嚥下機能障害に対する鍼灸治療

嚥下

― 経穴・メカニズム・論文エビデンスから考える ―

「食べる」「飲み込む」は、人としての尊厳ど真ん中。
にもかかわらず、嚥下障害は軽視されがちで、介入が遅れやすい
特に脳卒中後嚥下障害(Post-Stroke Dysphagia:PSD)は、誤嚥性肺炎=死亡リスクに直結します。

では、鍼灸はここに何ができるのか。
結論から言います。

鍼灸は“魔法”ではないが、嚥下リハビリのブースターにはなり得る。

その根拠を、経穴・メカニズム・論文から整理します。


嚥下障害とは何が起きているのか

嚥下は

  • 口腔期
  • 咽頭期
  • 食道期

多段階・多神経ネットワーク運動

脳卒中では

  • 延髄(孤束核・疑核)
  • 大脳皮質(運動野・島皮質)
  • 錐体路・皮質延髄路

このあたりが壊れ、
「タイミング」「筋出力」「協調性」が一気に崩れます。

つまり嚥下障害は、
👉 ただの喉の筋力低下ではない
👉 中枢×末梢のハイブリッド障害

ここが超重要。


嚥下に使われる主要経穴

① 廉泉(CV23)【ド本命】

圧倒的エース。登板回数が違う。

  • 舌骨上筋群・舌根・咽頭に近接
  • 舌運動・喉頭挙上に関与
  • 単独 or 中心穴としてRCT多数

論文では

  • 電気鍼
  • 刺入角度を工夫した側刺

など、CV23をどう使うか選手権みたいな世界。

👉 嚥下の話でCV23を外すと、それだけで浅く見える。


② 翳風(TE17)

  • 顔面神経・舌咽神経・迷走神経に近接
  • CV23との黄金コンビ

「咽頭反射・喉頭挙上」狙いで使われることが多く、
電気鍼との相性が良い


③ 風池(GB20)

  • 中枢性障害(脳卒中)で頻出
  • 頭頸部血流・覚醒度・姿勢制御の文脈で使われる

👉 嚥下を「喉だけの問題」にしない配穴。


④ 人迎(ST9)※慎重枠

  • 論文上は出てくる
  • ただし 頸動脈洞反射リスク

正直言うと、
👉 無理に使わなくてもいい
👉 使うなら「知識と技術がある人限定」


⑤ 遠隔穴(ST36・LI4 など)

  • 足三里(ST36)
  • 合谷(LI4)

これは
「嚥下に効く!」というより
全身状態・活動性・回復力の底上げ枠

論文では介入パッケージの一部として登場することが多い。


舌鍼(Tongue acupuncture)はアリか?

結論:
👉 研究的にはアリ
👉 臨床では選ぶ

舌鍼を用いたRCT・メタ解析では

  • WST
  • SSA
  • FOIS

などの改善が報告されています。

ただし

  • 盲検困難
  • 症例の均質性が低い
  • 術者依存が強い

なので、

「誰にでも安全に再現できるか?」
この問いには、正直 NO

電気鍼の設定

嚥下 × 電気鍼(EA)で無難かつ再現性が高いのは👇

  • 周波数:2〜10 Hz(低周波)
  • パルス幅:0.2〜0.5 ms
  • 強度:筋収縮が“わずかに”確認できるレベル
  • 時間:15〜20分
  • 頻度:週3〜5回(研究ではほぼ毎日)

👉 まずは 2 Hz or 5 Hz
👉 迷ったら低周波一択


なぜ低周波(2〜10 Hz)なのか

① 中枢神経への影響が強い

低周波EAは

  • βエンドルフィン
  • エンケファリン
  • 中枢神経可塑性

を介して
👉 脳幹・皮質レベルに効きやすい

嚥下は
「筋トレ」じゃなく
神経回路の再起動が本丸。

だから高周波は優先度が落ちる。


② 論文で一番使われている帯域

PSD(脳卒中後嚥下障害)のRCT・メタ解析を見ると、

  • 2 Hz
  • 5 Hz
  • 10 Hz

このあたりが圧倒的多数派。

特に

  • CV23 ± TE17
  • CV23 ± 舌鍼

の組み合わせで
👉 2 Hz固定は王道。


高周波(50〜100 Hz)はどうなの?

