手首じゃなく「腕の奥の筋肉」と「フタ」が悪さしてる話
〜内関への鍼はどこまで科学的に説明できるのか?〜
「スマホを持つと、親指〜中指がビリビリする」
「パソコンしてると、手首から先がだるくてしびれる」
「夜中に手の痛みで目が覚める」
こういう症状が続くと、だいたい言われる診断が 手根管症候群 です。
よくある説明は
「手首の中の神経が圧迫されていますね〜」
ですが、正直これだけだと だいぶ説明不足 です。
本当は、
前腕の“深層の筋肉”がガチガチになって、
それが手首の“フタ(屈筋支帯)”をゆがめて、
その下を通る神経が押しつぶされている
という構造の問題です。
そして、
その流れの“ど真ん中”に効くのが 内関(ないかん)への鍼 です。
今日は、
- 屈筋支帯ってそもそも何者?
- なんで上下に動くの?
- 深層筋が悪さをしやすい理由
- なぜ鍼、それも内関が効くのか
ここを、一般の方向けに分かりやすくまとめます。
① 手根管と「フタ(屈筋支帯)」の本当の役割
手首の中には、手根管 という細いトンネルがあります。
中身はぎゅうぎゅうで、
- 指を曲げる腱が9本
- 正中神経(しびれの犯人)
が通っています。
このトンネルの“フタ”になっているのが 屈筋支帯(くっきんしたい)。
ここが硬くなったり形が変わると、下の神経が押されてしびれが出ます。
- 屈筋支帯がある → 腱は軌道からズレず、パワーが指先まで届く
- ないと → 腱が手首側に“ボコッ”と浮く → 力が逃げる → 指が弱くなる・ガタつく
屈筋支帯は腱のシートベルト+ガイドレール+力の伝導路これを一手に引き受けてる「必要不可欠な押さえバンド」。
多くの人は
「フタが下から押し上げられて神経が圧迫される」
というイメージを持っていますが、実際は もう一つ大事な方向 があります。
② 屈筋支帯は「押し上がる」だけじゃなく「締まって沈む」
屈筋支帯は“板”ではなく、
骨と骨の間に張られたハンモック状の靭帯のバンド です。
ここに働く力は大きく2つ。
- 腱が中から 押し上げる力(手のひら側に膨らむ:palmar bowing)
- 靭帯そのものが 縮んで締めつける力(retinacular tightening)
靭帯はゴムではなく、コラーゲンが束になった「引っ張りに強いバンド」 なので、
長期間テンションがかかると、
- 硬くなる
- 厚くなる
- 伸びなくなる
- さらに締め付けが強くなる
という変化を起こします。
つまり、
腕の筋肉が固い
→ 腱がよく擦れる
→ フタ(屈筋支帯)が硬く・分厚くなる
→ 自分で締まりながら、内側からも押される
→ 中が狭くなる → 神経が潰れる
こんな二重苦状態になっているわけです。
「押し上げられてるだけ」じゃない。
“自分で締まって沈んでもいる” のがポイントです。
多くの説明は、
「下から腱がフタを押し上げて→中が狭くなる→神経が圧迫される」
という“一方向”のイメージで終わっています。
でも実際の研究を見ていくと、
屈筋支帯は もっと動くし、もっと悪さをする。
MRI で見える「フタの膨らみ」と痛みの関係
MRI で CTS の手首を撮ると、
屈筋支帯が掌側に弓なりに膨らんでいる(palmar bowing) ほど、
痛みのスコアが高い人が多い、という研究があります。
つまり、
「フタが前に押し出される」=「中の圧が高い」=「痛みも強い」
という関連がある。
エコーで見える「腱とフタの引っ張り合い」
動的エコー(超音波)で
- 指を握ったり開いたり
- 手首を曲げ伸ばし
している時の中の動きを観察すると、
- 深指屈筋(FDP)・長母指屈筋(FPL)などの腱が
うら側(尺側・掌側)に動きながら、正中神経をフタ(屈筋支帯)側へ押しつける - 手首の掌屈位+指の屈曲では、
神経が 腱とフタに“サンドイッチ”されて圧迫される
というパターンが報告されています。
さらに、腱に張力をかけると、
横走靭帯(=屈筋支帯)が一緒に変形していく「力学的な連動」が
動的エコーで定量化された研究もあります。
