「たこ(胼胝)」を甘く見るな

― 歩き方と靴選びでほぼ決まる ―

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糖尿病足病変のサイン、「たこ」を軽視していませんか?

現在、世界中で約5億3700万人が糖尿病を患っていると推定されています。その合併症の一つである糖尿病性神経障害(DPN)は、足の感覚を鈍らせ、痛みを感じにくくさせます。

特に注意が必要なのが、足の裏にできる「たこ」です。資料によれば、糖尿病足潰瘍の82%以上で、潰瘍が発生する前にたこが形成されているという報告があります。たこがある部位は、ない部位に比べて潰瘍のリスクが11倍も高くなるため、たこを単なる角質の増殖と考えず、重要な警告サインとして捉える必要があります。

「皮膚の硬さ」と「振動の感じ方」が教えてくれるリスク

最近の研究では、歩行中の足への負荷(足底圧)を予測する新しい方法が探られています。

皮膚の硬さと感覚の変化: 糖尿病患者さんの足の裏は、神経障害が顕著になる前から機械的特性(硬さ、しなやかさ、厚み)が変化し始めることがあります。

予測の鍵: 足の前部(前足部)にかかる高い圧力は、皮膚の硬さと「振動感知閾値(VPT)」の低下を組み合わせることで予測できることが分かりました。

代償メカニズム: 面白いことに、神経障害がある人の場合、皮膚が硬くなることで、残り少ない感覚受容器(マイスナー小体など)への振動伝達を助け、感覚の鈍さを補おうとする代償機能が働くことも示唆されています。

これらの特性を評価することは、潰瘍のリスクを早期に発見するための貴重なツールになります。

靴選びの落とし穴:サイズと「せん断力」

たこができる主な原因は、垂直方向の「圧力」だけでなく、水平方向にずれる力である「せん断力(摩擦の力)」です。提供された資料には、正しい靴選びのための重要なヒントが記されています。

1. 「靴を履けば安心」とは限らない: 靴を履くことが必ずしも圧力やせん断力を下げるとは限りません。

2. 適切なサイズ選びが命:

    ◦ 第2中足骨頭(足指の付け根の中央): 靴のサイズが長すぎると、靴の中で足が動き、せん断力が強まってたこができやすくなります。

    ◦ 第5中足骨頭(小指の付け根): 逆に靴の幅が狭すぎると、強い摩擦(せん断力)が生じます。

3. 「紐」や「ストラップ」の重要性: 足の甲をしっかり固定できる紐靴やストラップ付きの靴は、足底のせん断力を軽減するのに非常に効果的です。

4. 「たこ」がある人のリスク: すでにたこがある人は、普段の靴で歩く際に、たこがない人に比べて有意に高いせん断力がかかっていることが分かっています。

胼胝ができる場所による歩行の違い

提供された資料に基づくと、胼胝(たこ)ができる場所によって、その形成に関与する歩行の特徴やリスク要因には明確な違いがあります。特に第1、第2、第5中足骨頭(MTH)の3カ所において、それぞれ異なる歩行動作や靴の影響が指摘されています。

以下に場所別の歩行の違いと特徴を詳述します。

1. 第1中足骨頭(親指の付け根)

この部位に高い負荷(せん断応力・圧力比:SPR-i)がかかり、胼胝ができる主な要因は、推進力を得るための足の動きにあります。

膝関節の動き: 立脚後期(地面を離れる直前)において、膝関節の屈曲(曲がる動き)が小さいことがリスク要因となります。

足首の動き: 推進力を得るために、蹴り出しの際に足首を過剰に回内(プロネーション)させる動きが見られます。膝の屈曲の少なさを、足首の回内運動で補っていると考えられています。

歩行速度: 歩行速度が速い(15メートル歩行のタイムが短い)ほど、蹴り出し時の衝撃が強まり、この部位への外力が大きくなります。

2. 第2中足骨頭(人差し指の付け根)

この部位の胼胝は、特に女性に多く見られ、歩行中の足首の回転運動と靴のサイズが深く関係しています。

足首の回転: 足首の回外・回内(外旋・内旋)運動が大きくなっています。

靴の影響: 足の長さに対してサイズが長すぎる(オーバーサイズ)靴を履いていることが要因です。靴の中に余裕がありすぎると、歩行中に足が靴の中で動き、それを制御しようとして足首の回転運動が大きくなり、摩擦(せん断力)が生じやすくなります。

3. 第5中足骨頭(小指の付け根)

