― 神経は「圧迫」だけでなく「糖代謝」の影響も受けている ―
「MRIでは軽いヘルニアと言われたのに、しびれが強い。」
「手術をしたのに、足のしびれがなかなか改善しない。」
このようなケースでは、神経の圧迫だけでなく、高血糖による神経へのダメージが関係している可能性があります。
実は、神経は「押されること」だけで障害されるわけではありません。血糖値が高い状態が続くと、神経そのものが傷つき、圧迫にも弱くなることが分かっています。
この記事では、ヘルニアや脊柱管狭窄症と高血糖の関係を、現在の研究に基づいて分かりやすく解説します。
神経は「血糖」の影響を受ける
高血糖が続くと、糖尿病でなくても神経にさまざまな変化が起こります。
代表的なものは、
- 神経を栄養する細い血管の血流低下
- 活性酸素(酸化ストレス)の増加
- 神経線維(軸索)の障害
- 神経を包むシュワン細胞の障害
- 神経伝導速度の低下
です。
その結果、神経は本来よりもダメージを受けやすくなります。
軽い圧迫でも症状が強く出ることがある
通常であれば問題にならない程度の神経圧迫でも、高血糖によって弱った神経では、
- 足のしびれ
- ピリピリ感
- 電気が走るような痛み
- 灼熱感
などが強く現れることがあります。
これは「ダブルクラッシュ症候群」という考え方でも説明されます。
もともと障害を受けている神経は、別の場所から新たなストレスが加わると、さらに症状が出やすくなるという考え方です。
例えば、
- 糖尿病による神経障害
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 腰部脊柱管狭窄症
が重なると、それぞれ単独の場合よりもしびれや痛みが強くなる可能性があります。
神経の回復も遅くなる
高血糖は神経を傷つけるだけではありません。
神経を修復する働きまで低下させます。
具体的には、
- 軸索の再生が遅くなる
- 神経成長因子(NGF)が減少する
- シュワン細胞の修復能力が低下する
- 神経への血流が悪くなる
ことが報告されています。
そのため、
- 保存療法
- 手術
- リハビリ
を行っても、血糖コントロールが良好な人と比べて改善まで時間がかかることがあります。
MRIだけでは説明できないこともある
臨床では、
「MRIでは軽いヘルニアですね。」
と言われたにもかかわらず、
「歩くのもつらい。」
「足裏がずっとジンジンする。」
という方は少なくありません。
もちろん画像に写らない病変がある場合もありますが、高血糖による神経障害が症状を強めている可能性も考える必要があります。
逆に、MRIで狭窄が見つかっても、症状のすべてが狭窄によるものとは限りません。
こんな症状は糖尿病性神経障害も疑う
次のような特徴がある場合は、腰だけでなく糖代謝の影響も考える必要があります。
- 両足とも同じようにしびれる
- 足先から徐々に広がる
- 靴下を履いたようなしびれがある
- 夜間にしびれや痛みが強い
- 足裏の感覚が鈍い
- HbA1cが高い、または糖尿病と診断されている
一方で、
- 片側だけのしびれ
- お尻から足へ放散する痛み
- 特定の姿勢で悪化する
- 筋力低下や腱反射低下を伴う
場合は、神経根障害の可能性が高くなります。
ただし、両者が同時に存在することも珍しくありません。
血糖管理も「神経の治療」の一つ
ヘルニアや脊柱管狭窄症では、リハビリや薬、手術が重要です。
しかし、それだけでは十分でない場合があります。
もし高血糖が続いているのであれば、
- 食事の見直し
- 運動習慣
- 体重管理
- 糖尿病治療
も、神経を守るための重要な治療になります。
神経は「圧迫」と「代謝」の両方から影響を受けるため、どちらにも目を向けることが回復への近道です。
まとめ
ヘルニアや脊柱管狭窄症の症状は、神経の圧迫だけでは決まりません。
高血糖が続くと神経は傷つき、圧迫への耐性が低下します。その結果、軽い圧迫でもしびれや痛みが強くなったり、回復に時間がかかったりすることがあります。
しびれがなかなか改善しない場合は、「腰だけ」の問題ではなく、「神経の代謝状態」にも目を向けることが大切です。
参考文献
- Brownlee M. The Pathobiology of Diabetic Complications: A Unifying Mechanism. Nature. 2005.
- Feldman EL, et al. Diabetic Neuropathy. Nature Reviews Disease Primers. 2019.
- Pop-Busui R, et al. Diabetic Neuropathy: A Position Statement by the American Diabetes Association. Diabetes Care. 2017.
- Genevay S, Atlas SJ. Lumbar Spinal Stenosis. BMJ. 2010.


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