【第3回】片頭痛とは何か

疼痛

―「血管が広がるから痛い」で思考停止しない―

はじめに

片頭痛は長年

「血管が拡張するからズキズキ痛む」

と説明されてきた。

しかし現在、この理解は不十分である。

片頭痛は血管の病気ではない。

三叉神経系と脳幹を中心とした

感覚処理システムの異常興奮と抑制不全によって生じる

神経学的疾患である。

片頭痛の定義(ICHD-3)

国際頭痛分類第3版(ICHD-3)では、片頭痛を以下のように定義している。

  • 片側性(両側のこともある)
  • 拍動性
  • 中等度〜重度
  • 日常動作で悪化する
  • 悪心・嘔吐、光過敏・音過敏を伴う

特に重要なのは「動くと悪化する」点であり、

これは緊張型頭痛との最大の鑑別点である。

【参考文献】

Headache Classification Committee of the International Headache Society.

The International Classification of Headache Disorders, 3rd edition.

Cephalalgia. 2018.

病態の核心①:三叉神経血管系の異常興奮

片頭痛発作時には、以下の反応が起こる。

  • 三叉神経一次ニューロンの過剰興奮
  • CGRP(calcitonin gene-related peptide)などの神経ペプチド放出
  • 血管拡張および無菌性炎症様反応

重要なのは、

血管拡張は原因ではなく、神経興奮の結果であるという点である。

【参考文献】

Goadsby PJ, et al.

Pathophysiology of migraine: a disorder of sensory processing.

Physiological Reviews. 2017.

病態の核心②:脳幹と下行性疼痛抑制系の機能不全

健常者では、脳幹を中心とした

下行性疼痛抑制系が感覚入力を調整している。

しかし片頭痛患者では、

  • 中脳水道周囲灰白質(PAG)
  • 延髄腹内側部(RVM)

などにおいて、疼痛抑制機構の機能低下が示されている

このため、光・音・匂いといった

本来無害な刺激が強い苦痛として知覚される。

【参考文献】

Akerman S, Goadsby PJ.

The role of the brainstem in migraine.

Current Pain and Headache Reports. 2013.

病態の核心③:皮質拡延性抑制(Cortical Spreading Depression)

前兆を伴う片頭痛では、

皮質拡延性抑制(CSD)と呼ばれる現象が重要である。

これは、

  • 大脳皮質を数mm/分で広がる脱分極波
  • それに続く神経活動の抑制

であり、閃輝暗点などの視覚症状の原因となる。

この現象は血管ではなく皮質の電気生理現象である。

【参考文献】

Lauritzen M.

Cortical spreading depression in migraine.

Brain. 1994.

Charles A, Baca SM.

Cortical spreading depression and migraine.

Nature Reviews Neurology. 2013.

なぜ「ズキズキ」と拍動性になるのか

片頭痛の拍動痛は、

  • 心拍と同期する
  • 動作で悪化する

という特徴を持つ。

これは、血管周囲に分布する三叉神経終末が

機械刺激に対して過敏化しているためである。

結果として、

心拍そのものが侵害刺激として認識される。

【参考文献】

Burstein R, et al.

Migraine pathophysiology: lessons from functional imaging.

Headache. 2015.

中枢性感作との関係

片頭痛発作を反復することで、

  • 三叉神経脊髄路核
  • 視床
  • 大脳皮質

において中枢性感作が形成される。

これにより発作閾値が低下し、

慢性片頭痛へ移行するリスクが高まる。

【参考文献】

Burstein R, et al.

Central sensitization and migraine.

Neurology. 2000.

鍼灸・運動療法は有効か?

発作中

原則として介入は推奨されない。

【参考文献】

Buse DC, et al.

Management of migraine attacks.

Lancet Neurology. 2019.

間欠期(予防・管理)

発作がない時期の管理としては有効性が示されている。

【システマティックレビュー】

Linde K, et al.

Acupuncture for the prevention of episodic migraine.

Cochrane Database of Systematic Reviews. 2016.

【運動療法】

Varkey E, et al.

Exercise as migraine prophylaxis.

Cephalalgia. 2011.

重要なのは、

発作を止めることではなく、発作頻度を下げることである。

施術NGライン

  • 拍動性の発作中
  • 強い悪心・光過敏を伴う
  • 月8回以上の発作で医療未介入

これらは医療領域での管理が最優先となる。

まとめ

  • 片頭痛は血管の病気ではない
  • 三叉神経系と脳幹の異常興奮が本質
  • CSDと中枢性感作が関与する
  • 介入の主戦場は「間欠期管理」

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