こんにちは。リハりんの金野です。
慢性痛に関して書いていきます。
要点
・慢性痛は「組織の損傷=痛みの強さ」ではなく、神経の過敏化(中枢感作)やストレス・睡眠・運動不足など複数要因が絡み合う。
・はりは、腰痛・変形性膝関節症・頭痛などで小~中等度の効果が安定して示され、効果は1年程度持続しうる。運動療法や教育と併用すると効果が高まりやすい。
1. 慢性痛とは?なぜ長引くのか
- 定義:3か月以上持続する痛み。米国では成人の約**21%**が慢性痛を抱えるという推計がある(2021年)。
- 痛みの仕組み:
- 末梢感作(患部の神経が過敏)
- 中枢感作(脊髄・脳の“音量つまみ”が上がる)
- 結果として「同じ刺激でも痛い/刺激がなくても痛い」が起こる。痛み=損傷の大きさではない。
- 睡眠・気分・不安・運動不足は痛みと双方向に悪化し合う。睡眠不良は痛みを予測し、痛みは睡眠を乱す
2. 診療の考え方(バイオ・サイコ・ソーシャル)
- Bio(身体):組織の回復度、筋力・可動性、炎症サイン。
- Psycho(心理):不安、 catastrophizing(破局化)、痛み=壊れるという思い込み。
- Social(社会):仕事・介護・家庭役割、通勤、睡眠環境。
- 目標は**「痛みの音量を下げる」こと。器質的損傷の治癒と別軸で機能の回復**を図る。慢性痛
3. 何が効くのか(エビデンス早見)
3-1 はり(鍼)
- 個人データ統合メタ解析(20,827例):はりは偽鍼より優れ、効果は1年後も約85%維持。効果量は小~中。対象:腰痛・膝OA・慢性頭痛・肩痛。
- 腰痛RCT(Cherkin 2009, n=638):個別鍼・標準鍼・模擬鍼はいずれも通常ケアより機能改善。機序は一部非特異的効果も関与。
- 臨床ガイドライン(ACP 2017):急性~慢性腰痛に対し、まず非薬物療法(運動、はり、マインドフルネス等)を推奨。
- 頭痛:片頭痛予防・緊張型頭痛に有効性(中等度の確からしさ)。
3-2 運動療法
- Cochrane 2021(慢性腰痛):運動は中等度の確実性で痛みを改善。機能改善は小さめでも臨床的に意味を持ちうる。
- ポイント:段階的に「できる量」を少しずつ増やすと、恐怖回避をほどきやすい。
3-3 併用(はり+運動・リハビリ)
- 膝OA 系統的レビュー(2023):はり+能動的運動は、単独群より症状・機能がより改善する傾向。
- 肩痛リハ(2022):はり+リハビリ>リハ単独で痛み・可動域が改善。
- 慢性腰痛(2024):はり+体幹トレが体幹トレ単独より痛み・機能に有利。
最適解は“併用”:はりで痛覚過敏を下げ、教育+運動で再発を下げる(行動の変化)。5. リハりんのケア設計(はり+運動+教育)
4. 自宅でできる自己管理
- 【睡眠】7時間前後を推奨:就床・起床時刻を固定、夕方以降はカフェイン摂取減らす。睡眠の改善は痛みの将来リスクを下げる因子。
- 【活動】“ちょうどよい負荷”を毎日(15~30分歩行+軽いスクワット等)。痛みゼロでなくても可。長期的には運動が痛みを下げる。
- 【呼吸】吐く時間>吸う時間(例:4拍吸う→6~8拍吐く×5分)で交感神経の過活動を整える。
- 【ペーシング】良い日にやりすぎない。50~80%ルールで翌日の反動を最小化。
- 【教育】「痛み=損傷ではない」理解を定着させる。PNE(痛みの神経科学教育)は、運動と併用すると恐怖・破局化の低下に寄与。
- 【頭痛】片頭痛・緊張型頭痛ははり+生活リズム(睡眠・水分・カフェイン調整)で再発抑制を狙う。
5. よくある疑問(Q&A)
Q1. 画像で“異常”があった=痛みの原因?
→ 画像所見(椎間板変性など)と痛みは必ずしも一致しない。機能(動けること)を優先指標にします。
Q2. 痛いのに動いて悪化しない?
→ 適切な量と強度であれば、むしろ改善する。短期的な痛みの波は学習中のノイズと捉えます。
Q3. はりはどのくらい通う?
→ まず5~8回で反応を評価。効果が出れば間隔を延長し、運動・睡眠の固定化へ。効果は持続しうるが、個人差あり。
Q4. 安全性が心配
→ 重篤な合併症は稀。抗凝固薬内服中でも適切な手技・部位選択で安全に施術できるとの報告がある。
6. 専門的補足(医療者・研究に関心のある方向け)
- 中枢感作:脊髄後角や皮質でのシナプス可塑性・抑制低下が痛覚の増幅を生む。臨床ではallodynia(触れて痛い)、拡散性痛などで示唆。
- はりの効果の解釈:偽鍼との差は小~中だが、通常ケアとの差は中等度。効果の一部は非特異的要素(期待・注意制御・治療同盟)だが、完全なプラセボでは説明できない。
- 併用療法:PNE+運動、はり+運動の多面的アプローチで行動変容と痛覚過敏の鎮静を同時に狙う。
7. 受診の目安(レッドフラッグ)
- 発熱・悪寒、原因不明の体重減少、安静時・夜間の激痛、強い神経脱落(筋力低下・膀胱直腸障害)、外傷後の痛み増悪、がん・感染リスク。
→ まず医療機関で評価を。必要に応じて医療連携します。慢性痛
参考文献(抜粋)
- Vickers AJ, et al. J Pain. 2018:慢性痛に対する鍼治療のIPDメタ解析。効果は1年持続。PubMed
- Qaseem A, et al. ACPガイドライン 2017:腰痛は非薬物療法優先(運動・はり等)。PubMed
- Hayden JA, et al. Cochrane 2021:慢性腰痛で運動療法に中等度の確実性。PubMed
- Cherkin DC, et al. Arch Intern Med. 2009:腰痛ではり(実/模擬)>通常ケア。PubMed
- Linde K, et al. Cochrane 2016:片頭痛予防・緊張型頭痛で有効。コクランライブラリー+1
- Witt CM, et al. 大規模安全性データ(22.9万人):重篤事象は稀。zora.uzh.ch
- Finan PH, et al. J Pain 2013:睡眠⇄痛みは双方向。睡眠がより強く痛みを予測。Jpain
- 併用療法(はり+運動):肩痛・膝OA・慢性腰痛で併用優位を示すレビュー/試験。PMC+2BioMed Central+2


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