肩こり・首痛は、自宅の運動だけでも変わるのか?

姿勢

「首が痛いからマッサージに行く」

「肩がこったら、とりあえず揉んでもらう」

こうした対処をしている方は多いと思います。

もちろん、マッサージや施術によって一時的に楽になることはあります。

しかし、

「そのときは楽になるけれど、また痛くなる」

「何度ほぐしても、しばらくすると首や肩がつらくなる」

という人も少なくありません。

では、専門家に毎回施術してもらわなくても、自宅で運動を続けることで首の状態は変わるのでしょうか?

2026年8月に『Scientific Reports』に掲載された研究では、慢性的な非特異的頸部痛に対するホームエクササイズの効果が検討されました。

その結果、適切なホームエクササイズを行ったグループでは、首の筋持久力や首痛に伴う障害度に改善がみられました。

ただし、

「家で体操をすれば首痛が必ず治る」

という話ではありません。

今回の研究から見えてくるのは、もう少し現実的な話です。


今回の研究は「肩こり」そのものを調べた研究ではない

最初に重要な点です。

今回の研究対象は、日本で一般的に使われる「肩こり」そのものではありません。

対象となったのは、

3か月以上続く非特異的頸部痛

のある人です。

非特異的頸部痛とは、画像検査などを行っても、

「この骨が原因」

「この椎間板が原因」

というように、痛みの原因を一つに特定できない首の痛みを指します。

例えば、

  • デスクワークが長い
  • スマートフォンを見る時間が長い
  • 同じ姿勢が続く
  • 首や肩周囲が疲れやすい
  • 首を動かすと痛い
  • 首から肩にかけて慢性的に重い

といった症状を伴うことがあります。

そのため、今回の研究結果をそのまま「肩こり全般」に当てはめることはできません。

ただし、日常的な首や肩のつらさを考えるうえでは、非常に参考になる研究です。


研究では何をしたのか?

研究には、18〜65歳の非特異的頸部痛がある65人が参加しました。

参加者は、

  • ホームエクササイズを行うグループ
  • 首の健康について説明を受けるグループ

に分けられました。

運動を行うグループでは、4週間、自宅で運動を継続しました。

研究では具体的にどんな運動をしたのか?

