はじめに
頭皮鍼や頭部への施術について、
「頭皮の血流が良くなることで、脳の血流も良くなる」
という説明を耳にすることがあります。
しかし、この説明は解剖学・生理学の観点から見ると、少し誤解を招く表現です。
確かに頭皮鍼後に脳血流の変化を報告した研究はあります。しかし、それは頭皮の血液が脳へ流れ込んだからなのでしょうか。
今回は、「頭皮の血流」と「脳の血流」の違いを整理しながら、頭皮鍼と脳血流の関係を考えてみます。
頭皮と脳は血液循環が別である
まず知っておきたいのは、頭皮と脳では血液を送るルートが異なるということです。
頭皮は主に
- 浅側頭動脈
- 後頭動脈
- 後耳介動脈
- 滑車上動脈
- 眼窩上動脈
などによって栄養されています。
一方、脳へ血液を送るのは
- 内頸動脈
- 椎骨動脈
です。
つまり、頭皮と脳は近接しているものの、血液循環は基本的に独立しています。
そのため、頭皮の血流が増えたからといって、その血液がそのまま脳へ流れ込むわけではありません。
それでも「脳血流が増えた」という研究がある理由
ここで疑問が生まれます。
頭皮の血流と脳の血流が別なら、なぜ頭皮鍼で脳血流が増えたという研究があるのでしょうか。
その答えは、
脳血流は神経活動に応じて変化する
という脳の仕組みにあります。
神経活動が先、血流増加は後
脳の神経細胞(ニューロン)が活動すると、
- 活動電位の発生
- シナプス伝達
- イオンポンプの働き
が活発になります。
その結果、多くのATP(エネルギー)が必要になります。
ATPを作るには、
- 酸素
- ブドウ糖
が必要です。
そこで活動した脳領域では、
「もっと酸素とブドウ糖を運んでほしい」
という信号が周囲の血管へ送られます。
この信号を受けて細い動脈が拡張し、その部位だけ血流が増加します。
これを神経血管連関(neurovascular coupling)と呼びます。
つまり、
神経活動 → エネルギー需要の増加 → 血管拡張 → 局所脳血流の増加
という順番で起きているのです。
fMRIやNIRSは何を見ているのか
頭皮鍼の研究では、
- fMRI
- NIRS
- PET
などがよく用いられます。
これらは脳血流や酸素化ヘモグロビンの変化を測定しています。
ここで重要なのは、
これらの装置は神経活動そのものではなく、その結果として生じた血流変化を捉えている
という点です。
つまり、
「血流が増えたから脳が働いた」
のではなく、
「脳が働いた結果として血流が増えた」
ということです。
頭皮鍼では何が起きている可能性があるのか
頭皮への刺鍼によって、
皮膚や筋膜に分布する感覚受容器が刺激されると、その情報は末梢神経を介して脊髄や脳幹、視床を経て大脳皮質へ伝わります。
その結果、
体性感覚野や運動野などの神経活動が変化し、それに伴って局所的な脳血流が変化する可能性があります。
もしこのようなメカニズムが働いているのであれば、
脳血流の変化は頭皮の血流が脳へ流れ込んだからではなく、
神経活動が変化した結果として生じた二次的な反応
と考える方が、現在の神経科学と整合します。
「血流が原因」と「血流が結果」は大きく違う
ここが最も重要なポイントです。
「頭皮の血流が良くなったから脳血流が良くなる」
という考え方では、
血流が原因になります。
しかし現在の神経科学では、
神経活動によって必要な場所へ血液を送るという仕組みが確立されています。
つまり、
脳血流の増加は、神経活動を支えるための結果です。
この違いを理解すると、頭皮鍼だけでなく、fMRIやPET、NIRS研究の結果も正しく解釈できるようになります。
まとめ
- 頭皮と脳は近接しているが、血液循環は基本的に独立している。
- 頭皮の血流が増えたからといって、その血液が脳へ流れ込むわけではない。
- 脳血流は神経活動に応じて局所的に調節される。
- 頭皮鍼で脳血流が変化するとすれば、それは神経活動の変化に伴う二次的な反応と考えるのが現在の生理学に合致している。
- 「頭皮の血流」と「脳の血流」は区別して理解することが重要である。


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