横隔膜は“呼吸筋”ではなく“姿勢筋”なのか?

横隔膜

— Kolář 2012から読み解く慢性腰痛との関係 —

Kolář P, et al.
Postural Function of the Diaphragm in Persons With and Without Chronic Low Back Pain.
J Orthop Sports Phys Ther. 2012.


■ まず結論

慢性腰痛患者では、

  • 安静呼吸では差はない
  • しかし姿勢負荷をかけると横隔膜の動きが変わる

これがこの論文の核心。


■ 研究の概要

  • 慢性腰痛18名 vs 健常29名
  • dynamic MRIで横隔膜の動きを解析
  • 条件:
    • 通常呼吸
    • 上肢等尺性抵抗+呼吸
    • 下肢等尺性抵抗+呼吸

ポイントはここ。

“姿勢課題を加えた”こと。

ただの呼吸比較ではない。


■ 安静では差が出ない

通常のtidal breathingでは
群間差なし。

つまり、

慢性腰痛患者は
呼吸障害があるわけではない。

ここ、誤解されがち。


■ 差が出るのは“負荷時”

上肢・下肢に等尺性抵抗をかけると慢性腰痛患者は:

  • 横隔膜の移動量が減少
  • 吸気時の位置がやや頭側化
  • 前部・中部の動きが小さい
  • 中後部が相対的に強く動く
    → “steeper slope”

要するに、

収縮が均等ではない。


■ 何が問題なのか?

横隔膜は

  • 呼吸筋
  • 同時に腹圧調整筋

不均等収縮
→ 腹圧調整の質が変わる可能性
→ 体幹安定性に影響

著者は

abnormal postural activation of the diaphragm may serve as one underlying mechanism of chronic low back pain

体を支えるときの横隔膜の働き方がうまくいっていないことが、慢性腰痛に関係しているかもしれない。

と述べている。

ただし “may”。

断定ではない。


■ 重要:これは原因証明ではない

この研究は横断研究。

だから

  • 横隔膜異常が原因か
  • 痛みによる運動制御変化の結果か

は分からない。

ここを誇張すると科学ではなくなる。


■ 臨床的に何を学ぶべきか

この論文が示した最重要ポイントは:

呼吸そのものではなく
「姿勢負荷時の呼吸協調」に問題が出る

つまり、

横隔膜は
“息をする筋”というより

“荷重応答を含む協調筋”


■ 横隔膜だけを治せばいいのか?

答えはNO。

この研究は:

  • 腹横筋
  • 多裂筋
  • 骨盤底筋
  • 表層筋代償

を直接測っていない。

横隔膜単体で語るのは単純化しすぎ。


■ それでも臨床で使えること

✔ SLRや上肢抵抗時に呼吸を観察する
✔ 負荷時に腹圧が抜けていないかを見る
✔ 前部肋骨の動きを触診する
✔ 呼吸を止めていないか確認する

“姿勢 × 呼吸”を同時に評価する。

これが本質。


■ まとめ

Kolář 2012が示したのは:

  • 横隔膜は姿勢課題で挙動が変わる
  • 慢性腰痛ではその協調が乱れる可能性がある
  • しかし因果は未確定

横隔膜は“犯人”ではなく、
“疑わしい重要参考人”。

ここを冷静に扱えるかどうかが
臨床家の質。

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