― 徒手療法と運動療法は何をしているのか?
「口を開けると痛い」「顎が引っかかる」
顎関節症(TMD)の相談で、こうした訴えは珍しくありません。
では治療はどうするのか。
マウスピース? 顎の体操?
それだけでは足りません。
近年の研究では、徒手療法(Manual Therapy)と運動療法を組み合わせたアプローチが有効である可能性が示されています。ただし、ここで重要なのは
👉 「何をやっているのか」を理解しているかどうかです。
今回は、理学療法分野のシステマティックレビューをもとに
- 徒手療法の中身
- 運動療法の中身
を、臨床目線で解説します。
参考にしている研究
2016年に Physical Therapy 誌に掲載された、
顎関節症に対する徒手療法と運動療法の有効性を検討したシステマティックレビュー&メタ解析です。
- 対象:ランダム化比較試験 48本
- 病態:筋性TMD・関節性TMD・混合型TMD
- 評価:痛み、開口量、日常生活機能
結論を先に言うと、
「高品質なエビデンスとは言えないが、徒手療法と運動療法は有望」
という、かなり誠実な評価です。
徒手療法は何をしているのか?
徒手療法と聞くと「ボキボキするの?」と思われがちですが、
この論文で扱われている内容は非常にソフトで理論的です。
① 顎・顔面への徒手療法
対象
- 咬筋・側頭筋
- 内側・外側翼突筋
- 顎関節包・関節周囲組織
内容
- 筋・筋膜へのリリース
- トリガーポイント圧迫
- 顎関節の低負荷モビライゼーション(痛みのない範囲)
目的
- 筋緊張の過剰な高まりを下げる
- 関節運動を「通しやすく」する
- 痛みの入力を減らす
結果
- 痛みは平均 約1.3cm(VAS)改善
- 一部研究ではボツリヌス毒素注射と同等の効果
「注射じゃなく、手でここまでいけるのか」というのが正直な印象です。
② 首(頸椎)への徒手療法
ここが非常に重要です。
対象
- 上位頸椎(C0–C3)
- 特に C1–C2 周辺
内容
- 関節モビライゼーション(ごく軽い刺激)
- 後頭下筋群・胸鎖乳突筋などの緊張調整
なぜ首?
顎の痛みは、三叉神経系と頸部神経系が脳幹でつながっているため、
首の状態が顎の痛みに強く影響します。
結果
- 痛みの即時軽減
- 圧痛閾値(PPT)の改善
つまり
👉 顎が痛い人ほど、首も一緒に診る必要がある
ということです。
運動療法は何をしているのか?
運動療法も「口を動かす体操」だけではありません。
① 姿勢矯正エクササイズ(最重要)
内容
- 頭の前突姿勢の修正
- 胸椎伸展
- 肩甲帯の安定化
代表的な運動
- チンタック
- 胸を起こすエクササイズ
- 肩甲骨を寄せる運動
結果
- 痛みのない最大開口量:約5.5mm改善
- 日常生活の支障:大きく改善
結論はシンプルです。
👉 顎を治したいなら、姿勢から
② 顎の運動(コントロール重視)
内容
- 痛みの出ない範囲での開閉口
- 側方・前方運動
- 軽い等尺性収縮(力を入れすぎない)
目的
- 関節の「動かし方」を再学習
- 無意識の力み(噛みしめ)を減らす
筋トレというより運動の再教育です。
③ 首の運動
- 深層頸屈筋トレーニング
- 頸部の安定化エクササイズ
顎の運動とセットで行う方が効果は安定します。
この研究から分かる現実的な結論
- 運動だけ → 効果は限定的
- 顎だけ治療 → 不十分
- 徒手療法+運動+姿勢修正 → 最も現実的
ただし、
「何回・どれくらい・どの強さでやるか」は論文でも明確ではありません。
ここは臨床家の設計力が問われる部分です。
まとめ
顎関節症は「顎の病気」ではなく、
首・姿勢・筋の使い方を含めた運動システムの問題です。
徒手療法は
👉 動きを邪魔している要因を取り除く
運動療法は
👉 正しい動きを再学習させる
この2つを組み合わせて初めて、
「戻りにくい改善」が狙えます。
ここに鍼灸を加えればさらに効果は大きいものとなります。
顎関節症でお悩みの方はご相談ください。


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