③ 問題児は「前腕の深層筋」
じゃあ、そのテンションの“元締め”はどこかというと、
前腕の深層にある筋肉たちです。
特にこの3つが本丸。
- 深指屈筋(FDP):4本の腱で指を曲げるメイン
- 長母指屈筋(FPL):親指の先を曲げる
- 方形回内筋(PQ):手首近くで前腕を内側にねじる
これらは
- タイピング
- スマホ
- 物をつまむ
- 包丁を握る
- ノートを書く
こういった 「細かい作業」をずっと支えている筋肉 です。
しかも、
- 体の奥にあって血流が少ない
- ほぼ24時間働いている
- 疲れても本人は気づきにくい
- 一度固まるとなかなかゆるまない
という、コリ&しびれを量産しやすい条件が全部そろっている。
結果として、
深層筋がガチガチ
→ 腱が引っ張る
→ フタ(屈筋支帯)がゆがむ&締まる
→ 手根管が狭くなる
→ 正中神経が押される
という流れで手根管症候群が起こってきます。
浅い筋肉だけ揉んでも良くならない人が多いのは、
この「見えない深層の硬さ」が残っているからです。
「前腕の深層筋は浅層より硬くなりやすい(=過緊張・虚血になりやすい)」という“メカニズムベースの強い裏付け”は多数ある。
ただし
「深層筋だけが特別に硬くなる」と直接書いた研究は少ない。
でも、臨床でも解剖でも生理学でも論文でも、
深層筋が“硬くなる前提条件が揃っている”ことを示す証拠は山ほどある。
だから論理的にも、医学的にも説明がつく。
以下、エビデンスとして示せる根拠を“嘘なし・ごまかしなしで”整理する。
【1】深層筋は「血流が少ない」ことが複数の研究で証明されている
深層筋は、
- 筋膜
- 腱
- 骨
に囲まれているため、
✔ 浅層より血流が届きにくい
✔ 低酸素(虚血)になりやすい
✔ 疲労物質が溜まりやすい
これは MRI、近赤外線分光法(NIRS)、組織学的研究で一致して示されている。
つまり、
“硬くなる環境”がそもそも深層の方が厳しい。
【2】深層筋は「姿勢保持や微細動作」で“ほぼ24時間活動”することが研究で確認済み
前腕の深層筋(特に FDP、FPL、PQ)は
「低負荷・長時間活動するトニック筋」に分類され、
以下が論文で共通して示されている:
✔ スマホ・PC作業で深層筋の活動が長時間持続
✔ 作業姿勢で常時軽度収縮(休まらない)
✔ 長時間の低負荷収縮ほど筋疲労を起こしやすい
※高負荷の方が疲れるように見えるが、
実は “低負荷 × 長時間”の方が虚血と硬さの原因になる。
これ、深層が永遠に働かされてる理由。
【3】深層筋は“筋紡錘が多く、過緊張になりやすい”ことが生理学研究で確立
深層筋は
姿勢保持・関節安定性 の役割があり、
筋紡錘密度が浅層より高い。
その結果:
✔ 反射で過緊張が続きやすい
✔ 疲労しても「休んでくれない」
✔ 交感神経ストレスなどで緊張が上がりやすい
つまり、
“硬くなるスイッチが入りっぱなしになりやすい”構造的特徴がある。
【4】トリガーポイントは“深層筋の方に多い”と報告されている
FDP・FPL・PQ のような深層筋は
トリガーポイント形成が多いと複数の研究で確認されている。
理由は:
- 血流不足
- 長時間活動
- 局所代謝の低下
- 微小損傷
- 姿勢ストレス
トリガーポイントは“筋の硬さ=持続的異常収縮”のことなので、
深層筋が硬くなりやすい生理的証拠になる。
【5】CTS の患者で深層屈筋群(FDP/FPL)の緊張亢進が多数報告
手根管症候群の超音波や MRI 研究では、
以下の所見が多く報告されている:
✔ 深層屈筋群の腱周囲の滑走低下
✔ 深層筋由来の腱テンション増加
✔ 深部前腕筋の厚み・緊張の増大
これはつまり、
“浅層より深層の硬さが問題になっている”
という間接的なエビデンス。
【6】鍼の研究で“深層筋由来のしびれ・痛みが改善する”報告多数
これは直接的ではないけど大事。
- 深層屈筋に刺した鍼刺激で CTS 症状が改善
- 深層筋の緊張低下が神経伝導改善につながる
- 深層筋への刺激の有無で効果が大きく変わる
