下行性疼痛抑制系とは
監修:理学療法士・鍼灸師 金野広大(リハりん)
「痛みは患部で感じるもの」
そう思われることが多いですが、実は痛みは患部だけで決まるものではありません。
同じケガをしても、
- とても痛い人
- あまり痛くない人
がいるのはなぜでしょうか。
その答えの一つが、脳に備わっている「痛みを抑えるシステム」にあります。
今回は鍼灸の鎮痛作用を説明するうえで欠かせない、
下行性疼痛抑制系(かこうせいとうつうよくせいけい)
について解説します。
痛みは脳が作り出している
例えばサッカー選手が試合中に足を痛めても、その場では気付かずプレーを続けることがあります。
ところが試合後になると急に痛くなる。
これは不思議なことではありません。
痛みは単純に患部から発生するものではなく、
脳が必要に応じて強めたり弱めたりしている
からです。
実は脳には、
「今は痛みを抑えろ」
という指令を出す仕組みがあります。
これが下行性疼痛抑制系です。
脳から脊髄へ送られる「痛みを消す指令」
痛みの情報は、
患部
↓
末梢神経
↓
脊髄
↓
脳
という流れで伝わります。
しかし実際には逆方向の流れも存在します。
脳
↓
脊髄
↓
痛み抑制
という経路です。
脳は状況に応じて、
「この痛み信号は弱めてよい」
と判断すると、脊髄に向けて抑制命令を送ります。
いわば、
脳が持つ痛みのボリューム調整機能
です。
セロトニンとノルアドレナリン
このシステムで重要なのが、
- セロトニン
- ノルアドレナリン
という神経伝達物質です。
これらは脳幹から脊髄へ放出され、
痛み信号が脳へ上がるのを抑えます。
最近の慢性痛研究では、
このシステムがうまく働かなくなることが、慢性痛の原因の一つと考えられています。
鍼刺激で何が起きるのか
鍼刺激は皮膚や筋肉にある神経を興奮させます。
その刺激が脳幹に伝わることで、
下行性疼痛抑制系が活性化される可能性が示されています。
すると、
- セロトニン
- ノルアドレナリン
の働きが高まり、
脊髄レベルで痛み信号が抑えられます。
つまり鍼は、
患部だけを治療しているのではなく、脳の痛み抑制システムそのものに働きかけている可能性がある
のです。
慢性痛との関係
肩こりや腰痛が長期間続くと、
本来働くはずの痛み抑制システムが低下していることがあります。
すると小さな刺激でも強い痛みを感じるようになります。
近年では、
- 慢性腰痛
- 線維筋痛症
- 慢性頸部痛
などの研究で、下行性疼痛抑制系の異常が注目されています。
鍼灸が慢性痛に用いられる理由の一つもここにあります。
まとめ
私たちの脳には、
痛みを抑えるためのシステム
が備わっています。
これを下行性疼痛抑制系と呼びます。
鍼刺激はこのシステムを活性化し、
- セロトニン
- ノルアドレナリン
といった神経伝達物質を介して、痛み信号を弱める可能性があります。
つまり鍼灸は、
脳が本来持っている「痛みを消す力」を引き出している治療
とも考えられるのです。
次回は、
「なぜ鍼のあと眠くなるのか? ― 自律神経と鍼灸 ―」
について解説します。


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