〜薬だけじゃない、“鍼灸”という選択肢〜
「いつもお腹がゴロゴロする」
「下痢と便秘をくり返す」
「検査しても異常ないのに、ずっとお腹の調子が悪い…」
そんな状態が続いているなら、
それは 過敏性腸症候群(IBS) かもしれません。
IBS は、
- 腹痛
- 下痢・便秘
- お腹の張り
- トイレの不安
がくり返し出る“腸の機能トラブル”です。
命にかかわる病気ではありませんが、生活の質をがっつり下げるやっかいな相手です。
最近、このIBSに対して
「鍼灸がけっこう効く」
という研究結果が、世界中から出てきています。
1. IBSって、そもそも何が悪さしてるの?
IBSは「腸そのものがボロボロ」ではなく、
- お腹の神経が 敏感になりすぎている(ちょっとの刺激で痛い)
- 自律神経が乱れて、腸の動きが 速すぎたり遅すぎたり
- ストレスが強くて、脳と腸のバランスが崩れている
こうした要素が重なって起こると考えられています。
だから、
- 薬で一時的に下痢や便秘を抑えても、
- ストレスがかかったり、疲れたりすると
また症状がぶり返しやすい。
ここで出てくるのが「鍼(はり)・お灸」です。
2. 鍼灸って、本当にIBSに効くの?
結論から言います。
ちゃんとした研究で「効く」と示されている。
例えば、ある大きな研究では
- 世界中のIBS患者さん 3,000人以上 を対象に
- 薬だけ、鍼灸だけ、薬+鍼灸 などを比べた結果
鍼灸を受けたグループは
- 腹痛が軽くなり
- 下痢・便秘の回数が減り
- 生活の質(QOL)が上がった
と報告されています。
しかも、
- 副作用は「刺したところが少し痛い」「だるい」など軽いもの
- 強い副作用はほとんど報告されていない
つまり
「効く」「そこまで危険ではない」
というのが、今のところの結論です。
3. どこに鍼をするの?
IBSの研究でよく使われるツボは、だいたいこんな感じです。
| 経穴 | 用途・理由(研究ベース) |
|---|---|
| ST25(天枢) | 大腸機能・腹痛改善の中心。IBS研究で最頻出。 |
| ST36(足三里) | 迷走神経・内臓知覚過敏・炎症に効く万能点。 |
| SP6(三陰交) | 骨盤神経叢への影響、自律神経調整。 |
| LR3(太衝) | ストレス・情動調整。脳腸相関の改善。 |
| PC6(内関) | 迷走神経↑、吐き気やストレスに。 |
| GV20(百会) | 中枢神経の調整、fMRIの変化が報告。 |
お腹だけでなく、脚のツボもよく使います。
理由はシンプルで、脚のツボから 自律神経や「脳と腸のつながり」 に働きかけられるからです。
4. 鍼灸はIBSの“どこ”に効いているのか?
① 「お腹の神経の過敏さ」を下げる
IBSの人は、お腹の中のガスやちょっとした動きが、
「すごく痛い」「苦しい」 として脳に伝わりやすくなっています。
鍼灸をすると、
- 「痛みを感じる神経」の反応が落ち着く
- 脳の「痛みを処理する場所」の働きが静かになる
ことが研究で分かっています。
→ 結果として、同じ腸の状態でも「痛み」を感じにくくなる わけです。
② 自律神経を整えて、腸の動きを“ちょうど良く”する
腸は、自律神経(交感神経と副交感神経)の影響を強く受けます。
- ストレスで交感神経が優位 → 下痢しやすい
- 副交感神経が弱い → 便秘しやすい
鍼灸は、
- “リラックス側”である 副交感神経(迷走神経) を高め
- 腸のリズムを「速すぎず・遅すぎず」に整えてくれる
というデータがあります。
③ ストレスと不安感をやわらげる
IBSのやっかいなところは、
お腹が不安 → トイレの心配 → さらにストレス → もっとお腹が痛くなる
という悪循環が起こりやすいこと。
鍼灸は、
- 気持ちの緊張をやわらげる
- 不安感・イライラを軽くする
といった報告もあり、
「お腹と心の両方」にアプローチできるのが強みです。
5. どのタイプのIBSに向いている?
IBSにはタイプがあります。
- 下痢が多いタイプ(IBS-D)
- 便秘が多いタイプ(IBS-C)
- 下痢と便秘をくり返すタイプ(IBS-A)
研究では、
- 下痢型・交替型 → 電気を流す鍼(電気鍼)が特に有効
- 便秘型 → お腹(天枢)+脚(足三里)の鍼で排便リズムが整いやすい
という傾向が出ています。
| タイプ | 効果の出やすさ | 理由 |
|---|---|---|
| IBS-D(下痢型) | ★★★★★ | 電気鍼が腸運動過多を抑制。迷走神経↑ |
| IBS-C(便秘型) | ★★★★☆ | 蠕動運動UP。ST25の効果が安定。 |
| IBS-A(交替型) | ★★★★☆ | リズムの正常化に電気鍼が有効。 |
| ガス・膨満型(IBS-Bloating) | ★★★☆☆ | 内臓知覚過敏に働く研究が多い。 |
どのタイプでも、
「腹痛」と「お腹の張り」にはかなり相性が良いと考えてOKです。
6. 鍼灸を受けるときの注意点
以下のような場合は
まず病院での検査が必須です。
- 体重が急に減っている
- 便に血が混じる
- 夜中に痛みで目が覚める
- 40歳以上で初めての症状
これらはIBSではなく、
別の病気が隠れているサインの可能性があります。
7. 薬と鍼灸、どっちがいいの?
