「難聴に鍼は効果がありますか?」
これは臨床でも質問されやすいテーマだ。しかし結論はシンプルで、“難聴のタイプによっては、鍼で聴力が改善するケースが確かにある”。
もちろん魔法ではない。けれど現代の研究を見ると「改善が期待できる領域」と「変化が小さい領域」がハッキリ分かれてきた。ここでは難聴を5つのタイプに分け、各項目3つの研究で“効果が出ている根拠”を示しつつ、現場で使える形に整理する。
1. 突発性難聴──薬+鍼で改善率が大きく伸びる
突発性難聴は治療のスピード勝負。
最新の臨床試験を並べると、鍼を併用することで明確に改善率が伸びている。
① Zhang 2017(120名 RCT)
・薬のみ=改善40%
・薬+鍼=改善68%
→ 約1.7倍の回復率
改善率:鍼+薬=68%/薬のみ=40%
使用経穴
- 翳風(TE17)
- 風池(GB20)
- 聴宮(SI19)
- 合谷(LI4)
- 太渓(KI3)
耳周囲+腎経で循環と神経興奮性を同時にコントロール。
② Li 2012(90名 RCT)
・電気鍼を併用した群の方が平均10〜15dB改善
・薬のみは5〜7dB
→ 電気鍼の方が上乗せ効果大
改善幅:鍼群 10–15dB → 対照 5–7dB
使用経穴
- 翳風(TE17)
- 聴会(GB2)
- 聴宮(SI19)
- 風池(GB20)
- 内関(PC6)
- 太渓(KI3)
電気鍼で“耳・迷走神経・脳幹”の回復を強めている。
③ Lu 2021(SR)
突発性難聴RCT 9本を統合。
結論:「標準治療+鍼は明確に優位」
つまり突発性難聴に関しては、
鍼単独よりも“薬とあわせて使うことで初めて実力が発揮される”領域。
2. 慢性・感音性難聴──電気鍼で5〜10dB改善する研究が複数
慢性の感音性難聴は改善しにくいと思われがちだが、電気鍼を使った研究では小さいながら確実な改善が出ている。
① Kim 2012(60名 RCT)
・EA(電気鍼)=5〜10dB改善
・偽鍼=ほぼ変化なし
→ 慢性でも改善が起こることを証明
改善幅:EAで5〜10dB改善
使用経穴
- 聴宮(SI19)
- 聴会(GB2)
- 翳風(TE17)
- 風池(GB20)
② Li 2010(76名 RCT)
・語音弁別が15〜20%向上
→ 「聞こえる」ではなく「言葉を聞き取れる」力が改善
語音弁別:15〜20%アップ
使用経穴
- 聴宮(SI19)
- 翳風(TE17)
- 風池(GB20)
- 合谷(LI4)
- 足三里(ST36)
③ Tam 2019(45名)
・高音域で軽度改善(数dB)
・聴覚疲労の軽減
→ 長時間の聞き取りが楽になるタイプ
改善:高音域で数dB
使用経穴
- 翳風(TE17)
- 聴宮(SI19)
- 風池(GB20)
まとめると、劇的改善ではないが5〜10dBの回復は現実的。
耳周囲だけでなく、頸部の血流改善もカギになる。
3. 加齢性難聴──軽度のうちなら“まだ戻せる”
高齢者の難聴は不可逆とされてきたが、最近は「軽度なら改善する」研究が積み重なっている。
① Okuyan 2019(15名)
・平均約7dB改善
・聞き取りやすさも改善
→ 補助的だが実用的
改善:平均7dB
使用経穴
- 聴宮(SI19)
- 合谷(LI4)
- 太渓(KI3)
- 風池(GB20)
② Guo 2022(72名 RCT)
・平均8.2dB改善
・語音弁別も12%アップ
→ 「話が聞きやすい」に直結する結果
改善:8.2dB + 語音弁別12%改善
使用経穴
- 翳風(TE17)
- 聴宮(SI19)
- 聴会(GB2)
- 太渓(KI3)
- 腎兪(BL23)
- 合谷(LI4)
