なぜ昨日は平気だったのに、今日は痛いのか?

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― 痛みは「その日の身体」と「その日の脳」が一緒につくっている ―

監修:理学療法士・鍼灸師 リハりん

「昨日は30分座っていても平気だったのに、今日は10分で腰が痛くなる。」

「同じ動作をしただけなのに、今日は痛みが強い。」

このような経験をしたことはありませんか?

多くの人は、「痛みが強い=身体が悪化した」と考えがちです。しかし、現在の疼痛科学では、同じ姿勢でも痛みが変わるのは珍しいことではないと考えられています。

その理由は、痛みが「傷の大きさ」だけで決まるものではないからです。

痛みは身体だけでは決まらない

痛みは、筋肉や関節から送られてくる情報を脳が処理した結果として生じます。

つまり、同じ姿勢でも

  • 身体から届く情報
  • 脳や脊髄での情報処理
  • 心身のコンディション

が変われば、感じる痛みも変化します。

痛みは「その日の身体」と「その日の脳」が共同で作り出している現象なのです。

① 睡眠不足

最もエビデンスが豊富なのが睡眠です。

睡眠不足になると、

  • 痛みを抑える仕組み(下行性疼痛調節)が弱くなる
  • 痛みに敏感になる
  • 圧痛閾値が低下する

ことが報告されています。

つまり、寝不足だけでも翌日の痛みは強くなり得ます。

② ストレスや気分

強いストレスや不安、気分の落ち込みは、脳の痛みを調節する働きに影響します。

これは「気のせい」という意味ではありません。

ストレスによって神経活動やホルモン、自律神経のバランスが変化し、実際に痛みの感じ方が変わることが分かっています。

③ 時間帯

痛みは一日中一定ではありません。

体内時計(概日リズム)の影響で、

  • 朝は楽
  • 夕方になると痛い

という変化が起こることがあります。

コルチゾール:朝に高く、夜に低くなる

メラトニン:夜に増え、眠気を促す

自律神経:時間帯によって交感神経・副交感神経のバランスが変わる

炎症性サイトカイン:日内変動がある

下行性疼痛調節系(DPMS):時間帯によって痛みを抑える働きが変化することが報告されている

そのため、同じ姿勢でも時間帯によって痛みが違うのは自然な現象です。

④ 自律神経

交感神経が優位になると、

  • 身体が緊張する
  • 血流が低下する
  • 痛みに敏感になる

ことがあります。

逆に、安心してリラックスできる環境では、痛みが和らぐ人も少なくありません。

⑤ 炎症も毎日同じではない

炎症には、

  • 運動量
  • 睡眠
  • ストレス
  • 感染症

などが影響します。

炎症性物質が増えると、神経が刺激に反応しやすくなり、同じ姿勢でも痛みを感じやすくなることがあります。

⑥ 前日の活動量

「昨日たくさん歩いた」

「長時間運転した」

「一日中座っていた」

こうした前日の活動も翌日の痛みに影響します。

必ずしも「傷ついた」わけではなく、筋疲労や神経の過敏性が変化している場合もあります。

⑦ ホルモン

女性では月経周期、男性ではテストステロンなど、ホルモンの変化も痛みの感じ方に影響します。

特に女性では、月経周期に伴って片頭痛や腰痛、関節痛が変動することがよく知られています。

⑧ 「今日は痛そう」という予測

脳は常に、

「この動きは危険か?」

を予測しています。

以前に強く痛かった姿勢では、

身体に大きな異常がなくても、脳が警戒して痛みを強く出力することがあります。

このような「予測」は、現在の疼痛科学で重要なテーマの一つです。

⑨ 注意や恐怖

痛みに意識が集中すると、痛みは強く感じられやすくなります。

また、

「また痛くなるのではないか」

という恐怖も、痛みを増幅させる要因になることが知られています。

⑩ 痛みは一つの原因では説明できない

現在の疼痛科学では、

痛みは

  • 身体の状態
  • 神経系
  • 自律神経
  • 免疫
  • ホルモン
  • 睡眠
  • 心理状態
  • 過去の経験
  • 社会環境

など、多くの要素が重なって生じると考えられています。

その日の痛みは、その日の身体全体のコンディションを反映した結果ともいえるでしょう。

臨床で大切なこと

だからこそ、

「今日は痛い」

という一日だけで、

「悪化した」

と判断することはできません。

評価するときには、

  • 睡眠
  • 疲労
  • ストレス
  • 時間帯
  • 活動量

なども合わせて確認することが重要です。

患者さん自身も、「痛み=身体が壊れている」と決めつけず、生活全体を振り返る視点を持つことで、不安や過度な活動制限を減らせる可能性があります。

まとめ

同じ姿勢でも痛みが変わるのは、不思議なことではありません。

痛みは、その日の身体だけでなく、睡眠やストレス、自律神経、炎症、ホルモン、脳の予測など、さまざまな要因の影響を受けています。

つまり、痛みは身体だけで決まるものではなく、「その日のコンディション」を映し出す一つのサインでもあるのです。

痛みを正しく理解することは、不必要な不安を減らし、より良いセルフマネジメントにつながります。

参考文献(一部)

  • Staffe AT, et al. PLoS ONE. 2019.
  • Alexandre C, et al. Effect of Sleep Loss on Pain. 2023.
  • Mills EP, et al. Pain Reports. 2019.
  • Wiech K. Nature Reviews Neuroscience. 2016.
  • Tracey I, Mantyh PW. Neuron. 2007.
  • Raja SN, et al. IASP Revised Definition of Pain. 2020.

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