―リハビリで大事な視点。 座位姿勢が立位に及ぼす悪影響 ―
■ なぜ「座り方」が「立ち方」に関係するのか
私たちは1日のうち、平均で7〜10時間を“座って”過ごしている。
この時間、実は立位や歩行の土台を形づくる「姿勢習慣」をつくっている。
座る=休むではない。
座り方が崩れると、
- 骨盤が後傾し、
- 腰椎の前弯が失われ、
- 背部筋が過緊張し、
- 下肢の支持性が低下する。
そしていざ立つとき、身体は「悪い姿勢のまま立ち上がる」。
つまり、座り方の癖がそのまま立ち方の癖になるのだ。
■ 座位姿勢が立位に及ぼす生理学的影響
ここでは、科学的根拠をベースに整理してみよう。
① 腰背部筋の硬化と立位制御の低下
Kettら(2021, MDPI)は、4.5時間の座位で腰部筋の硬さ(stiffness)が顕著に増加したと報告。
血流が滞り、筋膜の滑走が悪化すると、立位時の伸展動作にブレーキがかかる。
鍼灸でこの「局所の筋硬化」を解くと、骨盤前傾や体幹伸展がしやすくなり、立位時の姿勢修正が自然に進む。
実際、鍼刺激による局所循環改善・筋緊張緩和は複数の臨床試験で確認されている。
② 脊柱アライメントの変化が立位姿勢に残存
「The Sitting vs Standing Spine」(2022)では、座位中に腰椎前弯が減少し、胸椎後弯が増すことを確認。
つまり、座っている間に“猫背姿勢”が脳と筋の両面で固定化されてしまう。
その状態で立ち上がると、本来のS字カーブを再現できず、背中が丸まった立位になる。
この「姿勢の持ち越し効果(postural carry-over)」は臨床現場でも頻繁に観察される。
座位で骨盤が寝ている人は、立位でも骨盤を起こせず膝を伸ばしきれない。
つまり、“座り方が立ち方を記憶させている”といっていい。
③ 立位移行時のバランス低下
座位から立位への動作(sit-to-stand)は、単なる筋力ではなくバランス再構築の瞬間でもある。
Effect of Sitting Pause Times on Balance After Supine to Standing Transfer(2017, PubMed)では、
- 仰向け→座位→立位という一連の動作の中で、
- 「座位でどれだけ静止したか」を操作変数にして、
- 立位後の重心の揺れ(=安定性)を比較しました。
結果として、座って体勢を整える“間”を取ると、立位の安定性が高まると報告されています。
つまり、リハビリや日常生活では「立つ前にワンテンポ置く」ことが重要、という実践的な示唆です。つまり、座位中に姿勢を整えずに立つと、立ち上がり直後に不安定になりやすい。
脳卒中リハビリの現場でも、起立動作後に体幹が後方へ流れるケースは典型例だ。
座位で“軸を整える時間”を取ることが、転倒予防の第一歩となる。
④ 筋活動低下による立位機能の衰退
長時間座位は、ハムストリングス・大殿筋・腸腰筋といった抗重力筋の活動を著しく下げる。
これらは立位維持に不可欠な筋群だ。
Daneshmandiら(2017)は、長時間座位が「代謝機能・筋活性の低下」を引き起こすと報告。
単純に言えば、「座ってる間に、立つための筋がサボる」のだ。
■ 鍼灸師・理学療法士が伝えたいこと
多くの人は「腰が痛い」「立つのがしんどい」と言いながら、
その原因が“座り方”だとは気づいていない。
だが実際は、座っている間に立てなくなる体を作っている。
座位姿勢を変えることは、立位・歩行・QOLすべてに波及する。
私個人的には良い姿勢というものは無いと考えています。
一般的に良いと言われるものも継続し続ければ一カ所に負担がかかってくるので、良い姿勢を心掛けるのではなく、頻回に姿勢を変えることが身体の負担を軽減します。
■ まとめ
「立ち方を変える前に、座り方を変えよう」
座位は立位の鏡だ。
立つ力を取り戻したいなら、
まず椅子の上で、骨盤と背骨を“再起動”させよう。
鍼灸とリハビリの融合こそ、
現代の“座りすぎ社会”に必要な、
最も実践的で再現性の高いアプローチである。


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