🧠 脳卒中後の“つっぱり（痙縮）”は鍼でゆるむ？

― 6,000人を対象にした世界最大のメタ解析から見えた真実 ―

はじめに：なぜ「つっぱり」は厄介なのか

脳卒中のリハビリで最も多い訴えのひとつが、手足の「つっぱり（痙縮）」です。
これは、脳の損傷によって筋肉をコントロールする神経回路が乱れ、筋肉が勝手に収縮し続ける状態。

腕が曲がって戻らない、手が開かない、歩くと足が内側に入り込む——
こうした現象は、ただ「筋肉が固い」だけでなく、神経が暴走している状態です。

その結果、

• 自分の意思で動かせない
• リハビリの効果が出にくい
• 痛みや疲労が増す

という悪循環に陥ります。
この「痙縮」をどうにかしてゆるめる方法のひとつとして、いま注目されているのが鍼治療（Acupuncture）です。

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研究の概要：世界最大規模のデータ解析

この研究は、中国・浙江中医薬大学のチームによるメタ解析（Xue et al., Frontiers in Neurology, 2022）で、
過去に行われた88件のランダム化比較試験（RCT）を統合し、
計6,431名の脳卒中患者を解析したものです。

比較したのは以下の2群です：

群	内容
鍼＋リハ群	鍼治療を行いながら、通常のリハビリも実施
リハ群	通常のリハビリのみ

評価に使われたスコアは、臨床現場でもよく用いられる以下の3つ👇

• MAS（Modified Ashworth Scale）：筋緊張（つっぱり）の強さ
• FMA（Fugl-Meyer Assessment）：運動機能（手足の動き）
• BI（Barthel Index）：日常生活動作（ADL）

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結果①：筋緊張が有意に低下（MAS）

88研究を統合した結果、
鍼＋リハ群はリハ単独群に比べて、MASが平均−0.73ポイント低下。

つまり、筋肉のつっぱりが明確に緩んだということです。
臨床的にも0.5〜0.7ポイントの改善は「筋緊張レベルがひと段階軽くなる」意味を持ちます。

💬 例えるなら——
腕を伸ばすときに「ガチッ」と抵抗していた筋肉が、
「スーッ」と動き始めるイメージです。

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結果②：運動機能も向上（FMA）

鍼を併用した群では、

• 上肢FMAスコア：＋5.56ポイント
• 下肢FMAスコア：＋3.68ポイント

この変化は、随意運動が部分的に再出現するレベルに相当します。
特に上肢での改善が大きく、
「肘や手指を少し動かせるようになった」患者が増えています。

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結果③：生活動作（ADL）が改善（Barthel Index）

日常生活動作を示すBarthel Index（BI）は、＋8.61点の上昇。

このスコア差は、

• 「着替えが介助から見守りに変わる」
• 「食事が自力でできるようになる」
  といったレベル。

つまり鍼の併用は、単なる“動きの回復”ではなく、生活の質（QOL）向上にも寄与しています。

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鍼を打った部位：どこを狙っているのか？

この解析に含まれた88件の試験では、使用された経穴は以下のようにまとめられています👇

▶ 上肢（手・腕）

• 合谷（LI4）
• 曲池（LI11）
• 手三里（LI10）
• 外関（SJ5）
• 肩髃（LI15）

▶ 下肢（脚）

• 足三里（ST36）
• 陽陵泉（GB34）
• 三陰交（SP6）
• 太衝（LR3）
• 血海（SP10）

▶ 頭部（頭皮鍼）

• 運動区（MS5）
• 感覚区（MS6・MS7）

上肢＋下肢＋頭部の組み合わせが多く、
特に「運動区への頭皮鍼」と「手足の経穴刺激」の併用で
脳と末梢神経の両方を活性化する設計が多く使われています。

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どのタイプの鍼が効果的？

比較された鍼の種類と効果は次の通り👇

鍼の種類	効果（SMD）	特徴
手動鍼（manual）	−0.74	刺激量の調整が柔軟で、熟練者向け
電気鍼（electroacupuncture）	−0.71	再現性が高く、神経可塑性を促進
温鍼・火鍼	一部の研究で有効	慢性期や拘縮が強いケースで補助的に使用

さらに興味深いのは、施術頻度と効果の関係。
「週3回」よりも「毎日施術（または1日2回）」の方が改善が大きく、
累積30回以上で最も顕著な効果が得られました。

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どんなメカニズムで効くのか？

鍼治療の痙縮改善には、次のような神経生理学的メカニズムが考えられています👇

1. 脊髄反射の抑制
   　鍼刺激が脊髄レベルで過剰な反射回路を落ち着かせる。
2. 中枢神経の再可塑化（neuroplasticity）
   　運動野や感覚野を刺激し、神経回路の再構築を促す。
3. 筋緊張の自動制御（α−γ連関）改善
   　筋紡錘の過剰興奮を鎮め、筋肉のトーンを下げる。
4. 血流・代謝の改善
   　筋への酸素供給が改善し、硬直や痛みを軽減。

→ 結果として、“脳-筋-動作”のつながりを再起動させるのです。

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安全性：ほぼ副作用なし

88件の研究中、報告された副作用はわずか4件。
すべて軽度で自然回復しています。

副作用	発生数	対応
皮下出血・赤み	2例	経過観察で自然消退
一過性の立ちくらみ	1例	休息にて回復
軽度の痛み	1例	翌日には消失

つまり、リスクが極めて低く、再現性の高い治療です。

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現場での活かし方

脳卒中のリハビリでは、「筋が固くて動かせない」段階をどう乗り越えるかが鍵。
鍼は、リハ前の“地ならし”として使うと最も効果的です。

たとえば：

• 曲池・合谷 → 上肢屈筋群の緊張を緩める
• 足三里・陽陵泉 → 下肢の痙縮・尖足を抑える
• 頭皮鍼 → 随意運動の出現を促す

この「鍼→運動療法→自主練」の流れが理想的です。

項目	内容
対象	脳卒中後の痙縮患者（6,431名）
効果	筋緊張・運動機能・ADLすべて改善
鍼の種類	手動鍼・電気鍼どちらも有効
頻度	毎日1〜2回、30回以上で最大効果
安全性	副作用ほぼなし
実践的使い方	リハ直前の刺激で可動域UP・痙縮軽減

まとめの一言

鍼は「動きを作る準備」としての力がある。
リハと組み合わせれば、“もう一度動ける体”を取り戻せる。