「筋肉が癒着している気がする」
「ストレッチしても引っかかる感じがする」
この感覚は気のせいではありません。
近年の研究では、筋膜・結合組織の滑走性低下が、運動制限・痛み・違和感に直接関与することが明確になっています。
ここでは、
✔ 滑走不全の正体
✔ 自分で確認できる兆候
✔ 神経学的な裏付け
を論文ベースで解説します。
滑走不全とは何か?
筋肉は単独で存在していません。
筋線維は筋膜(fascia)という結合組織に包まれ、
その筋膜同士が層構造で滑り合うことで動きが成立します。
Steccoらの研究では、
筋膜層のヒアルロン酸粘性が増加すると
組織間滑走が低下し、痛みと運動制限が生じる
と報告されています。
これは単なる硬さではなく、
👉 滑走の障害
👉 剪断ストレスの蓄積
👉 侵害受容器の刺激
という流れです。
つまり、痛みの原因は筋肉の短縮ではなく
“滑れなくなった組織同士の摩擦”です。
① つまり感が出る理由(神経学的メカニズム)
関節の「つまり感」は、構造的な衝突ではありません。
Schleipらの研究では、筋膜には高密度の
- 機械受容器
- 自律神経受容器
- 侵害受容器
が存在すると示されています。
滑走が失われると、
👉 微細なズレが増える
👉 受容器が過敏になる
👉 脳が“危険信号”として解釈する
結果、
「詰まる」「引っかかる」「噛み合わない」
という主観的感覚になります。
これは構造問題ではなく、
👉 感覚処理の問題
👉 過剰な防御反応
です。
関節の「つまり感」や「違和感」を確認する
筋肉や筋膜の滑走性が失われると、関節が動く際の微細な調整ができなくなり、独特の不快感が生じます 。
股関節の前方のつまり: 仰向けで膝を深く胸に抱え込んだ際、股関節の付け根に「つまり感」や「違和感」を感じる場合、大殿筋や梨状筋などの深層組織に滑走不全があり、関節が正しく噛み合っていない可能性が高いです 。
動きの制限: 股関節が110度以上スムーズに曲がらない場合、腹横筋などが腸骨を適切に誘導できておらず、骨盤周りの組織に滑走不全が生じているサインとなります 。
② 圧痛が出る理由
滑走不全部位では、
- 組織液の停滞
- 微小炎症
- 神経感作
が起きています。
Langevinの研究では、
結合組織の滑走障害は線維芽細胞の機械応答を変化させ、慢性炎症環境を作る
と報告されています。
つまり圧痛は
👉 「硬いから痛い」のではなく
👉 「滑れないから神経が過敏」
という現象です。
特定のポイントの「圧痛(押した時の痛み)」を確認する
滑走不全がある部位は、組織が緊張して過敏になっているため、指で押すと痛みを感じやすいのが特徴です。
PSIS(腰の骨の出っ張り)周辺: 腰の後ろにある上後腸骨棘(PSIS)周辺や、その近くの靭帯・多裂筋を指で押してみてください。強い痛み(圧痛)がある場合は、その部位の滑走性が低下し、組織が常に引っ張られた状態にあることが疑われます。
鼠径部(足の付け根): 鼠径部周辺を指で押したり、くしゃみなどの腹圧がかかる動作で痛みが出る場合も、周辺筋膜の滑走不全が関与している可能性があります。
③ 皮膚の滑りが悪い理由
皮膚と筋膜は独立して動く構造ですが、
滑走不全が起きると
層間の剪断運動が消失します。
これが
✔ 引っかかる
✔ 抵抗感がある
✔ 皮膚が動かない
という感覚になります。
これは臨床では
shear strain(剪断歪み)低下として計測されています。
つまり主観ではなく、物理的現象です。
皮膚を擦った時の「抵抗感(滑走障壁)」を探す
専門的な治療技術である「組織間リリース(ISR)」では、指先で組織を擦る際の抵抗で滑走不全を判断します。
確認方法: 気になる筋肉の上の皮膚を、指先で軽く滑らせるように擦ってみてください。
滑走障壁のサイン: 他の部位に比べて、指先が止まるような「引っかかり」や「強い抵抗」を感じる場所があれば、そこが組織同士の滑りが悪くなっている「滑走障壁」である可能性があります 。
④ ストレッチで改善しない理由
多くの人が誤解していますが、
滑走不全は筋肉の長さの問題ではありません。
Steccoの理論では、
滑走障害は伸張では改善しない
剪断方向の再教育が必要
とされています。
だから
✔ 伸ばしても止まる感じ
✔ 柔軟性が戻らない
✔ 同じ場所がずっと硬い
という現象が起きます。
これは短縮ではなく
滑走のロックです。
柔軟性の左右差と代償動作を確認する。
ストレッチの限界: 特定の筋肉(例:ハムストリングス)の柔軟性が極端に低く、ストレッチをしても「伸びる感じ」よりも「止まってしまう感じ」が強い場合は、組織間の癒着が疑われます。
アウターマッスルの過緊張: 本来使うべき筋肉が滑走不全で働かないと、他の筋肉が過剰に頑張ります。例えば、軽い動作でも背中や腰の外側の筋肉がパンパンに張ってしまうような場合、深層の筋肉(腹横筋や大殿筋深層など)が滑走不全を起こしている可能性があります。
自己チェックはどこまで有効か?
