【第1回 鍼灸はなぜ効くのか?】

ホルモン

― エンドルフィンとエンケファリンという物質の話 ―

鍼灸は「天然の痛み止め」を引き出している?

「鍼をすると痛みが楽になるのはなぜですか?」

施術中によくいただく質問です。

昔は「気の流れが良くなるから」と説明されることもありましたが、近年の研究では、鍼灸の効果を神経科学の視点から説明できるようになってきました。

その中でも最も有名なのが、「体の中で作られる天然の痛み止め」が関係するという考え方です。

私たちの体にはもともと痛みを抑える仕組みがある

転んでケガをした直後はあまり痛くなかったのに、後から痛みが出てきた経験はありませんか?

実は人間の体には、強い痛みやストレスを受けたときに、自ら痛みを和らげる仕組みが備わっています。

そのときに働くのが、

  • エンドルフィン
  • エンケファリン
  • ダイノルフィン

といった物質です。

これらは総称して「内因性オピオイド」と呼ばれています。

難しい名前ですが、簡単に言うと、

体内で作られる天然の痛み止め

です。

モルヒネと似た働きをする

病院で使用されるモルヒネは非常に強力な鎮痛薬として知られています。

実はエンドルフィンなどの内因性オピオイドは、モルヒネと同じ受容体(オピオイド受容体)に作用します。

もちろん効果の強さは違いますが、

「体が自分で作る鎮痛物質」

という点では非常によく似た働きをしています。

つまり鍼灸は薬を入れる治療ではなく、

体の中にもともと備わっている鎮痛システムを活性化する治療

と考えることができます。

鍼をすると何が起きるのか?

鍼が皮膚や筋肉に入ると、その刺激は神経を通じて脳へ伝わります。

すると脳や脊髄でエンドルフィンやエンケファリンの分泌が促されます。

その結果、

  • 痛みを感じにくくなる
  • 筋肉の緊張が和らぐ
  • リラックスしやすくなる

といった変化が起こります。

施術中や施術後に眠くなる方がいるのも、この仕組みが関係していると考えられています。

研究でも確認されている

この仕組みを裏付ける有名な研究があります。

ナロキソンという薬があります。

ナロキソンはオピオイドの働きをブロックする薬です。

研究では、このナロキソンを使用すると鍼の鎮痛効果が弱くなることが確認されています。

つまり、

「鍼の鎮痛効果には内因性オピオイドが関与している」

ことを示す有力な証拠の一つと考えられています。

慢性的な痛みにも関係する可能性

肩こりや腰痛などの慢性痛では、本来働くはずの痛み抑制システムが十分に機能していないことがあります。

そのため近年では、

「鍼刺激によって低下した鎮痛システムを再活性化できるのではないか」

という研究も進められています。

もちろん全ての痛みが治るわけではありません。

しかし、鍼灸が単なる気休めではなく、神経科学的な根拠を持つ可能性が示されているのです。

まとめ

私たちの体には、もともと痛みを抑える仕組みがあります。

鍼灸はその仕組みを利用して、

  • エンドルフィン
  • エンケファリン

といった天然の鎮痛物質の働きを促していると考えられています。

痛み止めを体の外から入れるのではなく、

体が本来持っている回復力や調整機能を引き出す。

それが鍼灸の大きな特徴の一つです。

次回は、

「脳には痛みを消す機能がある? ― 下行性疼痛抑制系とは ―」

について解説します。

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