――音を聴き、体を支配する“平衡センサー”の正体と、めまいの本当の原因
「耳が悪い=聞こえにくい」
多くの人がそう思っています。
しかしこれは半分しか当たっていません。
耳は、
- 音を感じ取る
- 体の傾きや回転を察知する
- 今、自分が“どこでどう動いているか”を脳に伝える
という、人間の空間認知を支配する超重要器官です。
この記事では、
- 耳の構造
- めまいが起こる本当の理由
- 西洋医学と東洋医学(鍼灸)の視点
この3つを一本の線でつなぎます。
1.音はいつ「音」になるのか?
耳は大きく
外耳・中耳・内耳に分かれます。
外耳・中耳:ここではまだ「音ではない」
外耳道に入った音は、鼓膜を振動させます。
この振動は
- ツチ骨
- キヌタ骨
- アブミ骨
という3つの耳小骨を通って増幅されます。
ここで重要なのは、
👉 この段階では、まだ音ではない
ということ。
ただの**物理的な振動(波)**です。
内耳・蝸牛:ここで初めて「音」になる
その振動が内耳の蝸牛に届くと、状況が変わります。
蝸牛の中では、振動が
基底板上を進行波(トラベリングウェーブ)として伝わり、
周波数ごとに特定の部位で最大振幅を生じます。
- 高い音 → 蝸牛の入口側
- 低い音 → 蝸牛の奥側
この基底板の動きによって有毛細胞が興奮し、
初めて電気信号へと変換されます。
この信号が
蝸牛神経 → 脳幹 → 側頭葉
へ届いた瞬間、
私たちは「音を聴いた」と認識します。
難聴の分類が示す“壊れている場所”
- 耳小骨までの問題 → 伝音難聴
- 蝸牛・神経の問題 → 感音難聴
この区別は、
後述するめまいの鑑別でも極めて重要になります。
2.耳は「バランス装置」でもある
耳のもう一つの顔。
それが平衡感覚の中枢です。
前庭(卵形嚢・球形嚢)
ここには耳石と呼ばれる微細な結晶が存在します。
- 卵形嚢:前後・左右の水平移動
- 球形嚢:上下移動(エレベーターでフワッとする感覚)
これらはまとめて平衡斑と呼ばれ、
「傾き」や「直線加速」を感知します。
三半規管:回転を察知するセンサー
三半規管は
- 前
- 後
- 外
の三方向に配置された、回転専用センサーです。
根元の膨大部にあるクプラが、
リンパ液の流れを感知し、
「今、右に回った」
「急に左を向いた」
といった情報を脳へ送ります。
このように、耳は物理的な振動を電気信号に変え、重力や回転を瞬時に見極める、まさに精密機械のような働きをしています。しかし、この精巧なシステムのバランスが崩れたとき、私たちは「めまい」という不調に直面することになります。
3.なぜ「めまい」が起こるのか?
