア(皮膚を守る・感染予防)
- 徒手リンパドレナージ(MLD:リンパの流れを補助する手技)
- 圧迫療法(包帯や弾性着衣)
- 運動療法(筋肉を動かしてリンパの流れを助ける)
このうち、“運動” は昔は「やると悪化するのでは?」と怖がられてきた領域ですが、
最近の研究では、
「正しく行えば、安全で、むしろ症状やQOL(生活の質)を改善する」
というエビデンスがはっきりしてきています。
2.運動は本当に安全なのか?エビデンスの話
2-1.がん関連リンパ浮腫(主に乳がん)のデータ
Singhらのメタ解析(2016)では、
がん関連リンパ浮腫の患者さんに対する運動介入(有酸素運動・筋力トレーニングなど)をまとめて検証しています。PubMed
結論はざっくり言うと、
- 運動をしてもリンパ浮腫が悪化する証拠はない
- むしろ
- 痛み
- だるさ
- QOL
などの面でプラスの効果が期待できる
というものです。
さらに、乳がんサバイバーを対象としたPAL trial(Physical Activity and Lymphedema trial)では、
週2回のプログレッシブなウエイトトレーニングを1年間行っても、
リンパ浮腫の悪化は認められず、既にリンパ浮腫のある人では症状の改善や急性増悪の減少が報告されています。PMC+1
2-2.レジスタンストレーニングは危なくないのか?
乳がんサバイバーに対するレジスタンス運動だけに絞ったシステマティックレビューでは、
- 筋力トレーニングは
- 筋力
- 疲労感
- 痛み
- QOL
などを改善し、
- リンパ浮腫のリスクを増やさない
ことが示されています。PMC+2Paulo Gentil+2
つまり、「重い物を持ったらリンパ浮腫が悪化するから、一生腕を使うな」という昔のアドバイスは、
今のエビデンス的には“もう古い”ということです。
2-3.下肢リンパ浮腫でも運動はOK?
下肢リンパ浮腫(婦人科がんの術後など)を対象とした最新のシステマティックレビューでは、PMC+2Medical Journals Sweden+2
- 歩行、サイクリング、水中運動、筋力トレーニングなどの運動は
- HR-QOL(生活の質)
- 歩行能力・体力
- 痛み
などを改善し、
- 下肢容積も小〜中等度の改善が見られる
- 有害事象は少なく、「安全に実施可能」と結論づけている
と報告されています。
3.どんな運動をすればいい?(具体例)
運動といっても内容はさまざまです。
エビデンスとACSM(アメリカスポーツ医学会)の推奨を踏まえると、
「有酸素運動+レジスタンストレーニング+ストレッチ」 の組み合わせが基本になります。Lymphoedema Education Solutions+1
3-1.有酸素運動
目的:
- 全身の血流・リンパ流を高める
- 体力アップ
- 体重管理(肥満はリンパ浮腫の悪化因子)
例:
- ウォーキング(平地〜やや坂道)
- エアロバイク
- 水中ウォーキング
- ゆったりめのジョギング など
目安:
- 週3〜5日
- 1回20〜40分
- 会話はできるけど、歌うのはきついくらいの強度(ややきつい手前)
3-2.レジスタンストレーニング(筋力トレ)
レジスタンストレーニングとは、
「筋肉にあえて負荷をかけて、筋力や筋持久力を高めるトレーニング」のことです。
負荷のかけ方は、
- ダンベル・マシン
- チューブ(セラバンド)
- 体重を使ったスクワット・腕立て伏せ など
で行います。
エビデンスのある設定としては、乳がんサバイバーの研究を参考にするとPaulo Gentil+1
- 週2〜3回
- 主要な筋群(脚・お尻・胸・背中・腕)を中心に
- 1種目につき8〜12回が「ギリギリできる」くらいの重さ
- 1〜3セット
というのがひとつの目安になります。
ポイントは、
「軽い負荷をなんとなく回数だけこなす」のではなく、
ある程度しっかり負荷をかけて筋力をきちんと上げること。
筋力が上がれば、
- 日常生活での腕・脚の使い方が安定
- 筋ポンプが強くなる → リンパの流れを日常的にサポート
というメリットが出てきます。
3-3.ストレッチ&関節可動域運動
- 肩・肘・手首
- 股関節・膝・足首
などの関節のストレッチや、
ゆっくりとした可動域運動は、
- 関節のこわばり予防
- 筋・筋膜の柔軟性維持
- 徒手リンパドレナージ後の維持
に役立ちます。
4.圧迫療法はどう関わる?「圧迫+運動」が基本セット
ISLコンセンサスや各種ガイドラインでは、
「圧迫療法はリンパ浮腫管理の中核」と位置づけられています。ISL+2woundsinternational.com+2
4-1.圧迫の種類
代表的には、
- 短伸縮包帯(多層包帯)
- 減量期(浮腫をガツンと減らしたい時期)によく使用
- 安静時は圧が低く、運動時に高くなる「高作業圧」が特徴
- 弾性着衣(スリーブ・ストッキング)
- 維持期の“普段使い”
- 圧のクラス(20–30mmHg、30–40mmHgなど)は症状に応じて選択
- ベルクロ式のラップ
- 自分で装着・調整しやすいタイプ
4-2.圧迫+運動の意味
圧迫なしの運動でも一定の効果はありますが、
CDT・ガイドラインでは
基本は「圧迫した状態で運動」
が推奨されています。PubMed+1
理由はシンプルで、
- 筋ポンプで送り出されたリンパ液が
- 圧迫によって逆流しにくくなり
- 体幹側(中枢)へ効率よく戻りやすくなる
からです。
特に下肢リンパ浮腫では、
圧迫下のウォーキングや足首の曲げ伸ばしが、
容積減少や歩行能力の改善に効果的と報告されています。PMC+1
5.実際のリハビリの組み立てイメージ
例:下肢リンパ浮腫(婦人科がん術後)の場合
- スキンケア(保湿・傷チェック)
- 徒手リンパドレナージ(必要に応じて)
- 短伸縮包帯 or 弾性ストッキング装着
- 圧迫下での
- 足関節の曲げ伸ばし
- ヒラメ筋ポンプ運動
- 立位でのかかと上げ
- 20〜30分のウォーキング
- 週2〜3回の下肢筋力トレ
- レッグプレス、スクワット、ヒップリフトなど
- 8〜12回×1〜3セット
例:乳がん関連リンパ浮腫(上肢)の場合
- スキンケア
- MLD+弾性スリーブ装着
- 圧迫下での
- 肩・肘・手関節のROM運動
- 壁押し・チューブを使ったプレスやローイング
- 週2回のウエイトトレーニング(PAL trialのようなプログラム)
6.まとめ:怖がって止めるより、「エビデンスに沿って賢く動かす」
- リンパ浮腫のリハビリは、
CDT(スキンケア・MLD・圧迫・運動)の組み合わせが基本。ISL+1 - 近年の研究では、
有酸素運動・レジスタンストレーニングとも“安全性が高く、むしろプラス”
という結果が繰り返し出ている。Medical Journals Sweden+4PubMed+4PMC+4 - 「動いたら悪化するかも」と怖がってじっとしていることの方が、
実はリンパ浮腫を悪化させるリスクが大きい。 - 圧迫療法は今でも“要”であり、
「圧迫+運動」のセットが最も理にかなったアプローチになっている。


コメント