この部位では、歩行動作そのものよりも、身体的特徴と靴の適合性が強く影響します。

身体的・力学的要因: 高いBMI(肥満)と、靴の幅が狭すぎる(タイトなフィット感)ことが、この部位の最大せん断応力(PSS)を高める要因となります。

関連する関節運動: 足首の屈曲・伸展、内外旋、および膝関節の内転・外転運動との関連が示唆されています。

共通する歩行の特徴

場所にかかわらず、胼胝がある人の歩行には以下の共通点があります。

せん断力の増大: 胼胝がある人は、普段履いている靴で歩行する際、胼胝がない人に比べて有意に高いピークせん断力がかかっています。

裸足との違い: 興味深いことに、裸足での歩行では、胼胝がある人とない人の間でせん断力に有意な差は見られません。これは、不適切な靴が歩行時の足裏への負荷を悪化させている可能性を示唆しています。

感覚低下の影響: 神経障害がある場合、感覚の鈍さを補うために足首や膝の使い方が変化し、適切な「足の転がり(フットロールオーバー)」ができなくなることで、特定の中足骨頭への負荷が集中しやすくなります。

これらの違いを踏まえ、第1中足骨頭の胼胝にはロッカーソール靴や歩行訓練による推進力の補助、第2・第5中足骨頭には適切なサイズ(長さ・幅)の靴選びが、予防のための有効な介入として推奨されています。

靴の靴紐による固定は、足底の剪断力にどう作用するか。

靴の靴紐やストラップによって足の甲をしっかりと固定することは、足底にかかる剪断力(水平方向のずれの力)を減少させるのに非常に効果的です。

資料に基づき、その具体的な作用と効果について詳述します。

1. 剪断力を減少させるメカニズム

靴紐などで足の甲(足背部)を固定することで、歩行中に靴の中で足が動いたり滑ったりするのを防ぐことができます。剪断力は、足と靴の間の摩擦やズレによって発生するため、この「靴内での遊び」をなくすことが、特にリスクの高い部位における剪断力の軽減につながります。

2. 具体的な事例

靴の構造の違いが剪断力に与える影響について、いくつかの比較結果が示されています。

紐靴と紐のない靴の比較: ある実験において、重いブーツが紐のない軽い革靴よりも低い剪断力を示した事例があります。この理由として、ブーツには靴紐があり足の甲を固定できていたのに対し、革靴にはそれがなかったことが挙げられています。

ハイヒールにおける効果: 一般的にハイヒールは剪断力を高めるとされていますが、ストラップで甲を固定できるタイプのハイヒールを履いた被験者は、ストラップのないハイヒールを履いた被験者よりも剪断力が低く抑えられていました。

治療用靴(ケアシューズ): 足潰瘍の予防を目的とした治療用靴にも靴紐が採用されており、これによって剪断力を効果的に減少させることが期待されています。

3. 臨床的な意義

足底の剪断力は、糖尿病性神経障害を持つ患者さんにおいて「たこ(胼胝)」形成の主要な要因となります。

• 資料によれば、たこがある人は、普段の靴で歩行する際にたこがない人よりも有意に高いピーク剪断力を受けています。

• 靴紐やストラップによる適切な固定は、これらのリスク部位(特に第1・第2中足骨頭など)への負担を軽減し、たこの形成やその後の足潰瘍への進展を予防するための有効な介入手段となります。

結論として、資料は、単に「靴を履く」ことだけでは不十分であり、「紐やストラップで甲を固定し、足と靴を一体化させること」が、有害な剪断力を抑えるために極めて重要であると示唆しています。

胼胝がある人とない人で、裸足歩行の剪断力に差はあるか。

提供された資料によると、裸足歩行における剪断力(せん断力)については、胼胝(たこ)がある人とない人の間で有意な差はありません,,。

具体的な詳細は以下の通りです。

裸足歩行の結果: ある研究において、裸足での歩行をシミュレートした条件下で計測したところ、胼胝がある人のピーク剪断力の平均値は2.59 ± 1.08 kgf、胼胝がない人の平均値は2.67 ± 0.99 kgfであり、統計的な有意差は認められませんでした(p = 0.66),。

靴を履いた場合との違い: 興味深いことに、「普段履いている靴」で歩行した場合には明確な差が現れます,。靴を履いた状態では、胼胝がある人のピーク剪断力(3.31 ± 0.78 kgf)は、胼胝がない人(2.03 ± 0.42 kgf)に比べて有意に高いことが示されています(p < 0.01),。

このことから、資料は、特定の個人の歩行そのものに原因があるだけでなく、「不適切な靴の着用」が足底の剪断力を増大させ、胼胝の形成に大きく関与している可能性を示唆しています。

