リンパ浮腫のケア

浮腫

~“ただのむくみ”じゃない、体の中で起きていること~

むくみの裏側で起きていること

乳がんの手術や放射線治療のあと、

「腕が重い」「皮膚が突っ張る」「袖がきつい」――

それは単なる“水のたまり”ではなく、

リンパの流れが変わってしまったサインです。

体の中には、血管とは別にリンパ管という細い道が全身に張り巡らされています。

その道を通って老廃物や余分な水分が静かに回収されていく。

それがうまく働かなくなると、体の「排水機能」が滞り、むくみが生じるんです。

リンパの役割とは?

リンパ系は、実は「体のメンテナンス部門」です。

血液が“栄養を届ける流れ”なら、リンパは“いらなくなったものを戻す流れ”。

この両輪がそろって、はじめて身体の環境は保たれます。

リンパの3つの主な役割

体の余分な水分を回収する

 血管から染み出した水分やたんぱく質を再吸収し、むくみを防ぐ。

 リンパが流れないと、皮膚の下に水分がたまって重だるさや張りが出ます。

免疫を支える

 リンパ節には免疫細胞(リンパ球)が集まり、体内の“見張り役”をしています。

 細菌やウイルスをキャッチし、体を守る防衛ラインです。

脂質を運ぶ

 腸で吸収された脂肪は一度リンパ管に入り、「乳び」として血液に戻ります。

 食事のあとに体温が少し上がるのも、この循環が活発になるからなんです。

リンパは最終的にどこへ行くの?

吸い上げられたリンパ液は、体の奥を通りながら徐々に太いリンパ管に集まり、

最終的には鎖骨の下で静脈(血管)に戻ります。

ここは「静脈角(じょうみゃくかく)」と呼ばれ、

  • 右側のリンパは「右リンパ本幹」から右鎖骨下静脈へ
  • 左側のリンパ(全身の約75%)は「胸管」から左鎖骨下静脈へ

と流れ込みます。

つまり、リンパは最終的に血液に戻り、心臓へ送り返される。

これが体の中で「水分がめぐり、戻っていく循環システム」です。

リンパの構造ってどうなってるの?

リンパ管はまるで“繊細な水路”。

顕微鏡レベルで見るとこんな構造をしています👇

毛細リンパ管(初期リンパ管)

皮膚のすぐ下にあり、細胞の間に溜まった水分を吸い込む入口。

壁は「ボタン状」に重なっていて、皮膚が動くと“パカッ”と開く仕組み。

皮膚をやさしく寄せるだけで、この弁が自然に開閉します。

前集合管~集合リンパ管

集めたリンパ液を少しずつ太い道に送る“中継路”。

内側には逆流防止弁がついていて、血管のように「一方向流」で進む。

リンパ節

途中にある“フィルター”。

免疫細胞が集まり、老廃物や細菌を処理してくれる場所。

腋窩(わき)や鼠径(そけい)、鎖骨下に多くあります。

胸管・右リンパ本幹 → 静脈角

最終的に鎖骨の下で静脈と合流。ここが“出口”です。

つまり――

リンパの流れは「皮膚 → 細い管 → 太い管 → フィルター → 静脈」という繊細で一方向の流れ。

だから、強く押すより皮膚を動かすことが理にかなっているんです。

⚡ しびれ・神経症状が起こる理由

乳がん治療のあとに多いのが、「ピリピリ」「重だるい」「触れると不快」といった神経症状。

これはいくつかの要因が重なっています。

抗がん剤による末梢神経障害

特にタキサン系の薬では、末端の神経が敏感になり、しびれ・感覚鈍麻が長く続くことがあります。

手術や放射線による癒着・張り感

腋窩リンパ節の郭清後は、皮膚の下で神経と膜が癒着しやすくなります。

皮膚をやさしく動かすことは、この“癒着ストレス”を和らげる一助になります。

浮腫による圧迫

リンパが滞ると皮下圧が上がり、神経が軽く圧迫される。

このとき皮膚を動かしたり深呼吸をしたりすると、組織の圧が下がって楽になることがあります。

「リンパを流す」とは?

実は“強くもむ”必要はありません。
リンパは皮膚のすぐ下を流れていて、皮膚をそっと動かすだけで流れが生まれます。
強い圧は逆効果で、リンパ管が潰れてしまいます。

「皮膚を寄せる」とはどういうこと?

リンパ管は皮膚のすぐ下にあり、軽く皮膚をずらすだけで弁が開いてリンパ液を吸い込む仕組みです。
強く押すとリンパ管が潰れて逆効果。
正しいやり方は👇

  • 手のひらを皮膚に密着
  • 鎖骨の方向へ“皮膚ごと”ゆっくり動かす
  • 力の目安:皮膚がすべるだけ(筋が沈まない)。“重さは数グラム~名刺1–2枚”感覚。←低いリンパ内圧と30 mmHgで阻害し得るデータから導かれる合理的安全域

これで、皮膚下の“リンパの吸い込み口”が自然に開閉します。

皮膚と神経と心はつながっている

皮膚の下には、触覚や温度を感じる無数の神経終末が走っています。

だから“触れること”そのものが脳に信号を送り、

不安や痛みを和らげるホルモン(オキシトシン、セロトニン)を分泌させるんです。

やさしいセルフタッチは、神経を落ち着かせるリハビリでもあり、

同時に「自分を大事にする感覚」を取り戻す行為でもあります。

「こうしなきゃ」より、「今日はここだけ触ろう」

リンパケアは、がん治療のあと「永遠の宿題」のように感じてしまう人も多いです。

でも完璧でなくていい。

“気持ちよく呼吸できる日を増やす”ことがいちばんのケア。

🌿 鎖骨まわりを軽く撫でて、呼吸を感じる

🌿 腕をさすって「ありがとう」と声をかける

🌿 今日は疲れてるから、何もしない日でもOK

それでいいんです。

体と心は、触れ方ひとつで少しずつ“安全”を思い出していきます。

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