橈骨頭のアライメントと腕橈骨筋の硬化

筋肉
橈骨頭のアライメントと腕橈骨筋|外側肘痛が治らない本当の理由
Clinical Anatomy Note
外側肘痛 / 前腕バイオメカニクス

テニス肘が治らない本当の理由
橈骨頭のアライメントと腕橈骨筋の硬化

腕橈骨筋 / 橈骨頭 / 腕橈関節 / 外側上顆炎

外側肘痛(テニス肘)の患者に、伸筋腱へのアプローチを続けても症状が改善しない。 そういう症例に必ず問うてほしいことがある。 橈骨頭は正しい位置にあるか。そして、腕橈骨筋を本気で触ったか。

01

腕橈骨筋とは何をしている筋か

“`

腕橈骨筋(Brachioradialis)は上腕骨外側縁の上部から起始し、橈骨茎状突起に停止する。 支配神経は橈骨神経(C5・C6)。前腕の中で最も目立つ筋腹を持ちながら、 その機能は驚くほど誤解されている。

主な機能は前腕中間位での肘屈曲だが、それ以上に重要なのが 前腕を常に中間位へ引き戻す自動制御機能だ。 完全回内位からも完全回外位からも、腕橈骨筋は中間位へのベクトルを生み出す。 これは他のどの前腕筋にもない性質であり、いわば橈骨の「センタリング装置」として機能している。

腕橈骨筋の基本情報

起始上腕骨外側縁上部・外側筋間中隔
停止橈骨茎状突起(橈骨遠位端外側)
支配神経橈骨神経(C5・C6)— 深部を浅枝が走行
特徴的機能どの回旋位からも前腕を中間位へ引き戻す
“`
02

慢性回内位で何が起きているか

“`

デスクワーク、スマートフォン操作、キーボード入力——現代人の上肢は 慢性的な前腕回内位に置かれ続けている。 この状態で腕橈骨筋は何を強いられているか。

本来なら「中間位へ戻す」べき腕橈骨筋が、 延長位のまま持続的な等尺性収縮を繰り返す。 筋は短縮位での収縮に適応しようとして筋内結合組織の線維化が進行し、 やがて硬結として固定される。橈骨茎状突起への牽引ストレスは慢性化し、 筋の「戻せる」機能は消えていく。

重要:腕橈骨筋が硬化するということは、 橈骨の遠位端(茎状突起)に対する持続的な引っ張りが生じるということだ。 問題は遠位だけではない。橈骨は一本の骨として近位端、すなわち 橈骨頭にも力学的な影響を及ぼす

“`
03

橈骨頭の前方・外側偏位というメカニズム

“`

ここが本論の核心だ。腕橈骨筋の硬化が橈骨茎状突起を引くだけでなく、 橈骨頭の前方・外側偏位に関与しうる——この視点が 外側肘痛の遷延を理解する鍵となる。

腕橈骨筋は起始を上腕骨外側縁に置き、橈骨茎状突起に至る長い走行を持つ。 この筋が硬化・短縮すると、橈骨全体を近位方向かつ屈曲方向へ引き寄せる張力 が常時かかることになる。前腕が回内位に固定されている場合、 橈骨は尺骨の前方を交差する位置にあり、この状態での持続的な引っ張りは 橈骨頭を外側上顆・上腕骨小頭に対して前方・外側方向に引き出す力として作用する。

1
慢性回内位により腕橈骨筋が伸張位での持続収縮を強いられる
2
筋内結合組織が線維化し、筋全体が短縮・硬化する
3
橈骨茎状突起への牽引が慢性化し、橈骨全体に近位方向・屈曲方向の張力が生じる
4
橈骨頭が上腕骨小頭に対して前方・外側方向へ偏位しやすくなる
5
腕橈関節の関節適合性(joint congruency)が低下する
“`
04

腕橈関節の関節適合性が低下すると何が起きるか

“`

腕橈関節は上腕骨小頭(capitulum)と橈骨頭の凹面が嵌合することで成立する。 この関節は肘の屈伸・前腕の回旋の両方に関与し、 軸方向の圧縮荷重の約60%を担うとされる(残りを腕尺関節が担う)。

