多裂筋性腰痛の6つの特徴とリハビリのアプローチ
腰痛の原因はさまざまですが、「どこが痛みの源なのか」を正確に見極めることが、的確なリハビリへの第一歩です。椎間板や神経が原因のケースはよく知られていますが、実は筋肉――とくに「多裂筋(たれつきん)」――が痛みの主役となっているケースも少なくありません。
本記事では、多裂筋をはじめとする筋肉が引き起こす腰痛の特徴を6つに整理し、リハビリ的な視点からわかりやすく解説します。
多裂筋とは何か?
多裂筋は、脊椎に沿って走る深層筋群(インナーマッスル)のひとつです。頸椎から仙骨にかけて分布し、椎骨と椎骨をまたいで背骨の安定性を維持するという重要な役割を担っています。
多裂筋には大きく「短繊維」と「長繊維」の2種類があります。
- 短繊維:椎間関節(隣り合う椎骨の間の関節)を安定させる
- 長繊維:仙腸関節(骨盤の後ろにある関節)の安定化に関与する
このように、多裂筋は単独で機能するだけでなく、背骨や骨盤全体の「スタビライザー(安定装置)」として働いています。そのため、多裂筋に問題が生じると、局所的な痛みだけでなく関節の不安定性を介した広範な症状が出現することがあります。
多裂筋性腰痛の6つの特徴
① 疼痛再現率が高い
手術中の刺激実験では、傍脊柱筋(多裂筋を含む脊柱起立筋群)への刺激によって痛みが再現された割合は約41%と報告されています。これは、椎間関節包(約30%)や腰筋膜(約17%)と比較しても高い数値であり、筋肉自体が有力な「疼痛源(ペインジェネレーター)」となり得ることを示しています。
💡 ポイント:「筋肉は痛みを出さない」は誤りです。多裂筋は、関節や神経に匹敵する重要な疼痛源となり得ます。
② 関節の不安定性と連動して痛みが生じる
多裂筋は「安定化筋」としての役割が強いため、椎間関節や仙腸関節に不安定な刺激が加わると、反射的に多裂筋が収縮(スパズム)し、痛みを誘発します。
短繊維の働き(椎間関節の安定化)
椎間関節への過剰な負荷や不安定性が、多裂筋の保護的スパズムを誘発します。この状態が持続すると、筋肉が緊張したまま弛緩できず、慢性的な腰痛へと移行することがあります。
長繊維の働き(仙腸関節の安定化)
骨盤後面の仙腸関節に関連する問題では、多裂筋の長繊維が過剰に活動し、骨盤周囲に鈍い痛みやだるさを生じさせることがあります。産後腰痛や片側の仙骨部痛などのケースで特に関連が深いとされています。
③ 筋肉内の「コンパートメント症候群」が痛みを生む
筋肉性腰痛のなかには、筋肉内の内圧上昇(区画内圧の亢進)が痛みの原因となるケースがあります。
- 筋肉を伸張(ストレッチ)すると、筋内圧は上昇する
- 筋肉が弛緩(リラックス)すると、筋内圧は低下する
- 慢性腰痛や脊柱変形(腰椎変性後弯症など)では、多裂筋の弱化・萎縮に伴い、筋内の血流が低下し「慢性コンパートメント状態」が生じやすい
この状態では、長時間の立位・歩行後に生じる「重だるい腰の痛み」や「坐位での不快感」として現れることが多く、神経由来の痛みとは異なるニュアンスがあります。
💡 ポイント:「動くほど痛い、休むと楽」は筋肉内の圧力変化が関係していることがあります。
④ 痛みの示し方が「手のひら全体(Palmar indication)」になる
臨床的な評価において、腰痛の原因が筋肉や筋膜にある場合、患者が痛みの場所を示す際に「手のひら全体で広い範囲をぼんやりと示す」傾向があります。これをPalmar indication(パルマー・インディケーション)と呼びます。
一方で、椎間関節や仙腸関節由来の痛みは、1本の指で特定のスポットを指す「One point indication(ワンポイント・インディケーション)」になることが多いとされています。
評価のポイント:「どこが痛いですか?」と聞いたとき、指一本で示せるか、手のひら全体で示すかを観察するだけで、疼痛源の推定に役立ちます。
⑤ 慢性化すると筋肉の萎縮・変性が起こる
腰痛が長期化すると、多裂筋は痛みや廃用によって萎縮し、筋肉内に脂肪組織が混在する「筋変性(fatty infiltration)」が起こります。超音波(エコー)検査やMRIで観察すると、萎縮や輝度変化として確認できます。
特に腰椎変性後弯症(LDK:Lumbar Degenerative Kyphosis)では、多裂筋をはじめとする背筋群の廃用性萎縮が進行し、体幹を伸展位に保持できなくなることで、さらなる椎体への負荷増大と痛みの悪循環を生みます。
💡 ポイント:慢性腰痛のリハビリには、痛みの管理だけでなく「多裂筋の筋力回復」が不可欠です。
⑥ 復縮訓練(再収縮トレーニング)によって改善が期待できる
多裂筋由来の腰痛(特に術後残存腰痛を含む慢性腰痛)に対しては、多裂筋の「復縮訓練」が有効とされています。これは、萎縮・弛緩した多裂筋を段階的に再活性化し、椎間関節や仙腸関節への動的安定性を回復させる訓練です。
まとめ
多裂筋性の腰痛は、以下のような特徴を持ちます。
- 疼痛再現率が高く、筋肉が主要な「疼痛源」となり得る
- 椎間関節・仙腸関節の不安定性と連動してスパズムを起こす
- 筋内圧の上昇(コンパートメント)による重だるい痛みを生じる
- 手のひら全体で示す「面の痛み(Palmar indication)」になりやすい
- 慢性化すると筋の萎縮・変性が生じ、悪循環を形成する
- 復縮訓練によって安定性が回復し、痛みの改善が期待できる
「腰が痛い」という訴えの背景には、さまざまな組織が関与しています。多裂筋という視点を加えることで、より精度の高い評価と、筋肉から骨盤・脊椎の安定性を取り戻すリハビリアプローチが可能になります。
リハりん|訪問リハビリ・鍼灸


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