臨床上、鼻炎の症状は「現代医学的なアレルギー性鼻炎」と「東洋医学的な臓腑の乱れ」の両面から捉えることができます。
東洋医学的な視点では、主に「脾(ひ)」や「肺(はい)」の気が不足している「虚証(きょしょう)」のパターンか、あるいは「脾胃(ひい)」に熱がこもっている「実証(じっしょう)」のパターンの2つに大きく分けられます。教科書的には他にも多くの分類がありますが、国家試験や臨床の現場では、この「虚」か「熱」かのいずれかに集約されることが一般的です。
鼻の症状を改善するための「顔面部」の重要穴
鼻詰まりや鼻水を抑えるために、顔面部にはいくつかの重要なツボ(経穴)があります。
上星(じょうせい)
前髪際から1寸上に位置するこのツボは、臨床では「1寸」を目安にしつつ、その前後の反応点を探すことが重要です。刺鍼のコツは、頭蓋骨に対して垂直に刺すのではなく、骨に沿わせるように防状腱膜(ぼうじょうけんまく)にしっかりと入れることです。これにより響きが強まり、効果が高まります。
印堂(いんどう)
眉間にあるツボです。鼻の付け根に向かって真っ直ぐ、あるいは鼻詰まりが強い側に向けて少し角度を変えて刺す手法も臨床的です。鼻の骨のカーブに沿って刺入し、少し引き上げてから方向を変える「四神聡」のような応用テクニックもあります。
迎香(げいこう)
鼻翼のすぐ横に位置し、鼻疾患には欠かせません。鼻の方に向かって刺入するのが基本ですが、美容目的でほうれい線を狙う場合は上向きに打つなど、目的によって方向を使い分けます。
素髎(そりょう)
鼻の先端にあるツボで、非常に刺激が強いのが特徴です。臨床では、躊躇なく一気に刺入することがポイントで、奥にある「膜」にぶつかる瞬間に強い響きが生じます。この鼻周りの刺激は脳幹や中枢にまで届くと言われており、慢性鼻炎に悩む患者さんから「鼻の通りが良くなる」とリピートされることも多いツボです。
全身のバランスを整える「遠隔穴」
顔面部だけでなく、手足のツボを組み合わせることで治療効果が持続します。
合谷(ごうこく)と曲池(きょくち):
これらは「陽明経(ようめいけい)」のツボであり、顔面の疾患に対してよく使われます。
陰陵泉(いんりょうせん):
臨床では「脾(ひ)」を補う健脾(けんぴ)の目的で使用されます。正しい位置を取るには、脛骨(けいこつ)の内側をなぞり、下から上がってきたラインと上から降りてきたラインが交わるポイントを正確に捉える必要があります。
知っておくべき「出血のリスク管理」
顔面部の施術において最も注意すべきは出血と内出血のリスクです。
手足に比べて、目の周りは約8倍、鼻から下のゾーンは約4倍も出血のリスクが高いとされています。特に高齢の女性は皮膚が薄く内出血が広がりやすいため、細い鍼(美容鍼など)を選択する「リスクヘッジ」が欠かせません。もし出血した場合は、最低3分間はしっかりと止血することが、内出血を広げないための鉄則です。
まとめ
鍼灸による鼻炎治療は、単に鼻に鍼を打つだけではなく、「頭頂部の反応を捉える技術」「解剖学に基づいた刺入角度」「全身の気の補充」の組み合わせで成り立っています。
たとえ最初は「痛そう」と感じる刺激であっても、適切な技術で行えば「鼻が通って調子が良い」という確かな実感を患者さんに提供できるのです。
鼻炎の鍼灸治療は、いわば「詰まった排水管(鼻の通り)を掃除しながら、ポンプの出力(身体のエネルギー)を調整する作業」のようなものです。顔への刺激で直接的に通りを良くし、手足のツボを使うことでポンプ(脾や肺)の力を高め、再び詰まりにくい状態へと整えていくのです。


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