良性発作性頭位めまい症(BPPV)
臨床で最も多いめまいです。
原因は単純。
👉 耳石が剥がれて、三半規管(特に後半規管)に迷い込む
頭を動かすたびに、
本当は回っていないのに
脳へ「回転している」という誤情報が送られます。
例えば、靴紐を結ぼうとしたり、棚の上のものを見ようとしたりして頭を動かすと、三半規管の中の耳石が移動し、実際には回転していないのに脳に「回っている」という誤った信号を送ってしまいます。これが、数秒から数十秒続く回転性めまいの原因です。
特徴は
- 数秒〜数十秒の回転性めまい
- 頭位変換で誘発
- 難聴・耳鳴りは伴わない
ここ、超重要です。
メニエール病:耳の中が“むくむ”
メニエール病の本態は
内リンパ水腫。
内耳がパンパンに腫れ上がるため、少し動いただけで激しい回転性めまいが生じ、それが10分以上、時には長時間続きます。さらに、水圧で蝸牛の聴細胞もダメージを受けるため、難聴や耳鳴りが必ずセットで現れるのが大きな特徴です。30代以降の女性に多く、ストレスも発症に関与していると言われています。
つまり、
👉 内耳が水でパンパンになる
その結果、
- 10分以上続く激しい回転性めまい
- 難聴
- 耳鳴り
が必ずセットで起こります。
「めまい+耳の症状」
これはメニエール病を疑うサインです。
見逃してはいけない“危険なめまい”
- 一過性脳虚血発作(TIA):椎骨動脈の血流が一時的に悪くなることで起こるめまいです。一瞬で良くなることも多いため軽視されがちですが、放置すると数ヶ月以内に脳梗塞を発症するリスクが非常に高いため、迅速な対応が必要です。
- 聴神経腫瘍: 前庭神経にできる良性腫瘍です。腫瘍が大きくなると、同じ通り道にある顔面神経を圧迫し、顔面神経麻痺を引き起こすことがあります。
- 頚性めまい: 首の筋肉の緊張や頸椎の変形により、椎骨動脈が圧迫されて起こる「浮動性(ふわふわする)」めまいです。
特にTIAは、
「一瞬で治るから大丈夫」
が一番危険。
数ヶ月以内に脳梗塞へ進行するリスクがあります。
4.東洋医学は「全身の乱れ」としてめまいを見る
東洋医学では、
めまいを耳だけの問題とは考えません。
代表的な3タイプ
• 肝陽上亢(かんようじょうこう): ストレスやイライラで体内の「気」が突き上がった状態です。メニエール病のような激しいめまい、顔ののぼせ、高血圧を伴うのが特徴です。
• 気血両虚(きけつりょうきょ): 体に必要なエネルギー(気)や栄養(血)が不足し、脳を十分に養えない状態です。虚弱体質の人や、立ちくらみのようなめまいに見られます。
• 腎精不足(じんせいふそく): 加齢などにより、生命力の源である「腎」のエネルギーが衰えた状態です。高齢者のめまいに多く、腰膝の重だるさを伴います。
原因が違えば、
当然アプローチも変わります。
5.鍼灸でどう介入するのか?
めまいに効く主要なツボと指針
講義では、実際の臨床で多用される具体的な経穴(ツボ)とその打ち方が解説されています。
• 耳の周りの重要穴: 耳門(じもん)・聴宮(ちょうきゅう)・聴会(ちょうえ)の3穴は、聴覚やめまいの治療に不可欠です。特に聴宮は、口を開けてもらうことでできる隙間を狙って深く刺入する手法があります。これにより、耳周りの血流をダイレクトに改善します。
• 和髎(わりょう): もみあげの後方にあり、浅側頭動脈の拍動部に近いツボです。動脈の走行に沿って刺入することで、側頭部の血流改善を狙います。
• 四神聡(ししんそう): 頭頂部の「百会(ひゃくえ)」の前後左右にあるツボです。これらを百会に向けて寝かせて刺すことで、頭皮下の膜(帽状腱膜)を刺激し、慢性的なめまいや自律神経の調整に役立てます。
• 太谿(たいけい): 足首にあるツボで、腎のエネルギーを補い、耳の機能を底上げするために使われます。
臨床における心得
鍼灸治療を行う際は、患者さんの体位変化によるめまいの誘発に細心の注意を払います。特にBPPVの患者さんの場合、うつ伏せと仰向けの往復を頻繁に行わないよう配慮が必要です。
耳の不調は目に見えないため、本人にしかわからない辛さがあります。現代医学で構造的な問題を把握しつつ、東洋医学で全身の気の流れを整える。この両輪のアプローチこそが、頑固なめまいを解消する鍵となります。
まとめ
耳は、
最高性能のジャイロセンサーを内蔵した精密マイクです。
- マイク部分(蝸牛)が壊れれば音は歪む
- センサー部分(三半規管)に異物が入れば世界が回る
- 内部がむくめば、全身が混乱する
現代医学で構造を見極め、
東洋医学で全身の流れを整える。
この両輪が揃って初めて、
「原因不明のめまい」から抜け出せるのです。


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