「歩くと膝が痛む」「膝の治療をしているのになかなか良くならない」……そんな悩みをお持ちの方、実はその原因、膝ではなく「股関節」にあるかもしれません。
今回は、高度な変形性股関節症に併発する二次的な膝のトラブル、「Coxitis Knee(コキサイティス・ニー)」について、最新のリハビリ知見を交えて解説します。
1. Coxitis Knee(股関節症性膝関節症)とは?
Coxitis Kneeとは、1974年にSmillieによって命名された疾患概念です。 最大の特徴は、「高度な変形性股関節症(股関節OA)に伴って、二次的に変形性膝関節症(膝関節OA)が発症する」点にあります。
興味深いことに、患者さんは「膝の痛み」を強く訴えますが、実は股関節自体の痛みは無いか、あっても軽度であるケースが少なくありません。そのため、原因が股関節にあると気づかずに膝だけの治療を続けてしまう落とし穴があるのです。
2. なぜ股関節が悪いと膝が痛むのか?
その鍵は、歩き方の変化(異常歩容)にあります。
- 股関節の変形: 股関節が変形し、内転位(脚が内側に閉じた状態)で固まったり、脚の長さに差(脚長差)が出たりします。
- トレンデレンブルグ歩行: 股関節を支える「中殿筋」がうまく働かなくなり、歩行中に骨盤が反対側(遊脚側)へ傾く「トレンデレンブルグ歩行」が生じます。
- 膝への過負荷: 骨盤が傾くことで膝関節に外反(外側へのストレス)モーメントが増大し、膝の組織(腸脛靱帯など)に強い負荷がかかって痛みが生じます。
つまり、膝の痛みは「股関節の不具合をかばって歩いた結果」なのです。
3. リハビリの最優先は「膝」ではなく「股関節」
Coxitis Kneeのリハビリテーションにおいて、最も重要な原則は「痛みがある膝ではなく、股関節の機能を最優先で改善させること」です。
資料にある症例報告では、以下の多角的なアプローチが有効とされています。
- 股関節の可動域改善: 固まった内転筋群のストレッチや、関節の遊び(joint play)を出す手技を行い、正しい位置で荷重できるようにします。
- 筋膜リリース: 負担がかかっている大腿筋膜張筋や腸脛靱帯の緊張を和らげます。
4. 注目すべきは「お腹の筋肉(内腹斜筋)」
最新の戦略として注目されているのが、「内腹斜筋」へのアプローチです。 中殿筋が十分に機能しない高度な変形がある場合、反対側の内腹斜筋を鍛えることが非常に有効です。なぜなら、内腹斜筋には「骨盤を引き上げる作用」があるからです。
具体的なトレーニング例
- 片脚ブリッジ: 仰向けで片脚を挙げたままお尻を持ち上げる。
- 座位リーチ: 座った状態で横方向へ手を伸ばし、骨盤の動きを促す。
- 立位での骨盤引き上げ: 片脚立ちの状態で、浮いている側の骨盤をぐっと持ち上げる。
これらの練習により、股関節に過度な負担をかけることなく骨盤を水平に保つ能力(骨盤制御)が向上し、結果として膝へのストレスが激減します。
5. 12週間のリハビリで劇的な改善も
ある70代女性の症例では、5年間続いていた膝の激痛(VAS 8)が、この戦略的なリハビリを12週間続けた結果、VAS 2まで軽減し、歩行速度も大幅に向上しました。
まとめ
「膝が痛いから膝を鍛える」という考え方だけでは、Coxitis Kneeは解決しません。
- 膝の痛みは股関節からのサインかもしれない
- 骨盤を安定させるために「お腹(内腹斜筋)」の力が不可欠
- 股関節の機能を立て直せば、膝の痛みは保存療法で改善できる可能性がある
もし、長引く膝の痛みにお悩みなら、一度専門家に「股関節の動きや歩き方」をチェックしてもらうことをお勧めします。
参考文献
- 海沼美咲 他:Trendelenburg歩行を呈したcoxitis knee患者に対する理学療法. 徒手理学療法 14(2), 2014.



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