「握力が弱いと認知症になりやすい」は本当か?最新研究が示すこと
監修:理学療法士・鍼灸師 訪問リハビリ「リハりん」
「握力が弱くなると認知症になる」——そんな話を聞いたことはあるでしょうか?
実は、この関係は単なる迷信ではありません。近年、10万人を超える大規模研究をはじめ、多くの研究で「握力の低下と認知機能低下・認知症リスクとの関連」が報告されています。
もちろん、握力が低いから必ず認知症になるわけではありません。しかし握力は、筋肉だけでなく、脳や血管、神経、活動量など全身の健康状態を反映する重要な指標として注目されています。
今回は最新の研究をもとに、「握力と脳」の意外なつながりについてわかりやすく解説します。
1. 握力と認知症リスク:大規模研究が示した結果
2022年、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究チームは、英国の大規模コホート研究「UK Biobank」に参加した39〜73歳の約19万人を平均11.7年間追跡しました。
その結果、握力が弱い人ほど認知症を発症するリスクが高いことが明らかになりました。
握力5kg低下ごとの認知症リスク
| 項目 | 主な結果 |
| 認知症全体 | 男性1.16倍、女性1.14倍 |
| アルツハイマー型認知症 | 男性1.11倍、女性1.13倍 |
| 血管性認知症 | 男性1.23倍、女性1.20倍 |
| 認知機能テスト | 有意な成績低下 |
これらの結果は、年齢・学歴・運動習慣・BMI・血圧・糖尿病など多くの要因を調整した後でも認められました。
つまり握力は、単なる筋力指標ではなく、将来の認知機能低下を予測する重要なサインになり得ることが示されたのです。
2. MRI画像で見えた「脳の変化」
同研究では約3万8000人分のMRI画像も解析されました。
その結果、握力が低い人ほど「大脳白質病変」が多いことが確認されました。
海馬との関係
認知症で注目される「海馬容積」については、握力との関連は明確ではありませんでした。
一方で、白質病変については明らかな関連が認められました。
握力5kg低下ごとの白質病変増加量
- 男性:+92.22 mm³
- 女性:+83.56 mm³
3. 大脳白質病変とは何か?
白質病変(White Matter Lesions:WML)とは、脳の神経線維が傷ついた状態を指します。
脳は大きく分けると、
- 灰白質(神経細胞の集まり)
- 白質(神経細胞同士をつなぐ神経線維)
で構成されています。
白質は脳内ネットワークの「通信ケーブル」のような役割を担っています。
白質病変が起こる主な原因
① 高血圧や動脈硬化による脳の細血管障害
② ミエリン(神経線維を覆う絶縁体)の変性
③ 軸索損傷による情報伝達効率の低下
その結果、
- 処理速度低下
- 注意力低下
- 遂行機能低下
- 記憶力低下
などが生じやすくなります。
白質病変は加齢に伴い誰にでもみられますが、その量が多いほど認知機能低下、血管性認知症、転倒、抑うつとの関連が強くなることが知られています。
握力の低下と白質病変が関連する背景には、
- 血管機能の低下
- 慢性炎症
- 身体活動量の低下
- 神経栄養因子(BDNFなど)の減少
が関与している可能性が考えられています。
つまり握力は、「脳の血管と神経の健康状態」を反映するバロメーターともいえるのです。
4. 握力と認知機能はなぜ関連するのか?
2026年にScientific Reportsに掲載された研究では、高齢者382名を対象に、握力・認知機能・生活圏・抑うつの関係が分析されました。
この研究は横断研究であり因果関係を証明するものではありませんが、握力と認知機能の関連を説明する可能性のある経路が示されています。
認知機能との関連を説明する経路
① 直接経路(56.9%)
神経系や身体機能の共通基盤を介して、握力と認知機能が直接関連していました。
② 生活圏を介した経路(17.5%)
握力が低い人ほど活動範囲が狭くなり、そのことが認知機能低下と関連していました。
③ 抑うつを介した経路(17.1%)
握力低下は抑うつ症状とも関連し、それが認知機能低下に関与していました。
④ 生活圏の縮小→抑うつ→認知機能低下(8.5%)
活動範囲の減少が気分の落ち込みにつながり、結果として認知機能低下と関連していました。
つまり、
「握力低下 → 活動量低下 → 外出機会減少 → 抑うつ → 認知機能低下」
という悪循環が生じる可能性が示唆されています。
5. 握力は認知機能低下の早期サイン
複数の縦断研究では、現在の握力が数年後の認知機能や認知症発症リスクと関連することが示されています。
そのため握力は、
「将来の認知機能低下を予測するバイオマーカー」
として注目されています。
ただし、
「握力低下が認知症を直接引き起こす」
ことが証明されたわけではありません。
握力と認知機能は、
- 加齢
- 血管障害
- 身体活動量
- 栄養状態
- 慢性炎症
など共通の要因の影響を受けている可能性があります。
重要なのは、「握力が弱くなってきた」という変化を全身の健康状態を見直すサインとして捉えることです。
6. 「握力を鍛えれば認知症を防げる」のか?
ここで誤解してはいけないのは、
「ハンドグリップだけ鍛えれば認知症を防げる」
わけではないということです。
国立長寿医療研究センターも、握力は全身の筋力や身体予備力を反映する指標であり、認知機能維持を予測するバロメーターとして活用できるとしています。
つまり本当に重要なのは、
- 歩く
- 筋力トレーニングをする
- 外出する
- 趣味を続ける
- 人と交流する
といった全身的な活動を維持することです。
7. 訪問リハビリ・鍼灸でできること
リハりんでは、このような研究エビデンスをもとに、認知機能と身体機能の両面からサポートを行っています。
訪問リハビリ
- 筋力・バランス能力向上のための運動指導
- 転倒予防
- 外出機会や活動量の向上支援
鍼灸
- 痛みや痙縮の軽減
- 身体活動量向上のサポート
- 睡眠の質の改善
- 自律神経機能の調整
- リハビリ継続を支える補助的アプローチ
「最近、手に力が入りにくい」
「ペットボトルのフタが開けづらくなった」
そんな変化は、筋力だけでなく全身の健康状態の変化を示しているかもしれません。
気になる方はお気軽にご相談ください。
まとめ
この記事のポイント
✅ 握力が5kg低下すると認知症リスクは約1.1〜1.2倍上昇
✅ 握力が低い人ほど白質病変が多い
✅ 白質病変は脳の情報伝達ネットワークの障害を反映する
✅ 活動量低下や抑うつも認知機能低下との関連に関与する
✅ 握力は脳・血管・神経・筋肉の健康状態を反映する重要な指標である
✅ 握力低下は将来の認知機能低下を予測する早期サインになり得る
参考文献
- Jiang R, et al. Associations between grip strength, brain structure, and mental health in >40,000 participants from the UK Biobank. BMC Medicine. 2022.
- Nie X, et al. The Relationship Between Grip Strength and Cognitive Impairment: Evidence From NHANES 2011–2014. Brain and Behavior. 2025.
- Grip strength and cognitive function of older adults through the chain mediating effect of life space mobility and depression. Scientific Reports. 2026.
- 国立長寿医療研究センター. 握力は活力のバロメーター(2)~握力は認知機能維持を予測する?
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