今回の研究では、非特異的頸部痛のある人に対して、4週間のホームエクササイズが行われました。

ポイントは、ストレッチだけではなかったことです。

実施されたプログラムには、主に次のような運動が含まれていました。

① チンタック

あごを軽く後ろに引き、頭を前に突き出した姿勢から首を整える運動です。

イメージとしては、

「あごを下に引く」のではなく、「頭を後ろへスライドさせる」

ような動きです。

首の深部筋を使いながら、頸部を安定させる目的があります。


② 首の関節可動域運動

首を、

  • 前に倒す
  • 後ろに倒す
  • 左右を向く
  • 左右に傾ける

といった方向へ動かします。

痛みのない範囲で首を動かし、頸椎の可動性を保つための運動です。

慢性的に首が痛い人では、

「痛いから動かさない」

状態が続き、首を動かす範囲そのものが小さくなっていることがあります。

そこで、適切な範囲で動きを取り戻していきます。


③ 首の等尺性運動

等尺性運動とは、

首を実際には動かさず、力だけを入れる運動

です。

例えば、

額に手を当てて前へ押す

手で押し返す

首自体は動かさない

という方法です。

同じように、

  • 後頭部
  • 頭の右側
  • 頭の左側

にも抵抗を加えます。

これによって、首を前後・左右から支える筋肉を働かせます。

首に大きな動きを加えずに負荷をかけられるため、首の安定性や筋持久力を高める方法として使われます。


④ ボールを使った頸部安定化運動

ボールを壁などとの間に入れ、首で軽く押しながら姿勢を維持する運動も行われました。

例えば、

後頭部と壁の間にボールを置き、

軽くボールを押す

その姿勢を維持する

という方法です。

単純に首を強く動かすのではなく、

首を一定の位置で安定させ続ける能力

を鍛える運動です。

今回の研究で注目された「筋持久力」とも関係する運動です。


⑤ 首・肩・胸周囲のストレッチ

首そのものだけではなく、首や肩甲帯に関係する筋肉のストレッチも行われました。

対象には、

  • 僧帽筋上部
  • 肩甲挙筋
  • 斜角筋
  • 菱形筋
  • 大胸筋
  • 広背筋

などが含まれていました。

例えば、長時間のデスクワークでは、胸の筋肉が短くなり、肩が前に出やすくなることがあります。

そのため、

「痛い首だけを伸ばす」のではなく、首につながる胸・肩甲骨周囲まで含めて整える

という考え方です。


⑥ 姿勢練習

運動だけではなく、姿勢を整える練習も含まれていました。

ただし、

「胸を張って、ずっと良い姿勢を維持してください」

という単純な話ではありません。

チンタックや頸部安定化運動などと組み合わせながら、

首に過剰な負担が集中しにくい姿勢を作る練習

が行われています。


つまり「首を伸ばすだけ」ではなかった

今回のホームエクササイズをまとめると、

①動かす

首の関節可動域運動

②支える

等尺性運動・頸部安定化運動

③持続させる

筋持久力を高める運動

④周囲を整える

首・肩・胸周囲のストレッチ

⑤使い方を変える

姿勢練習

という構成です。

つまり、

「硬い首をストレッチするだけ」ではなく、首を動かす能力と、支える能力の両方を改善するプログラム

だったということです。

ここは非常に重要です。

慢性的な首痛では、

「硬いから伸ばす」

だけではなく、

動かす・支える・持続する

という複数の能力を改善していく必要がある可能性があります。


「完全に一人でやった」わけではない

ここも重要です。

今回のホームエクササイズは、

「体操の紙を一枚渡して、あとは勝手にやってください」

という内容ではありません。

参加者には運動方法を説明する動画や画像が提供され、運動記録をつけながら実施しました。

さらに、週1回の電話によるリマインドも行われています。

つまり今回の研究から言えるのは、

適切な運動内容が提示され、ある程度の継続支援があるホームエクササイズは有効な可能性がある

ということです。

「ネットで見つけた体操を適当にやれば同じ効果が出る」

とは限りません。


自宅運動で何が変わったのか?

今回の研究では、単に、

「痛みが減ったかどうか」

だけを見ていたわけではありません。

評価されたのは、

  • 首の筋持久力
  • 首痛による障害
  • 日常生活・社会生活への参加

などです。

その結果、

首の筋持久力については、運動を行ったグループでより大きな改善がみられました。

また、Northwick Park Neck Pain Questionnaireという、首痛による日常生活上の障害を評価する尺度でも改善が確認されました。

一方で、

すべての評価項目で運動グループが対照グループを明確に上回ったわけではありません。

生活参加についても良い変化は報告されていますが、

「自宅運動によって生活参加まで確実に改善する」

とまでは、この研究だけでは言えません。

このくらい慎重に解釈するのが適切です。


首では「筋力」だけではなく「持久力」も重要

今回の研究で特に面白いポイントが、

首の筋持久力

です。

筋力と筋持久力は同じではありません。

筋力とは、

どれくらい強い力を出せるか。

筋持久力とは、

ある程度の力をどれくらい長く出し続けられるか。

という能力です。

首は、重たい物を一瞬持ち上げる場所ではありません。

一日の中で長時間、頭を支え続けています。

パソコンを使っているときも、

スマートフォンを見ているときも、

料理をしているときも、

歩いているときも、

首の筋肉は常に少なからず働いています。

そのため、

首では「強い力を出せること」だけでなく、「弱い力を長時間維持できること」も重要

になります。


「姿勢を良くしてください」だけでは解決しない

首や肩が痛い人に、

「姿勢を良くしてください」

と指導されることがあります。

もちろん、姿勢は一つの要素です。

しかし、

「背筋を伸ばしてください」

と言われて、ずっと良い姿勢を維持できるでしょうか。

おそらく、多くの人は数分〜数十分すると疲れてきます。

姿勢を維持するためには、首や体幹、肩甲帯周囲の筋肉が働き続ける必要があります。

そのため、筋持久力が低下している場合には、

最初は姿勢を整えられても、

徐々に疲れてくる

頭が前に出る

首や肩周囲の筋肉に負担がかかりやすくなる

ということが起こる可能性があります。

つまり、

「悪い姿勢をやめる」だけではなく、「その姿勢を無理なく維持できる身体をつくる」

という視点も必要です。


首が痛いなら、動かさない方がいい?

首が痛いと、

「なるべく動かさないほうがいいのでは?」

と思う方もいるでしょう。

もちろん、

  • 転倒や交通事故などの外傷直後
  • 手足の強いしびれや筋力低下
  • 発熱を伴う
  • 夜間に強い痛みが続く
  • 急激に悪化している

といった場合には、運動より先に医療機関での評価が必要です。

一方で、慢性的な非特異的頸部痛では、

必要以上に動かさない状態が続くことも問題になります。

動かさない

筋力や持久力が低下する

少し動いただけでも疲れやすくなる

さらに動かさなくなる

という悪循環に入ることがあるからです。

そのため、

無理をする必要はありませんが、痛みや状態に合わせながら適切に身体を動かしていくことが重要です。


「首を鍛えれば肩こりが治る」は言い過ぎ

今回の研究結果を見て、

「じゃあ首を鍛えれば肩こりは全部治るんだ」

と考えるのも早すぎます。

首の痛みや肩周囲の不快感には、

  • 睡眠
  • ストレス
  • 運動不足
  • 長時間の同一姿勢
  • 仕事環境
  • 胸椎の動き
  • 肩甲骨周囲の機能
  • 痛みに対する不安
  • 身体活動量

など、さまざまな要素が関係します。

つまり、

首痛=首の筋肉が弱い

という単純な話ではありません。

同じ首痛でも、

必要な運動は人によって違います。


では、ストレッチだけではダメなのか?