結論:
👉 兆候は分かる
👉 正確な診断は無理
滑走不全は1mm単位の評価が必要で、
触診トレーニングを積んだ施術者でないと特定できません。
ただし、
✔ つまり感
✔ 局所圧痛
✔ 皮膚の引っかかり
✔ 代償筋の過緊張
これらが重なる場合、
組織間滑走の問題が関与している可能性は高いです。
重要な注意
強く揉むと悪化します。
理由はシンプル:
👉 圧迫=滑走をさらに止める
滑走障害は
押す問題ではなく、滑らせる問題です。
強く揉む=滑走改善どころか
組織損傷 → 炎症 → 神経感作 → 防御収縮
この流れが起きやすい。
つまり
“ほぐしているつもりで、痛み回路を強化している”可能性がある。
① 強圧は“微小外傷”を作る
Langevin(2001, 2006)の結合組織研究では、
👉 強い機械刺激
👉 過剰な圧縮
👉 剪断ストレス
が入ると
線維芽細胞が炎症モードに切り替わることが示されています。
これはつまり:
✔ 組織が「ケガした」と判断
✔ サイトカイン放出
✔ 痛み物質増加
軽いマッサージ → 調整
強圧マッサージ → 外傷
ここが分かれ目。
② 強刺激は神経を“感作”させる
Schleipらの研究で、
筋膜には大量の侵害受容器(痛みセンサー)が存在することが確認されています。
強圧を入れると:
👉 侵害受容器が過剰発火
👉 中枢感作が進む
👉 痛みの閾値が下がる
結果:
揉むほど痛みに敏感になる
これは慢性痛研究のど真ん中の話です。
(Nijs et al., central sensitization)
③ 圧迫は“滑走”をさらに止める
滑走不全は
👉 層間の剪断運動が減ること
が本質。
ところが強圧は
✔ 組織を潰す
✔ 水分を押し出す
✔ 層を圧着させる
つまり:
👉 一時的に柔らかく感じる
👉 実は滑走は悪化
Huijingの筋膜力学研究では、
過剰圧縮は
力伝達の非対称化を招くと示されています。
簡単に言うと:
押しすぎると動きが歪む。
④ 痛み → 防御収縮ループ
これは神経生理の基本ですが:
痛み刺激
→ 脊髄反射
→ 防御収縮
つまり
👉 強く揉む
👉 痛い
👉 筋肉が守りに入る
👉 さらに硬くなる
悪循環。
だから
「強揉み好きな人ほど慢性化する」
現象が起きます。
参考文献
- Stecco C. Functional Atlas of the Human Fascial System
- Schleip R. Fascia as a sensory organ
- Langevin HM. Connective tissue fibroblast response to stretch
- Findley TW. Fascia research and clinical applications
- Huijing PA. Myofascial force transmission
- Langevin HM. Connective tissue fibroblast response to mechanical stretch
- Schleip R. Fascia as a sensory organ
- Nijs J. Central sensitization in chronic pain
- Huijing PA. Myofascial force transmission
- Findley TW. Fascia research review

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