「鍼を刺しながら動かすと、なぜ痙縮がやわらぐのか?」

リハビリ

動作式頭皮鍼(MSSA)の作用メカニズムを示す研究をわかりやすく解説

脳卒中後の後遺症としてよくみられる「痙縮(けいしゅく)」。

手が握ったまま開きにくい、肘が曲がったまま伸びない、足が突っ張って歩きにくい――そんな症状に悩まれている方は少なくありません。

リハりんでは、この痙縮に対して「動作式頭皮鍼(Motion-Style Scalp Acupuncture:MSSA)」という方法を取り入れています。

MSSAとは、頭皮鍼を行いながら同時に歩行や上肢運動などのリハビリを行う方法です。

では、なぜ「鍼を刺しながら動く」と痙縮がやわらぐのでしょうか?

2025年に北京中医薬大学の研究チームが、その仕組みの一端を示す研究を発表しました。

今回はその内容をできるだけわかりやすく解説します。


そもそも痙縮とは?

脳卒中で脳の運動をコントロールする部分が損傷すると、脳から筋肉へ送られる指令がうまく伝わらなくなります。

すると脊髄の反射活動が過剰になり、筋肉が必要以上に緊張しやすくなります。

これが「痙縮」です。

痙縮が強くなると、

  • 手が開きにくい
  • 肘が伸びにくい
  • 足首が硬くなる
  • 歩きづらくなる

などの日常生活への影響が大きくなります。


今回の研究で注目された「神経のブレーキ」

今回の研究では、痙縮に関係する2つの重要な仕組みが調べられました。

KCC2(カリウム・塩化物共輸送体2)

名前は難しいですが、簡単に言うと

「神経のブレーキ役」

です。

脊髄の神経は興奮しすぎると筋肉を必要以上に収縮させます。

KCC2はその興奮を抑える働きを持っています。

脳卒中後にはKCC2が減少することが知られており、神経のブレーキが効きにくくなることで痙縮が起こりやすくなると考えられています。


5-HT2AR(セロトニン2A受容体)

こちらも難しい名前ですが、

「セロトニンの信号を受け取るアンテナ」

のようなものです。

セロトニンは脳や脊髄で働く神経伝達物質です。

今回の研究では、この5-HT2ARが活性化するとKCC2の働きが回復しやすくなる可能性が示されました。

つまり、

5-HT2AR → KCC2 → 神経のブレーキ回復

という流れが考えられています。


研究では何をしたの?

研究チームは脳梗塞を起こしたラットを使って比較を行いました。

グループは4つです。

  • 何もしない群
  • 頭皮鍼のみの群
  • 頭皮鍼+運動を同時に行うMSSA群
  • 健康なラット群

MSSA群では頭皮鍼を行いながらトレッドミル歩行を実施しました。

その後、

  • 神経症状
  • 筋緊張
  • 脳血流
  • 脳梗塞の大きさ
  • 脊髄の興奮状態
  • 神経関連タンパク質

などを詳しく調べています。


結果① 脳血流が改善した

MSSA群では脳梗塞周囲への血流が増加していました。

脳梗塞では傷ついた部分の周辺にも血流不足が起こります。

この周辺部は「ペナンブラ」と呼ばれ、救える可能性のある脳組織です。

研究ではMSSA群でこの領域への血流改善が認められ、梗塞面積も小さくなる傾向がみられました。


結果② 脊髄の興奮が落ち着いた

研究では「H反射(エイチはんしゃ)」という検査が使われました。

H反射は、

脊髄がどれくらい興奮しやすいかを調べる検査

です。

膝を叩くと脚が跳ねる反射がありますが、それを電気刺激でより正確に測定するようなイメージです。

痙縮が強いほど、この反射は過剰になりやすいことが知られています。

今回の研究ではMSSA群でH反射が改善し、脊髄の過剰な興奮が抑えられた可能性が示されました。


結果③ 神経のブレーキが回復した

研究者はさらに、

  • KCC2
  • 5-HT2AR

が実際に増えているかを調べました。

そこで使われたのが

Western blot(ウエスタンブロット)

特定のタンパク質の量を調べる検査です。

簡単に言えば、

完成した部品の数を数える検査

です。


RT-qPCR

こちらは遺伝子の働きを調べる検査です。

簡単に言えば、

部品を作るための設計図がどれだけ使われているかを見る検査

です。


研究の結果、

  • KCC2が増加
  • 5-HT2ARが増加

していることが確認されました。

さらに5-HT2ARを薬でブロックするとMSSAの効果が弱くなり、逆に5-HT2ARを活性化すると似たような変化が起こりました。

これらの結果から、

MSSAは5-HT2ARを介してKCC2を回復させ、神経のブレーキ機能を改善している可能性がある

と考えられています。


なぜ「鍼を刺しながら動く」と良いのか?

今回の研究からは、MSSAが2つの方向から働いている可能性が考えられます。

① 脳への作用

頭皮鍼によって脳血流を改善し、脳組織を保護する可能性

② 脊髄への作用

運動刺激によって神経のブレーキ機能を回復し、痙縮をやわらげる可能性

この2つが同時に働くことで、頭皮鍼単独よりも大きな効果が得られるのではないかと考えられています。


リハりんでの取り組み

リハりんでは、このMSSAの考え方を取り入れ、

  • 頭皮鍼
  • 歩行練習
  • 上肢機能練習
  • 日常動作練習

を組み合わせて実施しています。

もちろん今回の研究はラットを対象とした基礎研究であり、人に同じ結果がそのまま当てはまるとは限りません。

しかし近年は、頭皮鍼と運動療法を組み合わせるアプローチを支持する研究が増えてきています。


まとめ

  • 痙縮は脊髄の神経が興奮しすぎることで起こる
  • KCC2は神経のブレーキ役
  • 5-HT2ARはセロトニンの信号を受け取るアンテナ
  • MSSAは脳血流改善と神経のブレーキ回復の両方に関与する可能性がある
  • ラット研究で分子レベルの変化が確認された
  • 今後は人を対象とした研究の蓄積が期待される

【出典】
Zhang Q-Y et al. Motion-Style Scalp Acupuncture Ameliorates Post-Stroke Muscle Spasticity Through Cerebral Blood Flow Augmentation and 5-HT2AR-Mediated Spinal KCC2 Reactivation. Brain and Behavior. 2025;15:e71064.

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