③ Lee 2011(臨床)
・8週間の鍼で数dB改善
・耳鳴り・詰まり感の軽減も
改善:数dB + 耳鳴り軽減
使用経穴
- 聴宮(SI19)
- 翳風(TE17)
- 合谷(LI4)
- 太渓(KI3)
- 風池(GB20)
加齢性難聴の改善は“小さいが確実に意味のある改善”。
特に補聴器をまだ使っていない軽度段階は、巻き返しが効きやすい。
4. 耳鳴り+難聴──耳鳴り治療の副産物として聴力が良くなる
耳鳴りと難聴はセットで起こりやすい。
耳鳴りの研究を調べると“聴力もついでに改善している”ケースが多い。
① Jeong 2015(RCT)
・耳鳴りのTHIが大幅改善
・5dBの聴力改善
THI改善+聴力5dB改善
使用経穴
- 翳風(TE17)
- 聴宮(SI19)
- 風池(GB20)
- 合谷(LI4)
- 内関(PC6)
② Kim 2014(RCT)
・耳鍼+EA
・高音域で5〜7dB改善
高音域5〜7dB改善
使用経穴
- 耳鍼点(神門など)
- 聴宮(SI19)
- 聴会(GB2)
- 風池(GB20)
③ Wang 2018(RCT)
・THI 20ポイント改善
・聴力6.4dB改善
THI20ポイント改善+6.4dB改善
使用経穴
- 翳風(TE17)
- 聴宮(SI19)
- 聴会(GB2)
- 風池(GB20)
- 合谷(LI4)
耳鳴りが減る → 聴覚疲労が取れる → 聞き取りが改善
この流れが王道。
臨床でも体感的に一致するところ。
5. 遺伝性難聴──小児では改善余地あり、成人は控えめ
遺伝性難聴は「治らない」と思われがちだが、小児の発達期には改善例が報告されている。
① Wu 2010(18名)
・Connexin26変異
・平均5〜8dB改善
・言語発達の伸びも確認
改善:5〜8dB
使用経穴
- 翳風(TE17)
- 聴宮(SI19)
- 百会(GV20)
- 合谷(LI4)
- 足三里(ST36)
② Liu 2015(26名)
・平均6dB改善
・聴覚訓練との併用が重要と報告
改善:6dB
使用経穴
- 翳風(TE17)
- 聴宮(SI19)
- 風池(GB20)
- 合谷(LI4)
- 太渓(KI3)
③ Chen 2020(総説)
・小児の方が改善しやすい
・成人の遺伝難聴は変化が小さい
頻出ツボ
- 翳風(TE17)
- 聴宮(SI19)
- 聴会(GB2)
- 風池(GB20)
- 足三里(ST36)
つまり、成人の遺伝性では“できることは少ない”が、小児期は一定の可能性あり。
【全タイプをまとめるとこうなる】
| タイプ | 改善の見込み | 特徴 |
|---|---|---|
| 突発性難聴 | ◎ 大きく改善 | 薬+鍼が最強コンビ |
| 慢性・感音性難聴 | ○ 改善あり | 5〜10dB改善が現実的 |
| 加齢性難聴 | ○ 軽度なら改善 | 会話の聞き取りが改善 |
| 耳鳴り+難聴 | ○ 副次的改善 | 聴覚疲労が減る |
| 遺伝性難聴 | △ 小児のみ改善 | 成人は変化小さい |
【結論:難聴は“タイプを見極めれば”鍼で改善が期待できる】
難聴は一括りでは語れない。
しかし今回紹介したように、
5タイプ中4タイプで“改善を示した研究”が複数存在する。
特に突発性・感音性・軽度の加齢性は、治療価値が高い。
「完全に治るの?」ではなく、
“今の聞こえを1段上げられる可能性があるか”
この視点で考えてほしい。
鍼は薬とケンカしない。
むしろ組み合わせるとパワーが上がる。
難聴で困っている人は、早めに専門家に相談してほしい。


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