玉ねぎやりんごに含まれる「ケルセチン」は脳卒中予防に役立つ? ― 2026年の最新研究からわかること

リハビリ

出典:
Lu T, Gao J, Zhu P, Cao R, Ye K. (2026). The multi-target protective effects of quercetin in cerebrovascular diseases: a dietary strategy for endothelial repair and neuroprotection. Frontiers in Nutrition, 13, 1775964.

ケルセチンとは

玉ねぎ、りんごの皮、ベリー類、緑茶、豆類など、私たちが普段口にする食品には「ケルセチン」と呼ばれる成分が含まれています。

ケルセチンは、植物に含まれるフラボノイド(ポリフェノール)の一種です。抗酸化作用や抗炎症作用を持つことから以前から研究されてきましたが、近年では脳の血管や神経を守る可能性についても注目されています。

2026年に『Frontiers in Nutrition』に掲載された総説論文では、ケルセチンが脳梗塞をはじめとする脳血管疾患にどのように作用する可能性があるのか、これまでの研究成果が整理されています。

ただし最初に重要な点があります。

今回の論文は、「ケルセチンを食べた人は脳卒中になりにくい」ということを直接証明した研究ではありません。

主に細胞実験や動物実験などの前臨床研究をもとに、その作用機序や今後の可能性をまとめた論文です。

ケルセチンにはどのような働きが期待されているのか

主に細胞実験や動物実験では、ケルセチンに複数の作用があることが報告されています。

1.血管内皮を守る

血管の内側には「血管内皮」と呼ばれる薄い細胞の層があります。

血管内皮は血流の調節や血栓形成、炎症反応などに関係しており、この機能が障害されることは動脈硬化や脳血管疾患のリスクと関連します。

ケルセチンには、活性酸素によるダメージを抑え、血管内皮の機能を保護する可能性が報告されています。

2.過剰な炎症を抑える

脳梗塞では、血流が途絶えたことによる直接的な神経障害だけでなく、その後に生じる炎症反応も脳組織の損傷に関係します。

ケルセチンには、炎症に関係する複数のシグナル伝達経路に作用し、過剰な炎症反応を抑える可能性が示されています。

3.血液脳関門を守る

脳には「血液脳関門(Blood-Brain Barrier:BBB)」と呼ばれる特殊なバリアがあります。

これは血液中の物質が無制限に脳へ入り込まないようにする、いわば「脳の関所」です。

脳梗塞などによってこのバリアが壊れると、炎症や脳浮腫が悪化する可能性があります。

ケルセチンには、血液脳関門を構成する細胞やタンパク質を保護し、バリア機能の低下を抑える可能性が報告されています。

4.神経細胞を守る

脳の血流が低下すると、神経細胞では酸化ストレスやエネルギー不足、炎症などが生じ、最終的には細胞死につながります。

動物実験などでは、ケルセチンがこうした複数の経路に作用し、神経細胞の障害を軽減する可能性が示されています。

5.脳の回復を助ける可能性

脳卒中後の回復には、神経同士のつながりを作り直す「神経可塑性」が重要です。

ケルセチンについても、神経細胞の生存や神経ネットワークの再構築に関係する経路に作用する可能性が研究されています。

つまりケルセチンは、単一の仕組みに作用するのではなく、

血管・炎症・血液脳関門・神経細胞・神経可塑性など、複数の経路に同時に作用する可能性がある

という点で注目されています。

ただし、「ケルセチンを食べれば脳卒中を防げる」とは言えない

ここが今回の論文を読むうえで、最も重要なポイントです。

実験結果が良いからといって、

「玉ねぎをたくさん食べれば脳卒中にならない」

という話にはなりません。

その理由の一つが、ケルセチンのバイオアベイラビリティ(体内で利用できる割合)の低さです。

口から摂取したケルセチンは、消化管から吸収された後に代謝や排泄を受けます。

そのため、摂取した量すべてがそのまま血液中や脳へ届くわけではありません。

今回の論文では、ケルセチンの経口摂取後の絶対的バイオアベイラビリティは、一般に6%未満とされています。

さらに、血液中に到達したケルセチンのすべてが脳まで届くわけでもありません。

つまり、

「実験室では効果がある濃度」と「普通の食事から体内に届く濃度」には、大きな差がある可能性があります。

動物実験と人間の食事は同じではない

動物実験では、ケルセチンを比較的高用量で投与することで、脳梗塞の範囲の縮小や炎症の軽減、神経機能の改善などが報告されています。

しかし、こうした量を通常の食品だけから摂取することは現実的ではない場合があります。

また、

ケルセチンそのものを摂取することで、人間の脳卒中発症や再発が減ることを証明した十分な規模・質の臨床試験は、まだ不足しています。

食品に含まれるフラボノイドの摂取量と脳卒中リスクとの関連を調べた疫学研究はありますが、こうした研究だけでは「ケルセチンが脳卒中を防いだ」と因果関係まで証明することはできません。

