自律神経失調症に対する鍼灸治療の一例
1.患者情報
- 年齢・性別:40代女性
- 主訴:全身の倦怠感、ひどい生理痛
- 既往歴:特記事項なし
- 現病歴:半年前より仕事のストレスが続き、めまいや息苦しさ、寝つきの悪さを自覚。内科での検査では異常がなく、「自律神経の乱れ」と診断された。薬物療法に抵抗があり、鍼灸治療を希望。
2.初診時所見
- 脈診:沈・遅
- 腹診:腹部全体に圧痛、腹動
- 体温傾向:末梢冷感(特に下腿~足部)
- 姿勢・筋緊張:肩上部に明らかな緊張
- 自覚症状スコア(VAS 0-10)
- 倦怠感:7
- 冷え:6
- 生理痛:8
3.治療方針
- 自律神経系のバランス(交感・副交感神経)を整えることを目的とし、
「頭部・腹部・四肢末端の循環改善とリラックス反応の誘導」を主軸とする。 - 治療概念:
- 気血の滞り(気滞・瘀血)+気虚傾向の是正
- 下肢末端からの遠隔調整により全身の自律神経反応を誘導
- 長野式治療理論をベースに実施
4.治療内容
- 体位:仰臥位(写真参照)
- 使用経穴(例):
- 頭部:百会
- 体幹:兪府
- 上肢:尺沢
- 下肢:復溜、足三里、中封 etc…….
- 施術方法:
- 刺入深度は約5〜10mm、置鍼時間は15分。
- 終了後に軽い下肢ストレッチを実施。

5.経過
| 回数 | 主な変化・所見 |
|---|---|
| 初回 | 施術中より下肢の温感出現、深呼吸が自然にできるようになる |
| 2回目(1週後) | 入眠が早くなったと報告 |
| 4回目(3週後) | 朝の倦怠感がほぼ消失、冷えスコア6→2へ改善 |
| 6回目(5週後) | 生理痛も軽減 |
6.考察
- 自律神経を整えることで、末梢循環の改善とリラックス反応の誘導が確認された。
- 特に足部の刺鍼中に呼吸リズムが安定し、皮膚血流の上昇を伴う傾向があった。
- 交感神経緊張の抑制に加え、内関・神門などによる心身調和作用が相乗的に働いたと考えられる。
7.結語
本症例では、全身の循環と神経バランスを整える鍼灸治療により、自律神経失調症による多様な症状が改善を示した。
「局所に囚われず、全身性アプローチを重視する」ことが鍵であり、今後も継続的な経過観察が望まれる。


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