──否定的メタ解析から考える、それでも臨床で意味がある理由
「鍼は痛みに効く」
これは臨床ではよく聞く話です。一方で、科学的にはどうなのか?
今回は、鍼灸に対してかなり厳しい結論を出した有名な論文をもとに、事実と解釈を整理します。
結論を先に言うと
- 鍼の鎮痛効果は“統計的には有意”
- しかし臨床的には意味があるとは言い難い
- 効いているように見える大部分はプラセボ効果
これは私の意見ではなく、BMJ(British Medical Journal)掲載の系統的レビューの結論です。
取り上げる論文
Madsen et al., 2009, BMJ
「Acupuncture treatment for pain: systematic review of randomised clinical trials」
・13試験
・3025名
・3群RCT(鍼/プラセボ鍼/無治療)
この「3群比較」という設計がポイントです。
鍼そのものの効果と治療を受けるという体験の効果を分けて評価できます。
鍼 vs プラセボ鍼の結果
- 効果量(SMD):−0.17
- VAS換算:約4mmの痛み軽減
著者の解釈は明確です。
臨床的に意味のある改善とは言えない
慢性痛の臨床研究では、
VASで10mm以上が「最小限意味のある変化」とされます。
4mmは、正直誤差レベルです。
プラセボ鍼 vs 無治療の結果
- 効果量(SMD):−0.42
- VAS換算:約10mm
ここは重要です。
👉 「鍼をした」という体験自体には、一定の鎮痛効果がある
つまり、
- 鍼そのもの → ほぼ効いていない
- 治療を受けたという文脈 → 効いている
という構図が見えてきます。
ツボ・得気・刺入深度は関係ある?
この論文ではさらに踏み込みます。
- ツボかどうか
- 皮膚を刺すかどうか
- 得気を得たかどうか
👉 どれも、効果と関連なし
むしろ皮肉なことに、
「よくできたプラセボ鍼」の方が効果が大きいという結果も出ています。
著者の最終結論
- 鍼の鎮痛効果はバイアスと区別できないほど小さい
- 鍼点刺激が痛みを下げるかどうかは不明
- 心理的・文脈的要因の影響が大きい
この論文は、
「鍼が効かない可能性」から目を背けていません。
じゃあ、鍼灸は無意味なのか?
ここで話を終わらせるのは、正直もったいない。
この論文が否定しているのは、主に次の考え方です。
- 「このツボだから効く」
- 「得気が出たから痛みが下がる」
- 「刺し方が本質」
一方で、否定されていないものがあります。
それでも臨床で“効く”理由
痛みは、末梢だけで決まる現象ではありません。
- 期待
- 安心感
- 治療者との関係
- 説明と納得
- 身体に注意を向ける体験
これらはすべて、中枢神経系の痛み調節に影響します。
つまり、
鍼は「魔法の鎮痛スイッチ」ではない
しかし「脳と身体の再学習を始めるきっかけ」にはなり得る
リハビリ・運動と組み合わせたときの価値
単独の鍼治療では効果が小さい。
これは否定的エビデンスが示しています。
しかし、
- 鍼で注意・感覚入力を変える
- その直後に運動・動作学習を行う
- 成功体験を積む
このセット介入は、まったく別の話です。
まとめ
否定的論文を避けるのではなく、
理解した上で使いこなす。
それが、これからの鍼灸・リハビリの現実的な立ち位置だと思います。
参考文献
Madsen MV, Gøtzsche PC, Hróbjartsson A.
Acupuncture treatment for pain: systematic review of randomised clinical trials.
BMJ. 2009;338:a3115.


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