―「交感神経が横隔膜を止める」は本当か ―
「ストレスで胸式呼吸になる」
「交感神経が優位になると横隔膜が動かなくなる」
よく聞く説明です。
でも、ここは少し整理が必要。
断言しすぎると科学的には危うい。
今日はエビデンスベースで整理します。
① ストレスで呼吸は変わるのか?
答えは Yes。
▶ Boiten et al., 1994
心理ストレス負荷で
- 呼吸数増加
- 呼吸が浅くなる
- 胸郭優位傾向
が報告されています。
▶ Masaoka & Homma, 1997 / 2001
不安や情動刺激で
- 呼吸数↑
- 吸気時間短縮
- 胸郭運動の増加
つまり、
情動は呼吸パターンを変える。
ここはほぼ確実。
② では「交感神経が横隔膜を抑制する」は本当か?
ここが問題。
横隔膜は
- 横隔神経(C3–5)支配
- 延髄の呼吸中枢制御
- 随意・不随意両方で活動
交感神経の直接支配筋ではありません。
「交感神経が直接横隔膜を止める」という明確な証拠はありません。
これは言い過ぎ。
③ それでも“横隔膜が動きにくくなる”と言われる理由
▶ Kolář et al., 2012
慢性腰痛患者で
姿勢時の横隔膜活性異常を報告。
これは重要。
ただし、
「交感神経優位が原因」と直接示した研究ではない。
▶ Courtney et al., 2011
不安傾向が高い人ほど
胸式呼吸・過換気傾向が強いと報告。
つまり、
ストレス
↓
呼吸パターン変化
↓
胸郭優位
↓
結果的に横隔膜可動性低下
という“間接的メカニズム”が妥当。
④ 正確な言い方
❌ 交感神経が横隔膜を止める
⭕ ストレスが呼吸パターンを変え、その結果横隔膜の機能が低下しやすい
この違いは大きい。
⑤ 臨床で起きていること
慢性ストレス下では:
- 呼吸数増加
- 呼吸が浅くなる
- 吸気優位パターン
- 胸郭上部の過活動
- 体幹内圧制御低下
横隔膜は“動かなくなる”というより
正しく使われなくなる。
ここが本質。
⑥ まとめ
✔ ストレスで呼吸は変わる(エビデンスあり)
✔ 不安で胸式優位傾向あり
✔ 慢性痛で横隔膜機能異常あり
✔ 交感神経が直接横隔膜を止める証拠はない
だから、
呼吸介入は「副交感神経を上げるため」だけでなく
呼吸パターンの再学習として考える方が科学的。

コメント