正直なところ、
「薬か鍼灸か」ではなく
「薬+生活習慣+鍼灸」の組み合わせが一番強い
というのが現実です。
- 食事(脂っこいもの・アルコール・カフェインの調整)
- 睡眠
- ストレスケア
- 適度な運動
ここに 鍼灸で“脳と腸のバランス”を整える という一手を加えると、
良い意味で「じわじわ効く」人が多いです。
8. まとめ:IBSと長く付き合うなら、“腸だけ”見ない方がいい
過敏性腸症候群(IBS)は、
- 検査では異常が出にくい
- でも症状はつらい
- ストレスや生活環境に左右されやすい
という、「見えづらいけど、確実にしんどい」状態です。
鍼灸は、
- お腹の神経の過敏さを下げ
- 自律神経を整え
- ストレスの影響をやわらげる
ことで、IBSと付き合いやすい体づくりを助けてくれます。
「検査では異常なし。でもしんどい」
そんなときの、もう一つの選択肢として、
鍼灸を知ってもらえたら嬉しいです。
おまけ
【IBSで最も一般的な通電ペア=これ】
■ ST25(天枢)— ST25(反対側の天枢)
(腹部左右の天枢を“横に”つなぐ)
理由:
- 大腸そのものの運動を直接調整
- IBS-D(下痢型)でもIBS-C(便秘型)でも効果が安定
- 研究で一番使われる電極ペア
- 腸の“リズム波形”が整うのはココが強い
■ 推奨:2/100Hz(交互波)
IBS研究で最も使われる“王者”。
理由:
- 低周波(2Hz)→ βエンドルフィン系
- 高周波(100Hz)→ dynorphin系
- 両方使うと「鎮痛+腸運動調整」が同時に起こる
- IBS-D(下痢型)/IBS-C(便秘型)どちらにも有効
実データ:
- Liu et al., 2021(Ann Intern Med):2/100Hz
- Wang et al., 2020(Neurogastroenterology & Motility):2/100Hz
- Cheng et al., 2023(Medicine):2/100Hz
→ 腸の動きの“波形そのものが正常化”したのは、この設定。
■ ST36(足三里)— ST36(反対側の足三里)
(両脚の足三里をつなぐ)
働き:
- 迷走神経↑(自律神経調整)
- 腸の運動リズム改善
- 腹痛の軽減
IBSの「脳腸相関」を整えるなら足三里ペアは間違いなく外せない。
■ 推奨:2Hz(低周波)
迷走神経の活動を強く上げたい時は低周波が最強。
理由:
- 2Hzは「副交感神経↑」の反応が強い
- 腹痛・不安感の改善が出やすい
- IBSの“脳腸相関”への研究はほぼ低周波
実データ:
- IBS患者のHRV(心拍変動)改善 → 2Hzの刺激
- 迷走神経核の活動上昇 → 低周波の方が強い
■ ST25(天枢)— ST36(足三里)
(片側どうし、縦ラインでつなぐ)
働き:
- 腸の局所+自律神経のWアプローチ
- 下痢・便秘どちらにも対応
- 腸管内圧が正常化しやすい組み合わせ
臨床的にも実際かなり使いやすい。
■ 推奨:2/100Hz(交互波)
腹と脚を同時に使うと、腸そのもの+自律神経の2方向に効くため、
ミックス波の方がバランスが良い。
理由:
- 大腸運動の安定 → 100Hz成分
- 内臓知覚過敏の改善 → 2Hz成分
- 最も「IBSの多症状」を横断的に改善
■ LR3(太衝)— PC6(内関)
(足の太衝と腕の内関をつなぐ)
働き:
- ストレス系(HPA axis)を落ち着ける
- ガス・膨満タイプに向いている
- 不安・イライラからくる腹痛を緩和
IBS-A(交替型)や、メンタル要因で乱れる人に相性が良い。
■ 推奨:2Hz(低周波)
ストレス系(HPA axis)と情動系に作用させる目的。
理由:
- 2Hzの方が抗ストレス系の神経伝達物質が増える
- IBS-A(交替型)や精神的トリガーの人に好相性
■ ST25(天枢)— SP6(三陰交)
(腹と脚の“捻りライン”)
理由:
- 下痢型IBSで優位にお腹の運動過多を抑制
- 骨盤神経叢に作用して腸の興奮を沈める
- 迷走神経の反応が高いというデータあり
■ 推奨:2/100Hz(交互波)
特に IBS-D(下痢型)での研究多い。
理由:
- 腸の過活動を抑えるのは高周波成分(100Hz)
- 痛みと不安は低周波成分(2Hz)が改善
- 交互波で“両方まとめて処理できる”
実データ:
- IBS-D患者で便回数が減少した研究 → 2/100Hz
- 腸管内圧波形が正常化 → 100Hz成分が効いている


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