したがって現段階では、

ケルセチンは脳血管を守る可能性がある有望な成分ではあるものの、脳卒中予防薬として効果が証明されたわけではない

という位置づけになります。

なぜ研究者はケルセチンに注目しているのか

課題が多いにもかかわらず、ケルセチンの研究が続いている理由の一つは、複数の作用を持っていることです。

脳卒中では、

  • 血管内皮障害
  • 酸化ストレス
  • 炎症
  • 血液脳関門の障害
  • 神経細胞死
  • 神経可塑性の低下

など、複数の問題が同時に起こります。

ケルセチンはこれらの複数の経路に作用する可能性があるため、「多標的型」の成分として研究されています。

さらに現在は、ケルセチンをナノ粒子やリポソームなどに封入し、吸収率や脳への到達性を高めるドラッグデリバリー技術についても研究が進められています。

ただし、これらもまだ研究段階です。

では、玉ねぎやりんごを食べる意味はないのか?

もちろん、そんなことはありません。

玉ねぎ、りんご、ベリー類、豆類、緑茶などを普段の食事に取り入れること自体は、健康的な食生活の一部として十分意味があります。

ただし重要なのは、

「ケルセチンだけ」に注目しすぎないことです。

現在、脳卒中予防についてより確かなエビデンスがあるのは、特定の食品や栄養素を大量に摂取することではなく、

  • 野菜や果物を十分に摂る
  • 豆類や全粒穀物を取り入れる
  • 塩分を摂りすぎない
  • 適正体重を維持する
  • 運動習慣をつくる
  • 血圧・血糖・脂質を管理する
  • 禁煙する
  • 必要な薬を適切に継続する

といった、生活習慣全体の管理です。

つまり、

「ケルセチンを摂ること」よりも、「ケルセチンを含む野菜や果物を含め、多様な食品をバランスよく食べること」の方が、現時点では重要です。

脳卒中後の方はサプリメントにも注意

「食品から摂るよりサプリメントの方が効くのでは?」と思う方もいるかもしれません。

しかし、脳卒中後の方の中には、抗血小板薬や抗凝固薬、降圧薬など複数の薬を服用している方も多くいます。

サプリメントは「食品だから安全」とは限らず、薬との相互作用や高用量摂取による影響について十分な情報がないものもあります。

そのため、

脳卒中の治療薬や再発予防薬の代わりとしてケルセチンサプリメントを使用することはおすすめできません。

サプリメントを使用したい場合は、服用している薬との兼ね合いも含め、医師や薬剤師へ相談することが大切です。

まとめ

2026年の総説論文では、ケルセチンについて、

  • 血管内皮を守る
  • 酸化ストレスを抑える
  • 炎症を抑える
  • 血液脳関門を保護する
  • 神経細胞を守る
  • 神経の回復を助ける

といった複数の作用が報告されています。

一方で、その多くは細胞実験や動物実験によるものです。

さらに、口から摂取したケルセチンは体内で利用されにくく、脳へ到達する量にも限界があります。

そのため現時点では、

「ケルセチンを摂れば脳卒中を予防できる」と言えるだけの臨床的エビデンスはありません。

一方で、玉ねぎやりんご、ベリー類、豆類などを含む野菜・果物を日常的に食べることは、健康的な食生活としておすすめできます。

ケルセチンを「特効成分」と考えるのではなく、

健康的な食生活を構成する成分の一つとして捉える。

これが、現在の研究結果から考える最も妥当な付き合い方でしょう。

脳卒中の予防・再発予防では、食事だけでなく、血圧・血糖・脂質の管理、運動、服薬、そして必要に応じたリハビリテーションを継続することが基本になります。

ご不明な点や、脳卒中後の生活・リハビリについて気になることがありましたら、訪問時にもお気軽にご相談ください。

参考文献

Lu T, Gao J, Zhu P, Cao R, Ye K. (2026). The multi-target protective effects of quercetin in cerebrovascular diseases: a dietary strategy for endothelial repair and neuroprotection. Frontiers in Nutrition, 13, 1775964.
https://doi.org/10.3389/fnut.2026.1775964

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