頭皮鍼点は、なぜ「そこ」なのか

リハビリ

“ツボの正確さ”より、神経の重なりで考える

第1回・第2回をふまえ、「鍼を打つ場所」の意味をやさしく考えます。

第1回では「頭皮鍼は脳の血流を増やす可能性がある」、第2回では「三叉神経がそのスイッチの一つになる可能性がある」とお伝えしました。

今回のテーマは、患者さんやご家族からよくいただく素朴な疑問です。

「打つ場所は決まっているの?」
「場所が少しずれたら効かないの?」

頭皮鍼を受けたことがない方ほど、こうした疑問を持つのは自然なことです。

頭皮鍼には「よく使う場所」がある

頭皮鍼には、長年の臨床経験の中で使われてきた“よく使う場所”があります。

動かしにくい手足に対して使われる場所。
バランスや歩行に対して使われる場所。
言葉や飲み込みに関連して使われる場所。

こうした場所は「コア頭皮鍼点」と呼ばれることがあります。

では、なぜその場所なのでしょうか。

これまでは、

「頭皮のその場所が、脳のその働きを担当する部分の真上にあるから」

と説明されることが少なくありませんでした。

もちろん、この考え方には一定の根拠があります。

しかし近年は、それだけでは説明しきれない可能性も指摘されるようになっています。

注目されているのは「神経の集まり方」

2023年に発表されたレビュー論文では、頭皮鍼の作用を説明する新しい視点として、三叉神経を中心とした神経ネットワークに注目しています。

三叉神経は、おでこ・こめかみ・頭皮前方など広い範囲の感覚を脳へ伝える大きな神経です。

さらに頭皮には、

  • 三叉神経
  • 後頭神経
  • 耳介側頭神経
  • 顔面神経周囲の神経線維

など、さまざまな神経が分布しています。

頭皮鍼でよく使われる場所の中には、こうした神経が比較的密に集まり、互いに重なり合う領域が少なくありません。

そのため研究者らは、

効きやすい場所は、脳の地図との関係だけでなく、神経ネットワークの特徴とも関係している可能性がある

と考えています。

見方が変わるポイント

これまでのイメージ

頭皮の点

脳の特定部位

効果が出る

新しい考え方

頭皮の刺激

神経ネットワーク(三叉神経など)

脳血流や脳機能へ影響

回復を支える可能性

もちろん、脳機能局在という考え方が否定されたわけではありません。

近年は、

「脳の地図」と「神経ネットワーク」

の両方から頭皮鍼を理解しようとする見方が広がっています。

だから数ミリのズレで台無しにはならない

この考え方は、患者さんにとって安心材料になるかもしれません。

頭皮鍼は、

「1ミリでもズレたら効かない」

というものではありません。

研究では、頭皮の特定の一点だけが特別というより、ある程度広い範囲の刺激でも脳血流の変化が起こる可能性が示されています。

そのため、

  • ある程度は場所に意味がある
  • しかし一点だけが絶対ではない

という理解が現在の知見に近いと考えられます。

研究者はこれを「相対的特異性(relative specificity)」と表現しています。

難しく聞こえますが、

「場所は大事だけれど、神経質になるほど厳密ではない」

というイメージです。

だからこそ個別性が生まれる

場所が一点に固定されていないということは、

患者さんごとの状態に合わせて組み立てられる

ということでもあります。

脳卒中後といっても、

  • 麻痺の程度
  • 痛みの有無
  • バランス能力
  • 歩行状態
  • 疲労の強さ

は一人ひとり違います。

リハりんでは、理学療法士・鍼灸師の両方の視点から評価を行い、その日の状態を見ながら刺激部位を選択しています。

MSSA(動作式頭皮鍼)との相性

この考え方は、動作式頭皮鍼(MSSA)とも相性が良いと考えられます。

もし頭皮鍼が厳密な一点だけで成立する治療なら、動きながら刺激することは難しくなります。

しかし実際には、神経ネットワークを介した作用も考えられているため、動作練習と組み合わせながら刺激を行うことには一定の合理性があります。

ただし、

MSSAそのものの優位性が十分に証明されたわけではありません。

今後さらに研究が進むことが期待されています。

まとめ

頭皮鍼の「効きやすい場所」は、単純に脳の地図だけで決まるわけではないかもしれません。

近年は、

  • 脳の機能局在
  • 三叉神経を中心とした神経ネットワーク

の両方から理解しようとする考え方が注目されています。

この視点に立つと、

「場所は大事。でも数ミリのズレで全てが決まるわけではない」

という、患者さんにとっても現実的で安心できる理解につながります。

次回からは、こうした仕組みが脳卒中後の麻痺や歩行障害、痛みなどの症状にどのように関わるのかを見ていきます。

※本記事は研究論文の内容を一般向けに解説したものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。治療については担当の医療職へご相談ください。

出典

Frontiers in Neuroscience

Jin GY, et al. Neural control of cerebral blood flow: scientific basis of scalp acupuncture in treating brain diseases. Front Neurosci. 2023;17:1210537.

PMID: 37650106

リハりん 訪問リハビリ・鍼灸
理学療法士・鍼灸師 金野広大
pacupuntura.com
riharin.kk@gmail.com

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