首や肩がつらいと、

まずストレッチをする人が多いと思います。

ストレッチ自体が悪いわけではありません。

実際、今回の運動プログラムにもストレッチは含まれています。

ただし、今回の研究で行われたのは、

ストレッチだけではありません。

首を動かす運動、

姿勢練習、

等尺性運動、

安定化運動、

周囲筋のストレッチ、

といった複数の要素を組み合わせています。

つまり、

「硬いから伸ばせばいい」

ではなく、

動かす能力と支える能力の両方を改善していく

という考え方です。


なぜ自宅運動が重要なのか?

ここは非常に単純です。

仮に週1回、60分の施術を受けたとしても、

1週間は168時間あります。

つまり、

施術を受けていない時間は167時間です。

この167時間を、

ずっと同じ姿勢で過ごし、

ほとんど身体を動かさず、

自宅では何もしない。

それで週1回だけ首を揉んでもらう。

これだけで慢性的な問題を完全に変えるのは、なかなか難しいでしょう。

だからこそ、

専門家による施術だけでなく、

普段の生活の中で自分自身が身体を動かすこと

が重要になります。


では、施術は必要ない?

ここまで読むと、

「自宅で運動すれば、マッサージやリハビリ、鍼灸などは必要ないのでは?」

と思う人もいるかもしれません。

しかし、これは別の話です。

大切なのは、

「施術か運動か」という二択にしないことです。

専門家ができることには、

  • 首痛の原因を評価する
  • 危険な症状がないか確認する
  • どの運動が必要か判断する
  • 運動量を調整する
  • 痛みが強い時期の症状を軽減する
  • 自宅での運動方法を指導する

などがあります。

人によっては、痛みが強すぎて運動に取り組めないこともあります。

その場合には、施術によって症状を軽減し、

「動ける状態を作ってから運動につなげる」

という方法もあります。

重要なのは、

施術を受け続けることそのものではなく、最終的に自分の身体を自分でも管理できる状態を目指すこと

です。


「自宅運動なら何でもいい」わけではない

今回の研究結果を見ると、

「とりあえずYouTubeで首の体操を探してやってみよう」

と思うかもしれません。

それ自体は悪くありません。

ただし、

首痛の原因や身体の状態は人によって違います。

例えば、

  • 首を反らすと痛い人
  • 下を向くと痛い人
  • 振り向くと痛い人
  • 肩甲骨の動きが悪い人
  • 首の筋持久力が低い人
  • 胸椎が硬い人

では、必要な運動が違う可能性があります。

また、運動は量も重要です。

強すぎれば症状が悪化することがありますし、

弱すぎれば十分な刺激にならないこともあります。

そのため、

「何をするか」だけではなく、「どの程度するか」まで含めて考えることが重要です。


今回の研究には限界もある

今回の研究は興味深い結果ですが、これだけで、

「ホームエクササイズが首痛の決定版だ」

とは言えません。

研究対象は65人と比較的小規模です。

また、介入期間も4週間です。

そのため、

  • 半年後も効果が続くのか
  • 1年後も症状が改善したままなのか
  • どの運動が最も重要だったのか
  • どんな人に特に効果が出やすいのか

などは、この研究だけでは分かりません。

また、すべての評価項目で対照群との差が認められたわけでもありません。

したがって今回の研究から言えるのは、

「慢性的な非特異的頸部痛に対して、適切に構成されたホームエクササイズは有効な選択肢の一つになり得る」

というところです。

これ以上言い切ると、少し盛りすぎです。


まとめ

今回の研究から考えると、

慢性的な首痛に対して、

自宅で行う運動だけでも身体機能や日常生活上の障害が改善する可能性があります。

ただし、

「首が痛いからストレッチをする」

「肩がこったから揉む」

だけではなく、

  • 首を動かす
  • 首を支える
  • 筋持久力を高める
  • 周囲の柔軟性を保つ
  • 日常生活で身体を動かす

といった複数の視点が重要です。

そして何より大切なのは、

「痛い場所をどうほぐすか」だけではなく、「痛みが起こりにくい身体をどう作るか」

という考え方です。

慢性的な首痛では、

「専門家に何かをしてもらうこと」

だけではなく、

自分自身で身体を動かし、自分の身体を管理していくことも治療の一部

になっていきます。

肩や首がつらいとき、

「どこを揉んでもらおう?」

だけではなく、

「この首は、一日中頭を支え続けられるだけの能力を持っているだろうか?」

という視点を一度持ってみてもよいかもしれません。


参考文献

Özüberk B, Arğalı Deniz M, Soyupek F. Effects of home exercise program on endurance, disability and daily participation in non-specific neck pain. Scientific Reports. 2026.

ClinicalTrials.gov. NCT05259358.

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