結論:
👉 嚥下メインなら優先しない

理由は3つ。

  1. 筋疲労を起こしやすい
  2. 感覚遮断寄り(鎮痛向き)
  3. 中枢可塑性への寄与が弱い

「喉を動かしたい」のに
筋を黙らせる方向に行くのはズレてる。


実際のセッティング例

王道パターン(PSD・高齢者)

  • 経穴:CV23 − TE17(両側 or 片側)
  • 周波数:2 Hz
  • 強度:
    • 舌骨周囲が「ピク…」と動く
    • 患者が「違和感はあるけど不快じゃない」
  • 時間:15分

もう一段攻める場合(反応が鈍い人)

  • 周波数:2/10 Hz 交互(dense-disperse)
  • 目的:
    • 感覚入力の単調化を防ぐ
    • 神経適応を起こしにくくする

ただし
👉 初回からはやらない
👉 反応見てから


刺激強度の超重要ポイント

ここミスる人が多い。

❌「強ければ効く」
「ギリギリ動く」

  • 喉頭がグイグイ上がる → やりすぎ
  • 痛い・怖い → 論外
  • 何も感じない → 意味なし

嚥下は
👉 繊細なタイミング競技

筋トレじゃない。


嚥下訓練と合わせるなら

電気鍼中 or 直後に

  • 空嚥下
  • effortful swallow→「思いっきり力を入れて飲み込む」嚥下
  • Mendelsohn(可能な人のみ)→「喉仏を上げたままキープする」嚥下

を入れると
論文的にも臨床的にも一段強い

👉 「電気だけ流して放置」は三流。


注意点(ガチ重要)

  • ST9(人迎)での通電は原則避ける
  • 心疾患・ペースメーカーは慎重
  • 強度を上げすぎると
    👉 嚥下反射が逆に鈍ることがある

鍼灸はなぜ嚥下に効くのか(メカニズム)

① 中枢神経系への影響

動物・ヒト研究では

  • 電気鍼刺激
  • 運動野・島皮質の賦活
  • 延髄嚥下中枢(孤束核)への影響

が示唆されています。

要するに、

👉 サボってる嚥下ネットワークに「目覚まし」をかけている


② 末梢レベル(筋・感覚入力)

  • 舌骨上筋群
  • 咽頭収縮筋
  • 喉頭挙上

これらに
感覚入力+筋活動促通が入り、
嚥下反射のタイミングが改善する可能性。


③ 嚥下訓練との相乗効果

重要なのはここ。

多くのRCTは
「嚥下訓練 + 鍼(電気鍼)」 vs 嚥下訓練のみ

結果は、

👉 併用群の方が改善幅が大きい傾向

つまり鍼灸は
単独ヒーローではなく、名脇役


エビデンスの正直レビュー

✔ ポジティブ

  • 2020年代のメタ解析で改善傾向は一貫
  • 特にPSDで報告多数
  • 重篤な有害事象は少ない

❌ ネガティブ

  • 中国単施設研究が多い
  • 盲検・ランダム化の質が低いものも多い
  • 出版バイアスの可能性

👉 「効くと言い切る」のはアウト
👉 「可能性がある」「併用で価値」ならセーフ


臨床での現実的な使い方

  • 嚥下評価(WST・SSA・VFSSなど)を無視しない
  • 誤嚥リスクが高い人は医師・STと連携
  • CV23は浅刺・安全最優先
  • 「食べられるようになった気がする」では終わらせない

まとめ

  • 嚥下障害は中枢×末梢の複雑系
  • 鍼灸はCV23を中心に、嚥下訓練のブースターとして有効性が示唆
  • エビデンスは「弱めだが一貫」
  • 正しく使えば、誤嚥リスクを下げる可能性がある

最後に一言。

嚥下に手を出すなら、中途半端は一番危ない。
知識・評価・連携、全部セットで初めて“武器”になる。

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