【わかりやすく解説】鍼で“内臓が整う”のはなぜ?

経穴

— 体性‐自律神経反射というしくみ


鍼が「内臓にも効く」と言われる理由

肩こりや腰痛だけでなく、
「胃の調子が良くなった」「お通じが整った」「動悸が落ち着いた」
――鍼を受けた人がよく口にする感想です。

でも、なぜ“皮膚や筋肉”に刺しただけで“内臓”まで反応するのでしょう?
実は、これにはちゃんとした神経のルートがあるんです。


キーワードは「体性‐自律神経反射」

人間の体には、

  • 体性神経(皮膚・筋肉などの感覚)
  • 自律神経(心臓・胃・腸・膀胱などの働きを自動でコントロール)
    という2つの神経ネットワークがあります。

この2つは完全に別々ではなく、
「皮膚や筋肉の刺激が、自律神経を通して内臓に影響する」
という反射ルートでつながっています。

これが体性‐自律神経反射(somatoautonomic reflex)
鍼やお灸が内臓に効くメカニズムは、まさにこの反射なんです。

「ヒトと動物、違いすぎない?」問題への答え

  • 動物実験は麻酔下で情動ノイズが少なく反射が“純粋”。
  • ヒトは情動・注意・期待が自律神経に乗るため、反応に時間遅れ/個体差が出やすい。
  • だから臨床では、説明・環境・呼吸などで副交感トーンを底上げし、刺激設計の方向性(上の4因子)をブレずに適用するのがコツ。

鍼刺激はどこで統合される?

  • 四肢刺激 → 主に上位中枢(脳幹)で処理され非分節性(全体調整)の色が強い。
  • 体幹(胸・腹・背)刺激脊髄+脳幹で処理、分節性(セグメント調整)が強い。

だから「全体の自律神経トーンを落ち着けたい→四肢」

「臓器分節をピンポイントで抑えたい→体幹」という使い分けが筋が通る


臓器ごとの反応パターン(動物実験+人のデータ)

刺激する場所起こる変化反射のタイプ
胸・腹まわり(体幹)胃や膀胱の動きを抑える脊髄反射(分節性)
手足(四肢)胃や腸の動きを促す脳幹反射(全身調整)
会陰・仙骨まわり排尿を抑える(頻尿改善に使われる)脊髄反射
胸前や手首心拍を落ち着ける(脳幹GABA経由)上位反射

ポイントは、
どこを刺激するかで“反射の方向”(抑制 or 促進)が変わること。

反射の強さを決める4つの条件

条件強いとどうなる?
刺激の強さ強い → 興奮・促進しやすい
刺激の弱さ弱い → 抑制しやすい
周波数(電気鍼など)低周波 → 抑制寄り/高周波 → 促進寄り
刺激の深さ筋肉まで深く → 抑制効果が出やすい

たとえば、

  • 「動悸や不安」なら弱刺激×低周波×体幹寄り(鎮静)
  • 「便秘や胃の働き低下」なら中刺激×四肢×やや高周波(促進)
    という使い分けができます。

胃腸の働きで見てみよう

研究では、

  • お腹を刺激すると胃の動きが抑えられ
  • 足を刺激すると胃の動きが活発になることが確認されています。

これは、
腹部刺激 → 胃交感神経↑(抑制)
足刺激 → 迷走神経↑(促進)
という神経経路の違いによるもの。

臨床で言えば、

  • 胃痛・膨満感 → お腹まわりの鍼
  • 食欲低下・消化不良 → 足のツボ(足三里など)
    のように使い分けます。

排尿のコントロール

同じく興味深いのが膀胱。
ラット実験では、
会陰(股のあたり)を刺激すると、膀胱のリズムが止まり、排尿が抑えられました。

つまり、
「下腹や仙骨部の鍼で頻尿を抑える」
という臨床効果も、ちゃんと脊髄反射の仕組みで説明できるわけです。


ホルモンや血流にも影響

副腎や卵巣のホルモン分泌、
筋肉の血流量なども、自律神経で制御されています。
鍼で交感神経の活動を調整すると、

  • ホルモンバランス(ストレス・月経)
  • 筋の血流(こり・冷え・痛み)
    にも変化が出ることがわかっています。

実際の臨床への応用例

目的推奨部位・分節深さ周波数強度
胃運動を抑える(鼓腸・痛み)腹部T6–T12筋層2–4Hz低〜中
胃運動を促す(機能低下)後肢/四肢皮下〜筋2–10Hz低〜中
頻尿・過活動膀胱会陰・仙骨S2–S4皮下〜筋2–4Hz
不安・動悸の鎮静上肢内側/胸前筋寄り2–4Hz
筋痛・循環改善痛覚筋+関連皮節2–10Hz
症状鍼の方向性
胃の重さ・吐き気抑制系反射を使う腹部の浅い刺激/低周波
胃の動きが鈍い促進系反射を使う足のツボ(足三里など)を刺激
頻尿・残尿感抑制反射仙骨・会陰まわり
動悸・不安抑制反射胸前・手首のツボ
便秘促進反射四肢(特に下肢)を刺激

🔍鍼灸の「効果の根拠」がここにある

この総説(Uchida et al., 2017)は、
日本人研究者(内田・鍵谷・佐藤)が50年以上かけて解明してきた成果をまとめたもの。
単なる経験ではなく、神経生理学的に再現可能な反射経路として鍼の作用を説明しています。

つまり、

「ツボを刺すと内臓が動く」
という昔からの経験則は、ちゃんと神経の回路で裏づけられている。

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