臨床では、痛みやしびれの分布をすべて「デルマトーム」で説明してしまいがちです。しかし、皮膚感覚、筋力・運動、骨・関節などの深部痛は、同じ脊髄分節と関係していても同じ地図にはなりません。さらに、実際の症状は個人差や隣接分節の重複が大きく、典型図どおりに現れないことも少なくありません。本稿では、デルマトーム・マイトーム・スクレロトームの違いを整理し、臨床で「何を、どこまで判断できるのか」を解説します。
発生学的な起源
胎生期の体節(somite)は、まず硬節(sclerotome)と皮筋板(dermomyotome)に分かれ、皮筋板から皮節(dermatome)と筋節(myotome)が形成されます。これらの組織は発生の過程で位置関係を変え、四肢では回旋も加わるため、成人の皮膚・筋・骨格の分節配置は単純には一致しません。ただし、発生学上の由来と成人の神経支配を完全に同一視しないことも重要です。
| 発生学的な由来 | 成人での主な対象 | |
| デルマトーム | 皮節(dermatome) | 皮膚感覚 |
| マイトーム | 筋節(myotome) | 骨格筋・運動 |
| スクレロトーム | 硬節(sclerotome) | 骨格。臨床では深部組織痛の分節概念として用いられる |
デルマトーム(皮膚分節)
主として1つの脊髄神経根から感覚入力を受ける皮膚領域です。触覚・痛覚・温度覚などの評価に用います。
隣接するデルマトームは広く重複し、個人差や文献間の地図の違いも大きいため、境界線を絶対視しない
帯状疱疹の皮疹分布や神経根障害の感覚評価に有用。ただし、神経根性疼痛が常に教科書的なデルマトームに一致するとは限らない
マイトーム(筋分節)
マイトーム(筋節)とは?
マイトームとは、ある脊髄神経が「筋肉を動かす」領域です。
つまり、
筋力低下の原因となる神経根を探すための地図
になります。
例えばC6神経根が障害されると、
- 肘を曲げる力が弱い
- 手首を反らす力が弱い
といった運動障害が現れます。
そのためマイトームは、
- MMT
- 神経根症の評価
- 脱力の原因検索
で使われます。
鍼灸師が覚えること
「筋力を評価するときの地図」がマイトーム
主として1つの脊髄神経根に対応する筋群、または代表的な運動のまとまりを指します。臨床では、個々の筋よりも「運動」を通して評価することが多くなります。
1つの筋や運動は通常、複数の神経根から支配されるため、単一筋の脱力だけで責任高位を断定しない
徒手筋力検査(MMT)だけでなく、腱反射、感覚所見、疼痛誘発、必要に応じて画像・電気生理学的検査と組み合わせる
代表例:C5は肩外転・肘屈曲、C6は手関節背屈、C7は肘伸展、C8は手指屈曲、T1は手指外転が目安。ただし支配分節には資料間・個人間の差がある
スクレロトーム(深部組織の分節概念)
スクレロトーム(硬節)とは?
スクレロトームとは、
骨・靱帯・椎間関節・椎間板など深部組織から生じる痛みが、どこへ広がるかを考えるための概念です。
例えば、
腰椎の椎間関節が痛みの原因でも、
痛い場所は
- お尻
- 鼠径部
- 太もも
だったりします。
つまり
痛い場所=悪い場所
とは限りません。
これが関連痛です。
鍼灸師が覚えること
「深部組織の痛みは別の場所に感じることがある」という考え方
発生学では椎骨・肋骨などの骨格をつくる硬節を指します。臨床では、骨・関節・靱帯などの深部体性組織に由来する痛みの分節性を説明する概念として「スクレロトーム」という語が使われます。
深部痛は局在が不明瞭で、原因部位から離れた場所に関連痛として感じられることがある
古典的なスクレロトームマップは関連痛を考える手がかりになるが、患者ごとのばらつきが大きく、責任組織や神経根を単独で特定できる診断地図ではない
椎間関節、椎間板、靱帯などの痛みはデルマトームや末梢神経の走行に一致しないことがある。関連痛、神経根性疼痛、末梢神経障害を区別して考える必要がある
| 症状 | 考える地図 |
|---|---|
| しびれ・感覚異常 | デルマトーム |
| 脱力・筋力低下 | マイトーム |
| 深部痛・関連痛 | スクレロトーム |
鍼灸師にとっての臨床的意義
| 評価・臨床応用のポイント 感覚低下・しびれ:デルマトームを参考に、左右差と複数の感覚モダリティを確認する 筋力低下:マイトームを参考に、単一筋ではなく複数の運動と腱反射を組み合わせる 深部の鈍い放散痛:関連痛を考えるが、スクレロトームだけで原因組織を断定しない 鍼灸刺激:刺入部位の皮膚・筋・骨膜など、実際に刺激される組織と神経解剖を考える。ただし、刺激深度とデルマトーム/マイトーム/スクレロトームを一対一で対応させる根拠は十分ではない |
3つの概念を使い分ける目的は、症状を1枚の地図に無理やり当てはめることではありません。「皮膚感覚の異常なのか」「運動・筋力の異常なのか」「深部組織からの関連痛が疑われるのか」を分けて評価し、複数の所見が同じ神経根高位を示すかを確認することにあります。
臨床では「一致」より「組み合わせ」で判断する
① 痛み・しびれの性質を確認する:表在性か深部性か、灼熱感・電撃痛・鈍痛などを整理します。
② 感覚を確認する:軽い触覚だけでなく、痛覚なども左右で比較し、境界ではなく全体の傾向をみます。
③ 運動を確認する:複数のマイトーム、腱反射、筋萎縮の有無を組み合わせます。
④ 末梢神経の分布と比較する:神経根障害と末梢神経障害では分布が異なります。
⑤ レッドフラッグ所見を見逃さない:進行性の筋力低下、膀胱直腸障害、会陰部の感覚障害、急速に広がるしびれ、発熱や外傷を伴う強い痛みは、鍼灸施術より先に医療機関での評価が必要です。
まとめ
デルマトームは皮膚感覚、マイトームは筋力・運動、スクレロトームは骨格の発生学的由来と深部痛の分節性を考える概念です。ただし、どの地図にも重複と個人差があり、単独では診断できません。臨床では、感覚・筋力・反射・疼痛の性質・末梢神経分布を組み合わせて判断することが重要です。
参考文献
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Ivanusic JJ. The evidence for the spinal segmental innervation of bone. Clin Anat. 2007;20(8):956-960.
Jin Q, et al. Referred pain: characteristics, possible mechanisms, and clinical management. Front Neurol. 2023;14:1104817.
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