「顎がしんどい人に耳鳴りが多い」
これ、スピリチュアルでも都市伝説でもなく、論文で“関連”が繰り返し示されています。ただし、ここで重要なのは一言。
関連=因果ではない。
「顎を治せば耳鳴りが治る」と言い切るのは、科学的にはアウト寄りです(気持ちは分かるけどね)。
まず結論
- TMD(顎関節症)と耳鳴りは統計的に関連している(メタ解析あり)。
- TMDを訴える耳鳴り患者は、耳鳴りの重症度が高い傾向が報告されている。
- 「顎・首の動きで耳鳴りが変化する」タイプは、体性感覚性耳鳴り(somatosensory tinnitus)として説明されることがある。
- 顎関節への保存療法(スプリント+運動など)で耳鳴りが軽減した研究はあるが、全体としてエビデンスは“低品質”と整理されている。
TMD(顎関節症)って何を指してる?
TMDはざっくり言うと、顎関節と咀嚼筋まわりの問題の集合体です。
- 顎関節の痛み、開口障害、クリック音
- 咀嚼筋(咬筋・側頭筋など)の痛み、こわばり
- 食いしばり/歯ぎしりに伴う筋緊張
- 関節円板障害(ズレる、引っかかる)
で、ここに耳症状(耳鳴り、耳閉感、耳の違和感)が付いてくることがある。
どれくらい“関係ある”の?:メタ解析で確認
Omidvarら(2019)システマティックレビュー&メタ解析
TMDと耳鳴りの関連を統合的に検討したメタ解析があり、両者が関連するという結論になっています。
ここで大事なのは「TMD患者に耳鳴りが多い/耳鳴り患者にTMDが多い」という相互の関連が示されている点。
ただし観察研究中心なので、因果の向き(顎→耳鳴り なのか、耳鳴りのストレス→顎緊張 なのか)は確定しません。
“TMDを訴える耳鳴り”には特徴がある:大規模データ
Edvallら(Swedish Tinnitus Outreach Project)
耳鳴り集団をTMD訴えの有無で比較し、重症耳鳴り群でTMJ訴えが多いことを報告しています(例:重症群でTMJ訴えがより高率)。
臨床的にはこの示唆が強い:
- 「耳鳴りがつらい」人ほど、顎・咀嚼筋の問題を合併している可能性
- 逆に言うと、顎側の問題が“増幅器”として働くシナリオがありうる
じゃあ“なぜ”顎で耳鳴りが起きるの?:体性感覚性耳鳴り(somatosensory tinnitus)
耳鳴りは内耳だけの話じゃなく、脳幹~中枢の神経回路の問題として語られることが多いです。
その中で「顎・首などの体性感覚入力が耳鳴りに影響する」という考え方が、somatosensory tinnitus。
代表的な整理
- Sanchez & Rocha(2011)は、体性感覚入力(とくに三叉神経系)が背側蝸牛神経核(DCN)の活動に影響し、耳鳴りの変調と関連しうることをまとめています。
- Levine(1999)は、いわゆる“craniocervical(頭頚部)由来の耳鳴り”の仮説として、DCNの脱抑制を提案しています。
- Ralli(2017)も、体性疾患と耳鳴りの関係(とくに“変調しやすい耳鳴り”)についてレビューしています。
ここを臨床に落とすと
あなたが見るべきは「耳鳴りの有無」よりも、むしろこれ:
“耳鳴りが顎・首・姿勢・圧刺激で変化するか?”
変化するなら、体性感覚入力が関与する可能性が上がる。
変化しないなら、顎だけ追いかけても空振りしやすい。
どんな患者が「顎関節ルート」を疑うべき?
臨床での“当たり”は、だいたいこのセットです。
1) 変調(modulation)がある
- 口を開ける/噛みしめると音が変わる
- 顎を前に出す/横にずらすと変わる
- 首を回す、肩をすくめる、後頭部~顎下を押すと変わる
→ これはsomatosensory tinnitusの文脈と相性がいい。
2) TMDの症状が同居
- 起床時の顎だるさ、咀嚼筋痛
- クリック、開口時偏位
- 食いしばり自覚/歯の摩耗、舌縁の歯型
- 頭痛(側頭部痛)や頚部痛がセット
3) “耳鼻科で異常なし”と言われて迷子
この層は多い。だからこそ、顎・頚部のスクリーニング価値が出ます。
評価の実際
問診(超重要)
- 耳鳴りは片側?両側?
- 発症タイミング:歯科治療後/ストレス増大/睡眠悪化/顎痛の出現と同期?
- 「顎・首の動きで変化するか」
- 咀嚼、会話、長時間PC、スマホ姿勢で悪化するか
- 食いしばり(昼夜)・睡眠の質
身体所見(TMD側)
- 開口量、偏位、クリック
- 咬筋・側頭筋・内側翼突筋(触れる範囲で)圧痛
- 顎関節周囲の圧痛
- 頸部可動域、上位頸椎の過緊張
“変調テスト”
- 軽い噛みしめ(5秒)で変化するか
- 開口保持で変化するか
- 顎前方突出で変化するか
- 首回旋・側屈で変化するか
介入は効くの?
Michielsら(2019)システマティックレビュー
結論は率直にこうです:
保存的TMD治療が耳鳴りに良い可能性はあるが、エビデンスは低品質。
その中で比較的検討されているのが
- スプリント療法
- 運動療法(顎の運動・姿勢・筋緊張への介入)
などの組み合わせ。
つまり「一発の手技で消える」みたいな話ではなく、生活・負荷・筋緊張を含む保存的アプローチが中心。
注意
耳鳴りは“顎のせい”で片付けると危ないケースがあります。
- 突然発症の強い耳鳴り+難聴(突発性難聴など)
- 拍動性耳鳴り(ドクドク)
- 神経症状(めまい、麻痺、複視など)
- 急激な悪化、片側の進行性難聴
このへんは耳鼻科・神経系の評価が優先。
まとめ
- TMDと耳鳴りは関連する(メタ解析)。
- “顎や首で耳鳴りが変わる”なら、体性感覚入力の関与が疑える。
- TMD治療で改善する可能性はあるが、科学的にはまだ「効く人がいる」レベル。
だから結論はこれ:
耳鳴りを見たら、耳だけ見るな。
でも同時に、顎だけ触って万能感を出すな。
顎関節は魔法使いではなく、ただの関節です。

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