――「脳が働いている画像」のほんとうの意味
「fMRIで脳を調べたら、この部分が活発に動いていました。」
テレビや本で、こんな説明を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。頭の中が赤や黄色に色づいた、あのカラフルな画像を思い浮かべるかもしれません。
しかし実は、あの画像は脳の働きを直接撮影したものではありません。
今回は、fMRIが本当は何を見ている検査なのかを、できるだけやさしく解説します。
fMRIは「血液の変化」を見る検査
fMRI(機能的MRI)は、脳の電気信号(神経細胞の活動そのもの)を直接測定しているわけではありません。
実際に見ているのは、
脳活動に伴って起こる血液中の酸素の変化(BOLD信号)
です。
脳のある場所がよく働くと、その部分では酸素が多く消費されます。
すると脳は、その場所に必要以上の血液を送り込み、不足しないよう自動的に調節します。
その結果、酸素を多く含んだ血液(酸素化ヘモグロビン)が増えます。
fMRIは、この変化をMRIで検出し、コンピューターが色を付けて画像として表示しています。
つまり、カラフルな画像は脳細胞そのものを写した写真ではなく、
「血液の変化から脳活動を推測した画像」
なのです。
たとえるなら「工事現場」と「資材トラック」
fMRIを身近な例で考えてみましょう。
工事現場そのものを見ているのではなく、
工事現場へ資材を運ぶトラックの出入りを見ている
ようなものです。
トラックがたくさん来ていれば、
「この現場では何か大きな工事をしているのだろう」
と推測できます。
しかし、
- どんな工事なのか
- 誰が作業しているのか
- 何を作っているのか
までは分かりません。
fMRIも同じで、
血液が増えたことは分かっても、神経細胞が実際にどのような働きをしていたのかまでは直接分からないのです。
なぜ「血液の変化」だけでは脳活動が分からないの?
血液が増えるまでに時間がかかる
神経細胞は100分の1秒以下という非常に短い時間で活動します。
一方で、血液が増えるまでには約2〜6秒程度かかります。
そのため、
「どの神経が最初に働いたのか」
「どの順番で情報が流れたのか」
といった細かな時間の流れまでは分かりません。
1つの点に非常に多くの神経細胞が含まれる
fMRI画像は、小さな立方体(ボクセル)という単位で解析されています。
1つのボクセルには、
数十万〜数百万個もの神経細胞
が含まれています。
つまりfMRIで見えているのは、
その場所にある膨大な数の細胞の平均的な変化
です。
個々の神経細胞がどう活動したのかまでは区別できません。
血液が増えても「興奮」とは限らない
脳には、
- 活動を高める神経細胞
- 活動を抑える神経細胞
の両方があります。
実は、活動を抑える神経が働いた場合でも、その場所ではエネルギーが使われるため血液が増えることがあります。
そのため、
血液が増えた=神経が興奮した
とは必ずしも言えません。
fMRIで分かるのは、
その場所で何らかの神経活動が起こっていた可能性
までです。
では、fMRIは意味がないの?
もちろん、そんなことはありません。
fMRIは、
「どの脳領域がある課題や動作に関わっている可能性が高いか」
を調べる非常に優れた研究手法です。
運動、言語、記憶、感情など、さまざまな脳機能を調べる研究で広く利用されています。
ただし、
「この場所が光ったから、この神経が働いた」
と断定できる検査ではありません。
正確には、
「この場所で脳活動に伴う血液の変化が起こったため、神経活動があったと推測される」
という理解が適切です。
鍼灸やリハビリ研究でも大切な考え方
近年では、鍼灸やリハビリテーションの研究でもfMRIがよく使われています。
施術後に脳の活動パターンが変化したという報告も数多くあります。
しかし、それらの研究結果も、
「脳が直接刺激された」「この神経回路が確実に活性化した」
と断定できるわけではありません。
あくまで、
脳活動に伴って血液の変化が起こったことを示している
という前提で解釈することが重要です。
まとめ
テレビなどでは「脳が光った」と表現されることがあります。
しかし、実際に脳が光っているわけではありません。
コンピューターが血液中の酸素の変化を色付けして表示している画像なのです。
fMRIは脳を直接見ている検査ではありません。
脳活動に伴って起こる血液の変化を利用し、その場所で神経活動が起こっていた可能性を推測する検査です。
この違いを理解すると、鍼灸やリハビリの研究を読むときにも、結果をより正確に読み解けるようになります。


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