脳卒中(脳梗塞、脳出血)後の「ことば」と「記憶」に鍼灸は効果がある? 最新研究2本から解説

リハビリ

失語・脳卒中後認知機能低下への鍼灸効果|リハりん

脳卒中の後遺症というと、手足の麻痺をイメージする方が多いかもしれません。しかし、「うまく言葉が出てこない(失語)」「物忘れがひどくなった(認知機能低下)」といった症状も、多くの方が経験される重要な後遺症です。

今回は2024年に発表された2本のメタ解析をもとに、鍼灸がこれらの症状にどう働きかけるのかをご紹介します。

📌 この記事のポイント:①鍼と灸の組み合わせが言語リハビリの効果を大きく高める ②頭皮鍼の組み合わせ療法が認知機能の複数の側面を改善する——いずれも2024年のメタ解析で示されました。

Part 1 失語への鍼灸効果

「失語」とはどんな症状?

失語(アファジア)は、脳の言語野が損傷を受けることで起こります。「話したいのに言葉が出ない」「相手の言っていることがわからない」「文字が読めない・書けない」など、コミュニケーションに関わるあらゆる機能に影響が出ることがあります。

失語のリハビリは言語聴覚士(ST)による言語リハビリが中心ですが、「鍼や灸を加えるとさらに効果が高まるのでは?」という研究が近年増えています。

研究の概要(Zhu et al. 2024)

2024年に発表されたメタ解析では、脳卒中後失語に対する「鍼・灸の伝統的治療」の効果を評価しました。データベースを網羅的に検索し、最終的に10件のRCT・848例が分析対象となりました。

🔬 研究のポイント:鍼灸は言語リハビリの単独療法と比較して、失語の臨床的有効率・理解力・反復能力・読字力・自発語のすべてを有意に改善した(p<0.00001)。

具体的に何が改善したのか

言語機能を評価するスケールを使って、以下の4つの能力が詳しく測定されました。

● 理解力(相手の話を理解する力):鍼灸+言語リハビリで有意に改善(MD=0.95)

● 反復能力(聞いた言葉をくり返す力):有意に改善(MD=0.82)

● 読字力(文字を読む力):特に大きな改善(MD=1.95)

● 自発語(自分から言葉を発する力):有意に改善(MD=10.90)

特に「読字力」と「自発語」の改善幅が大きく、鍼灸が言語の産出・理解の両面に働きかけていることがわかります。

なぜ鍼灸が失語に効くのか

メカニズムとしては、次のことが考えられています。

● 脳の言語野(ブローカ野・ウェルニッケ野)周辺への血流が増加する

● 神経可塑性が促進され、損傷した言語回路が再編成(リワイヤリング)される

● 言語リハビリの直前・最中に行うことで、脳が「学習しやすい状態」になる

今回の研究では「単独療法としての鍼灸」より「言語リハビリとの組み合わせ」の方が効果が高いことも示されており、鍼灸を補助的に加えることの意義が改めて確認されました。

📄 参考論文:

[14] Zhu J, et al. (2024)Traditional Chinese acupuncture and moxibustion for post-stroke aphasia: a meta-analysisAmerican Journal of Translational Research, 16(10):5182-5190DOI: 10.62347/PZBQ8026

Part 2 脳卒中後の認知機能低下への鍼灸効果

「脳卒中後認知機能低下(PSCI)」とは

脳卒中を経験した方の多くが、記憶力・注意力・判断力・実行機能などの認知機能の低下を経験します。これを「Post-Stroke Cognitive Impairment(PSCI)」と呼びます。

薬物療法では改善が限られることも多く、安全で効果的な補完的治療の開発が求められています。

研究の概要(Zhou et al. 2024)

2024年にFrontiers in Neuroscienceに掲載されたメタ解析では、「頭皮鍼の組み合わせ療法(他の治療と組み合わせた頭皮鍼)」のPSCIへの効果を評価しました。8つのデータベースを対象に2024年10月まで検索し、RCTに限定して分析が行われました。

🔬 研究のポイント:頭皮鍼の組み合わせ療法は、認知機能スケール(MoCA・MMSE)で有意な改善を示した。単独療法よりも組み合わせ療法の方が効果が大きい傾向がある。

何が改善したのか

認知機能を評価する主要なスケールで、以下の改善が確認されました。

● MoCA(モントリオール認知評価):総合的な認知機能が有意に改善

● MMSE(ミニメンタルステート検査):有意に改善

MoCAは記憶・注意・言語・視空間認知・実行機能など複数の認知領域を評価するスケールです。頭皮鍼の組み合わせ療法が、これらの複数の側面に幅広く効果をもたらしている可能性が示されました。

「組み合わせ療法」がポイント

今回の研究で特に強調されているのは、「頭皮鍼単独」より「他の治療(薬物・認知リハビリなど)と組み合わせた頭皮鍼」の方が効果が高いという点です。

これは失語の研究と同様のパターンで、鍼灸の「脳を活性化させる効果」を、別の治療の「学習効果」と組み合わせることで相乗効果が生まれると考えられます。

なぜ頭皮鍼が認知機能に効くのか

頭皮鍼の認知機能改善メカニズムとして、以下が示唆されています。

● 前頭前野・海馬周辺への血流増加:記憶や実行機能に関わる領域が活性化

● 神経伝達物質の調整:アセチルコリンなど認知機能に関わる物質のバランスが整う

● Default Mode Network(DMN)の機能正常化:安静時の脳ネットワークの乱れが改善される

📄 参考論文:

[15] Zhou Q, et al. (2024)Efficacy of combination scalp acupuncture for post-stroke cognitive impairment: a systematic review and meta-analysisFrontiers in Neuroscience, 18:1468331DOI: 10.3389/fnins.2024.1468331

2本の研究から見えてくること

今回ご紹介した2本のメタ解析を整理すると、以下のことが見えてきます。

🗣️ 失語:鍼+灸の伝統的治療が言語リハビリの効果を大幅に底上げする。理解・反復・読字・自発語のすべてで有意な改善。 🧩 認知機能:頭皮鍼の組み合わせ療法がMoCA・MMSEを有意に改善。複数の認知領域に幅広く効果をもたらす。 🔑 共通するポイント:「鍼灸単独」より「他のリハビリとの組み合わせ」で相乗効果が生まれる。

現時点では研究の質や規模にまだ課題もあります。ただ、失語・認知機能のどちらについても、鍼灸が「リハビリの効果を高める補助手段」として有望であることは確かです。

ご相談お気軽にどうぞ。

※ 本記事は学術情報の紹介を目的としています。治療効果には個人差があります。担当医師・専門職と連携のうえでご利用ください。

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