橈骨頭が前方・外側に偏位した状態で肘屈曲が繰り返されると、 上腕骨小頭との接触面が本来の設計から外れる。 この関節適合性の低下は以下の連鎖を生む。

関節適合性低下による連鎖

関節内圧の異常分布 偏位した橈骨頭が小頭の特定部位に集中的な圧縮ストレスをかける。軟骨への負担が増大。
外側側副靭帯複合体への牽引 橈骨頭の外側偏位により外側側副靭帯・輪状靭帯が常態的に引っ張られ、弛緩または炎症が生じやすくなる。
外側上顆周囲組織への慢性ストレス 外側上顆は伸筋群の起始部であるとともに、腕橈骨筋の起始部上方に位置する。 橈骨頭の偏位は外側上顆周囲の軟部組織全体の張力環境を変え、 局所の治癒を妨げる力学的背景となる。
伸筋群の付着部への波及 橈骨の回旋制御が不安定になることで、手関節・手指の伸筋群が代償的に過活動する。 短橈側手根伸筋(ECRB)の腱付着部——外側上顆炎の主病変部——への ストレスが増大し、治癒を阻害する悪循環が生まれる。

外側上顆炎に対して腱付着部だけを治療することは、 傾いた柱の先端だけを補修しようとするようなものだ。 足元の橈骨頭が正しい位置に戻らない限り、ストレスはかかり続ける。

“`
05

なぜこれが「治らない外側肘痛」を作るのか

“`

外側上顆炎(テニス肘)の病態は、かつて「炎症」と捉えられていたが、 現在では腱の変性(tendinopathy)が主体であることが知られている。 変性した腱は力学的環境が改善されなければ修復されない。

腕橈骨筋の硬化→橈骨頭の偏位→腕橈関節の適合性低下、という連鎖が残っている限り、 ECRBの付着部には毎回の肘屈曲・伸展・前腕回旋のたびに 設計外の力学的ストレスがかかり続ける。 どれだけ腱に対してアプローチをしても、橈骨の力学的環境が是正されなければ 変性した組織は回復の機会を持てない。

臨床的観察: テニス肘の症例で、腕橈骨筋の触診を行うと高頻度で筋腹の硬結と 橈骨茎状突起付着部の圧痛が確認される。 さらに橈骨頭の可動性を他動的に確認すると、健側と比較して 前方・外側方向への動きが制限または過可動になっているケースがある。

また、前腕の回外可動域を測定すると患側で有意な低下が見られることが多く、 これは腕橈骨筋の短縮と橈骨頭のアライメント異常の複合的な結果として理解できる。

“`
06

評価と介入:何をどの順番で行うか

“`

この連鎖を理解すれば、評価と介入の順序が自ずと決まる。

まず前腕の回外可動域を計測する。健側との左右差が10°以上あれば 腕橈骨筋の短縮または橈骨頭のアライメント異常を示唆する。 次に腕橈骨筋の触診——筋腹全体の硬結、橈骨茎状突起付着部の圧痛、 そして橈骨神経浅枝の滑走性を合わせて確認する。

橈骨頭の可動性は他動的に前後・内外方向へ動かして確認する。 健側と比較して動きの質・量に差があれば、 橈骨頭モビライゼーションの適応を検討する。

介入の優先順位としては、最初に腕橈骨筋のリリース(筋腹の横断的マッサージ、 付着部へのアプローチ)を行い、続いて橈骨頭のモビライゼーション、 回外筋群・上腕二頭筋の筋力再教育、最後に日常生活での前腕アライメントの修正指導という 順序が合理的だ。腱付着部へのアプローチはその後に行う。

“`

まとめ:橈骨を制する者が外側肘痛を制する

外側上顆炎が治らない症例の背景には、腕橈骨筋の硬化が引き起こす 橈骨頭のアライメント異常と腕橈関節の適合性低下が潜んでいることがある。 伸筋腱の病変を末梢として見るのではなく、 橈骨全体の力学的環境という視点で捉え直すことが必要だ。

  • 腕橈骨筋の硬結を触診で確認しているか
  • 橈骨頭の前方・外側偏位を評価しているか
  • 前腕回外可動域の左右差を計測しているか
  • 腕橈関節の関節適合性を考慮しているか
  • 局所腱へのアプローチの前に力学的背景を是正しているか

橈骨頭が正しい位置に戻れば、腱の修復は始まる。 そのためには腕橈骨筋を、本気で触ることから始まる。

コメント

タイトルとURLをコピーしました