これ、
深層筋こそ症状の主因である間接証拠。
浅層だけ緩めても改善しない患者が多い理由を裏付ける。
④ 「鍼じゃなくてもよくない?」に正面から答える
ここ、大事なのでごまかさずに言います。
はい。
“筋肉をゆるめるだけ”なら、
マッサージでもストレッチでもリハビリでも運動でも、
改善する人はいます。
実際、軽い手根管症候群なら、それで良くなる人も多いです。
ただし問題は、
- 深層筋
- 屈筋支帯まわり
- 神経伝導
ここまで含めて改善させようと思うと、
表面からの刺激だけでは届きにくい ということ。
そこで出てくるのが 鍼 です。
鍼の強みをざっくり言うと、
- 深層の筋肉(FDP・FPL・PQ)に 直接届く
- 筋紡錘を刺激して ガチガチのトーンを一発で下げられる
- 手根管付近の 深部の血流を改善できる
- RCTで 神経伝導そのものが改善した というデータがある
このあたりは、マッサージ・ストレッチでは正直かなり厳しい領域です。
なので、
- 軽症:マッサージやストレッチでも良くなる人はいる
- 中等度〜重症・夜間痛あり:鍼の方が深さとスピードの面で圧倒的に有利
というのが、現実的で正直な線引きです。
⑤ じゃあ「内関」に刺す意味は? そこが一番知りたい
ここまで聞くと、
「深層筋に効けばいいなら、どこに刺してもよくない?」
と思うかもしれません。
そこで出てくるのが 内関(ないかん) です。
内関には、他のツボにはない役割がいくつかあります。
1. 正中神経の“ほぼ真上”にある
手根管症候群の主犯は正中神経。
内関は、その正中神経が 皮膚のすぐ下を通る“測定点”のような場所です。
ここに鍼をすると、
- 神経の過敏さ
- しびれ感
- 夜間のズキズキ
こういったものに ダイレクトに作用 しやすい。
だからCTSの臨床研究では、
ほぼ全てのRCTが PC6 を採用しています。
2. 深層屈筋群の“交差ポイントの直上”
内関の深部には、
- 深指屈筋(FDP)
- 長母指屈筋(FPL)
のラインが走っています。
つまり 「問題児2トップの真上」 です。
ここから深く刺すことで、
腕の深層筋のトーンをまとめて落としやすい。
3. 手根管の“上流”で血流と圧を調整できる
手根管の少し手前に当たる位置なので、
- その先のトンネル(手根管)への血流
- 浮腫(むくみ)
- 手首全体の張り
これらを 上流からコントロールするポイント にもなります。
トンネルの“入り口側の渋滞を流す”イメージです。
4. 自律神経にも効くので「夜間痛」に強い
内関は古典的にも、
- 胸のつかえ
- 動悸
- 吐き気
- 不安
など、自律神経系の症状に使われてきたツボです。
現代の研究でも、
- 副交感神経の活動アップ
- 痛みの感じ方の調整
- ストレス反応の低下
が報告されていて、
「痛み+自律神経」がからむ夜間痛と相性が良い のは納得できます。
⑥ まとめ:なぜ内関に鍼をするのか?
ここまでの話を、一番シンプルな形にまとめると──
- 手根管症候群は
「腕の深層筋 → 腱 → 手首のフタ → 神経」
という連鎖の病気 である - フタ(屈筋支帯)は、
下から押し上げられ、かつ自分でも締まって狭くなる - 深層筋は働きすぎ・血流不足・休みにくさで 固まりやすい構造
- 軽い人はマッサージやストレッチでも良くなるが、
深層・支帯・神経伝導まで含めて整えるなら鍼が一歩リード - その中でも 内関は
- 正中神経ラインのど真ん中
- 深層屈筋にアクセスしやすい
- 手根管の上流で血流・圧を調整しやすい
- 自律神経にも効いて夜間痛にも強い
→ だから「外せないツボ」になる
手根管症候群は、
「年だから」「使いすぎだから」とあきらめる必要はありません。
腕の奥で何が起きているか を理解して、
そこにちゃんと届くアプローチができれば、
しびれも夜間痛も、想像以上に変わります。


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