予防のためのアドバイス

研究者たちは、たこの部位に応じた対策を提案しています。

親指の付け根(第1中足骨頭): 膝の曲げ伸ばしが小さい歩き方は、蹴り出しの際に足に負担をかけます。蹴り出しをスムーズにする「ロッカーソール(底が船底状にカーブした靴)」の使用や、歩行トレーニングが有効です。

その他の部位: とにかく足に合った適切なサイズ(長さ・幅)の靴を選ぶこと、そしてインソール(中敷き)を活用して圧力を分散させることが推奨されます。

糖尿病患者さんの足を守るためには、専門家によるケア(たこの除去など)だけでなく、「自分の足の感覚や硬さの変化を知ること」、そして「力学的に正しい靴を選ぶこと」が不可欠です。

今日から一度、ご自身の靴のサイズと、足裏の硬さをチェックしてみてはいかがでしょうか。

どんな歩行やどんな歩行トレーニングをすれば良い?

糖尿病患者さん、特に神経障害(DPN)がある方が「たこ(胼胝)」の形成や足潰瘍を防ぐために、どのような歩行やトレーニングを心がけるべきか、提供された資料に基づき解説します。

結論から述べると、「足指の付け根(第1中足骨頭)への負担を減らす歩き方」「蹴り出しをスムーズにするトレーニングや補助」が鍵となります。

1. 意識すべき歩行のポイント

資料では、足の部位ごとに負荷を高める歩行の特徴が指摘されています。

膝をしっかりと使う: 第1中足骨頭(親指の付け根)に高い負荷がかかるリスク要因として、「立脚後期(足が地面を離れる直前)における膝関節の屈曲(曲げ)が小さいこと」が挙げられています。膝の動きが小さいと、それを補うために足首が過剰に動き、負担が増してしまいます。

足首の過剰な動きを抑える: 推進力を得ようとして、蹴り出しの際に足首を過度に回内(プロネーション)させる動きは、特定の部位にせん断力を集中させ、たこの原因となります。

歩行速度の調整: 歩行速度が速い(15メートル歩行のタイムが短い)と、かかとが地面につく際や蹴り出す際の衝撃が強まり、足底圧が高くなる傾向があります。自分に合った安定したスピードで歩くことが推奨されます。

2. 推奨される歩行トレーニング

理学療法士などの専門家の指導のもとで、以下の点に焦点を当てたトレーニングを行うことが効果的です。

関節可動域の維持: 糖尿病が進行すると、足首や足の関節の柔軟性が低下し、適切な足の転がり(フットロールオーバー)ができなくなります。これにより足底圧が上昇するため、足首周りの柔軟性を高めることが重要です。

蹴り出し動作の改善: 蹴り出しの際に、膝関節の角度を適切に保ち、足首の過度な回内を抑えるような歩行訓練が、たこ形成の予防につながります。

フィードバックの活用: 最近の研究では、歩行中の関節角度をセンサーで測定し、適切な角度で歩けているかリアルタイムでフィードバックを受ける手法も検討されています。

3. 歩行をサポートする工夫

歩き方の改善とあわせて、力学的に負担を軽減する道具を活用することも大切です。

ロッカーソール靴の利用: 底が船底状にカーブしている「ロッカーソール」の靴は、足の蹴り出し動作を補助(アシスト)し、中足骨頭への圧力を軽減するのに非常に有効です。これにより、少ない努力でスムーズな歩行が可能になります。

足の固定: 靴の中で足が動くと摩擦(せん断力)が生じます。紐やストラップで足の甲をしっかり固定することで、足裏のせん断力を大幅に減らすことができます。

インソールの活用: 適切なインソールは圧力を分散させますが、単に「履き心地が良い(柔らかい)」という理由だけで選ぶのではなく、専門的な評価に基づいて圧力を効果的に下げるものを選ぶ必要があります。

まとめ: たこや潰瘍を予防するためには、「膝を意識して使い、足首をこねない歩き方」ロッカーソールの靴や適切なインソールで蹴り出しを助けることが推奨されます。

※具体的なトレーニング内容については、ご自身の足の状態に合わせて主治医や理学療法士に相談しながら進めてください。

まとめ:予防のための戦略

再発を防ぐには、専門家による定期的な胼胝の除去(フットケア)に加えて、以下のバイオメカニクス的な対策を組み合わせることが効果的です。

1. 足の部位(第1、2、5中足骨頭)に応じた適切なサイズの靴を選択する。

2. 靴紐等で足を固定し、靴内での滑りを防ぐ。

3. ロッカーソール靴歩行トレーニングを取り入れ、足首や膝の動きを最適化する。

ご自身の胼胝ができる位置を確認し、それに合わせた靴の調整や歩き方の見直しを行うことが、足の健康を守る鍵となります。

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